第29話 飛来せし災禍の剣
しばらく走っていると、機関車の外を見張っていた兵士が中に入ってきた。
「魔王様!白いドラゴンがこちらを追跡しています。確認しておいた方が良いかと……」
外を見ると、遠くに白いドラゴンが飛んでいるのが分かった。機関車がまだ市民に提供できない理由の一つに、ドラゴンの縄張りを突っ切るという事があるらしい。ドラゴンくらいなら魔王の敵ではないし、僕達に大した影響は無いだろう。後ろの貸車に乗ると、魔王は槍を構えて詠唱する。
「一閃を以て射殺さん……穿て!神槍グングニル!!」
槍を投げて、撃墜しようと試みたがドラゴンはそれを軽々と回避する。そして、機関車の後ろまで凄まじい勢いで飛んできた。よく見ると、ドラゴンの上にはこの前アリンちゃんと交戦し完敗させた般若の面を着けた剣士が乗っていた。そして、ドラゴンは地面に向けて火を吹き始める。
「アイズオブメデュサ!!」
それを見たカインが結界を張る。しかしドラゴンが吐く炎は次第に青白い光線のようなものに変わり、威力を増す。
「くぅぅぅっ!!!!」
カインの力も限界が近い。彼を助けようとしたのかアリンちゃんは、機関車の屋根に飛び乗り、ドラゴンと般若面に攻撃を試みる。
「
彼女が放った氷を纏った刃がドラゴンの翼を傷付ける。
「グアアアォォ……!!」
アリンちゃんの攻撃を受けたドラゴンは一度離脱し、体勢を整えると再度こちらに戻ってきた。そしてドラゴンは彼女に突撃する。気づけばもう目と鼻の先にドラゴンがいた。その上に乗る般若面は、ドラゴンの首から頭ほどまである長い刀をアリンちゃんに向けて振りかざす。
「はあっ!」
アリンちゃんは、刀と刀がぶつかる力を上手く使ってドラゴンの上に乗ると頭に刀を突き刺して攻撃する。
「グォァ……」
急所に攻撃を受けたドラゴンは、ついに制御を失って墜落する。しかし、次の瞬間にドラゴンが消えたかと思うと般若面はアリンちゃんに空中で斬りかかり、彼女を機関車の屋根に叩きつける。
「っはぁッ!!」
口から血を流しながらもアリンちゃんは立ち上がるが、非情にも般若面の攻撃は止まる気配が無い。長い刀で、まるで荒波のように激しい攻撃を繰り出しアリンちゃんを追い詰める。そして一歩引き下がると、まるで瞬間移動したかのようにアリンちゃんの前に詰め寄る。
「
目にも止まらぬ速さの剣を、アリンちゃんはなんとか去なした。しかし彼女が反撃に出る前に般若面が次の攻撃を繰り出す。
「
長い刀を切り上げると同時に不気味な風切り音がした。アリンちゃんの体には斜めに横断するように傷が付いた。
「うっ……!」
「アリンッ!」
魔王メイジーが彼女に加勢しようとその間に割って入る。
「これ以上はやらせません。どうしますか?諦めて捕まるか……それとも臓腑を撒き散らして死ぬか……」
メイジーが指を鳴らすと、般若面の周りを無数の魔法陣が囲った。般若面はメイジーにその長い
「歯向かいますか……なら死んで下さい。」
「メイジーさん……!止めて下さい!!」
何故かアリンちゃんは魔王を止めようとしたが、魔王には恐らくその声は届いていない。
「光の元、灰塵に帰せ……!」
魔王は魔法陣から無数の光の玉を放出し蜂の巣にしようとする。
「止めてぇ……!!うわああん……!!」
その間、アリンちゃんはまるで何かに憑かれたかのように泣き叫んでいた。魔王が攻撃を終えたが、そこには顔を押さえて血を流しながら立つ男の姿があった。
「あなた……もしかして……!?」
魔王が驚いたのも無理はないそこに立っていたのはアリンちゃんの兄……リンだったのだ。
「やっぱり……お兄ちゃんだ……」
「……亜燐……やめろ……その呼び方をするなぁぁあぁ!!!」
リンは一瞬アリンちゃんの声に悲しそうな顔を見せたがその直後、怒りを露にして襲い掛かる。
「うぅっ……!」
長刀が肩を掠めてアリンちゃんは、屋根の上で倒れかけてしまう。
「はあっ!!」
怒り狂って止めを刺そうとするリンの攻撃を、魔王が受け止めて弾き返す。
リンは反撃を受けて機関車から地面に落とされる。そしてどこからかさっきの白竜を呼び出して飛び去っていった。
「そっか……やっぱりお兄ちゃんは……」
アリンちゃんは涙を流しながら剣をしまう。そんな彼女を抱えて、魔王は貸車に戻ってきた。
「治療をお願いします。」
彼女はそうとだけ告げ、客車に戻っていった。僕は、他の皆に向かって声をかける。
「これくらいなら僕でも治せるよ。君達も戻ってくれ。」
そう僕が言うと、皆は客車に戻って行った。
「ありがとう、二人きりにしてくれて。あんまりみんなに心配かけたくないから……」
アリンちゃんは涙を流しながら、僕にしがみつく。傷口から血が流れて、僕の茶色い服に黒いシミを作っていく。
「えぅっ……やっぱり…っ…私戦えないよぉっ……!!うぇぇぇん!!!」
僕は彼女を慰めながらしばらく子どもみたいに泣きじゃくる彼女の背をしばらくなでてやった。そうしている間も、僕は彼女の傷を癒し続ける。
「君にとってすごく大事な人だもんね……仕方ないよ。よしよし……」
そうしているうちに、彼女はだんだん気持ちを落ち着けていった。
「ホントはこんな事言っちゃダメかもしれないんだけど、お兄ちゃんがメイジーさんの魔術をほとんど弾いてたのがちょっと嬉しかった。私のそばにいて、いつも見守っていた強いお兄ちゃんはそのままだったから。」
確かに、彼女にとってはリンがその強さで生き延びてくれたのは嬉しい事だろう。とはいえ、これは彼と遭遇したらそう簡単には勝てないという事でもある。少し考えて、僕は彼女を励まそうと言葉をかける。
「君の兄さんさんだってやりたくてやってる訳じゃない。僕達で止めなくちゃ。だから、今は立って。」
ちょうどアリンちゃんの傷は治癒した。彼女はすっと立ち上がり、僕を再び抱き締める。
「戻ろっか。みんなが待ってる。」
「……うん。」
アリンちゃんの弱みが可愛いくて守りたくて支配したくて……こんな最低な自分に、思わず笑みがこぼれる。
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