7.魔王VS新種
最大望遠で捉えた漆黒の要塞が大型モニタに映し出される。アレの姿は、先ほどまでは視認できなかった。高精度の光学迷彩で隠蔽し、更には熱探知やレーダーにも反応はなかった。だが、
『縮退炉が自ら突撃してくるとは、好都合だ』
僅かに気色を含む声に反応するように、腕とも脚ともつかぬ異形の触手が、水気を含む音を立てながらうごめく。
『我らの"欲求"を阻むものは……、全て滅ぼしてくれる……』
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魔導艦ファフニールが魔王ファフニールに変形することで、艦橋の大半が折りたたまれ格納されてしまいます。ただ一か所、艦長席を残して。
アッシュが変形時に残してくれたのかもしれません。私はその艦長席に着席します。変形に伴い周囲空間が閉じ、艦長席の据え付けモニターと各種モニターが私の周囲に集まり、全周囲モニターを形成します。
『さぁ、いこう!』
「はい!」
魔王ファフニールが飛び立ちます。私たちに向け、多数のエグゾスーツ部隊が接近してきます。
『これから帰還軍の仲間を攻撃する。もし見たくないなら……』
彼はおかしなことを言います。ここまで私を連れ出しておいて今更……。思わず少し笑いが漏れてしまいます。
「大丈夫です。一緒に戦います」
『わかった、頼む!!』
『グオォォォォォォォッ!!』
魔王が吠え、
それらはアッシュの
『接近するっ!』
グンッと重圧がかかり、アッシュは一気にエグゾスーツ隊へと接近し、鋭い爪を振り下ろします。彼らがそれを重力障壁で防ぐ、とわかっていた私は、その障壁を妨害しました。アッシュの爪はエグゾスーツを切り裂き、刻まれた彼らは落下していきます。
私とアッシュは重力と
『大丈夫? 少し下がろうか』
「いえ、まだいけます」
『っ!』
アッシュは突然、頭上に強力な
「み、味方ごと!?」
『そんなとこにいたのかぁ! 重撃姫ぃぃ!! やっと見つけたぜぇぇぇぇぇぇぇ!!』
アッシュが構えた両腕に、濃密な赤い燐光を放つ巨大な鞭のような腕が叩きつけられました。
「大型エグゾスーツ!?」
声は間違いなくエムルスのモノですが、姿が大きく異なります。これまでのノーマルサイズエグゾスーツではなく、大型エグゾスーツです。それも、ここまで見たことのない多段関節を持つ大型エグゾスーツ。それも両手のみならず両足までもが多段関節で、その身体からは恐ろしく濃厚な赤い燐光を放っています。
『あっはっはっはっはっはっ、オラオラオラオラオラァアッァァ!!』
胴体をぐるぐると回転させながら、両手両足の四肢を鞭のように振り回してアッシュを襲います。
アッシュは
『そんなもんかぁぁぁ!? 仰々しい見た目ばっかりでぇ、性能はさっぱりだなぁぁ!!』
──合わせて
いつもと違う、アッシュの声が聞こえました。私は導かれるように右手を突き出し──
同時にファフニールも右腕を突き出します。完全に同時に放出された斥力と
『ぎゃぅっ!』
大型エグゾスーツが大きく後方へのけ反り、ですがすぐに体を戻して再び触手が襲い掛かってきます。それをファフニールの爪が、いえ、アッシュと私が全て弾きます。
ファフニールの腕が私とシンクロ、いえ、私とアッシュがシンクロしています。同時に動き、同時に攻撃し、触手の攻撃を弾いていきます。
「負けません! 今地球に住む人たちを護ります!!」
『はっ! エセ人間護るために私たちを殺すのか!? "我々"希少種を犠牲にするとか偽善だな!!』
「火星人類を侵しておいて!!」
『元々寝床を侵して我らの祖を呼び起こしたのはお前らだろぉがぁぁ! その報いとして、私ら"新しい種"に淘汰されるんだよぉぉぉぉ!!』
視界が埋まるほどの赤い光。まるで世界全てが血に染められたかのように、赤黒い光を放つ触手が振り下ろされます。その一撃はファフニールの左腕を粉砕し、左肩から胴体を破壊していきます。
『ぐっ、フィルッ!!』
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
破壊の余波は、胸部中央にあった私の座席をも襲い、私は宙へと投げ出されました。
世界がスローに見えます。外に投げ出された私には、ファフニールの頭部や上半身の大半が失われた様が見えました。赤い波動は私の装備をも襲い、左のガントレットは完全に破壊されてしまいました。
ファフニールの腹部、金色の球体に亀裂が走り白い光が漏れだします。あれはPEバッテリーでしょうか……。私はその白い光に飲まれました。
──フィル!!
──アッシュ?
白い光の中、いつものアッシュがそこに居ます。いえ、何か違います。いつもよりも近い感じがします。ただの立体映像じゃない、もっと近い存在として感じます。
手を伸ばすアッシュに、私もその手を重ねます。不思議です、手を握ることができました。感触も感じます。
「一緒に……」
「うん……」
眼を開いた私の視線の先にはエムルスが居ました。私は白い光に覆われていますが、そこにはアッシュを感じます。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
『死ねぇぇぇぇぇぇ!!』
私に向かって突き出されてくる赤黒い触手。私は心を落ち着け、そして何度も行った型に沿って右手を突き出します。
重撃格闘 重崩撃
私の動きに合わせ、大半が失われ、でもまだ残ったファフニールのボディが右腕を突き出します。真正面から衝突した赤黒い触手とファフニールの右腕。そして右腕は触手を破壊しました。
『なにぃぃ!?』
触手を貫いた右腕はエムルスの胴体を捉え、激しい破壊の波が彼女と大型エグゾスーツを撃ち抜きました。
『ごばぁぁっ!』
スーツの内部外部を悉く破壊され、強力な
「どう……して……、わた、し……、負け……た……くない……」
彼女の全てが消失し、エグゾスーツの残骸が落下していきます。
私には彼女を救うことも、慰める言葉をかけることもできません。今できることは……
「アレス……」
旗艦アイテール、そこに巣食うであろう存在を幻視しました。
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