6.進撃
『あっはっはっはっはっ!! 出てきなさいよ重撃姫ぃぃ!! 中にいるんだろぉぉ!!』
まだ生きているモニターからは、エムルスの下品な笑い声が響いています。
「ぐっ」
墜落の衝撃でどこかに頭をぶつけたのでしょうか、少しぼんやりする頭を振って意識を覚醒させます。
見通しが甘かった……。ステルス機能だけでは突破できませんでした。
「ここからどうしたら……!?」
衝撃で落ちたのでしょう、バックパックに入れてあるはずの通信端末が床に転がっています。そこには「メッセージあり」の表示が……。
『──フィル……。もう、お前は自由だ……。お前は、お前の、幸せを……、な?』
「お、父さん……、間に、合わなかった……」
私のせいだ。私があんな連絡をしたから。リベレイターの人たちがあんな情報を聞いて、動かないわけがなかったんだ。縮退炉と一緒に情報を届けるべきだった! いや、縮退炉も届けられなかったかもしれない。だって今、"防衛要塞アーク"は墜落してしまっている。これも私のせいだ……。なにもかも私が……。
背後に人の気配がしました。それが誰なのか、私にはすぐにわかってしまいました。いや、むしろ気付かせるように近づいたのでしょう。
「……、私を捕らえに来たんですね……、よく、入り込めましたね……」
「敵もまだ混乱状態みたいだからな。俺とレインくらいなら忍び込めたよ」
コースケさんの声が聞こえます。たぶんレインさんも一緒でしょう。
責める言葉が来るでしょうか、批難されるでしょうか、言葉もなく拘束されるでしょうか、もしくは命すら……。
しかし、待っても彼らは何も言わず、何もしてきません。
「……、私はっ……」
私はこらえ切れず、口を開きました。喪失、苛立ち、後悔、でも一番は自分への怒り……、そんな感情が言葉となって溢れます。
「私は、何をしたかったんでしょうね……。誰にも何も言わないで……、一人で出て行って……、結局、間に合わなくて……」
視界が歪み、涙が溢れます。何に泣いているのでしょうか。私には涙を流す権利なんてないのに……。
「置いて行かれて、怒ってたぞ?」
『なっ、こいつはっ!!』
『フィルゥゥゥ!! 無事かぁぁぁぁぁぁ!!!』
モニタに映るエムルスは魔導艦ファフニールに銃撃され、遠方へと退避していきます。
「アッシュ……」
「相談してほしかったよ……、俺は仲間だと思ってたんだけどな……」
私はそれに応える言葉がありませんでした。もう応える資格もありません。
私は椅子から立ち上がり、コースケさんとレインさんが並び立つ前まで歩き、
「……、抵抗しません、拘束するなり、命をとるなり、してください」
私は両手を出し、拘束されるのを待ちました。
その手の上に、コースケさんの手が重なります。
「……、行こう、地球を、皆を救うために」
「え? で、でも、私は要塞を勝手に持ち出して……」
私の戸惑いをよそに、コースケさんはにやりと笑います。
「ん? 何を言ってるんだ? これは陽動だぞ? 隠密機能を最大限利用し敵陣へ強襲、混乱状態の敵に対してメディオ王国の最大戦力で攻撃、敵重力ジェネレータを押さえる!」
「え? え? え?」
「行くぞレイン!!」
「防衛要塞アーク浮上します、全武装起動、最大戦速、目標 敵旗艦アイテール」
いつの間にかメインコンソールシートに着席していたレインさんが、コースケさんの声に応じます。と同時に、停止していた全周囲モニターが再び外の景色を映し出します。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?」
私は混乱した内心を整理する間もなく、ただ驚き叫ぶことしかできませんでした。
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「レイン、アークを頼む。俺は露払いをしてくる」
「はい、気を付けて」
コースケは防衛要塞アークを操船しているレインに一声かけ、そして
「先に行ってるぞ」
フィルに目配せして、コントロールルームを飛び出していく。
両足のフィールド発生器が発する
防衛要塞アークの周囲は多数のエグゾスーツが取り囲み、要塞側兵器との激しい攻防が繰り広げられていた。
「
コースケの周囲に光る拳が無数に出現する。
「行けっ!」
それらが散開し、アーク周囲の敵機を次々撃墜する。幻影の拳に混じり、コースケ自身も敵機に接近し、
「っ!」
数十の敵機を落としたところで、何かに感づいたコースケはアーク進行方向に視線を向ける。
「圧巻だな……」
そこには空を埋め尽くすほどの敵影が犇めく。それらが右翼、左翼、中央、とアークを包囲するように迫ってくる。
左舷側に1隻の魔導艦が現れる。魔導艦の舳先に立つのはフィーデ。彼女は軽い跳躍で魔導艦から飛ぶ。彼女の動きに合わせ、船内のヴァラティ・ハーヴァシターは空中に不可視の足場を形成する。彼女は足場を渡り、まるで空を踊るように突き進む。同時に両手の爪が赤熱し、いつしか空を切り裂く赤い閃光へと変貌していく。
「ガァァァァァァァァァァッ!!」
咆哮せし赤い閃光はそのまま敵右翼に突入し、敵陣容を丸ごと切り裂くように縦横無尽に飛び回り、敵を惨殺していく。と同時にハーヴァシターが発する白光が敵陣を貫く。敵は右翼から中央部、果ては左翼に至るまで、赤と白の輝きによりズタズタに切り刻まれていく。
「さすが殲滅……、ハーヴァシター氏だ」
『シキナッ!! 貴様戻ったら覚悟シテオケッ!!』
思念通信でコースケの呟きを拾ったフィーデの怒号が響く。
「あ、あはは、フィーデ、もうハーヴァシター氏と息ぴったりだな」
『っ!?!?!、そ、ソンナことはないゾッ!』
だが彼女はチョロかった。
そんな彼らを止めるかの如く、ひときわ大きな敵影が20以上も上空に出現する。
大型エグゾスーツ、体長10mを超える駆動兵器。それは"着用"というよりは"搭乗"と表現すべき代物だ。火力、膂力、そして耐久力もノーマルサイズのエグゾスーツとは一線を画する。
大型エグゾスーツ達が、飛び回るフィーデを捉え──、だが、間近に居た2機は、瞬間バラバラに切り刻まれる。その影から現れたのは1機のマグナ。
『大物の相手は我々だ』
アルバート専用マグナは、背部から
大型エグゾスーツはアルバートを止めるべく、3機で一気に襲い掛かり──、そして3機全てが消し飛んだ。
『アル!! かっこよくキメてるとこ悪いけど、飛び出し過ぎて私の"槍"に当たらないでよ!』
防衛要塞アークの右舷側、更に魔導艦が現れる。その甲板上には深紅のマントをたなびかせるマグナが仁王立ちしている。
『え、エリーゼ様の槍になら!!』
アルバートは少々変態的気質が開花しつつあった。
「どうしよう、アルバートが気持ち悪い……」
コースケの呟きは戦闘の喧噪に消えた。
エリーゼのヴェタスマグナ「レミエル」の背部、2基の投槍砲が白煙を上げて排熱する。そしてマジックハンドが伸び、甲板上にある新たな"槍"を掴み、それぞれの砲身に装填される。
紫電を纏い、発射される投槍砲。全く視認不能なその槍は、軌跡に残る破壊痕だけがその存在を証明していた。
コントロールルーム内、全周囲モニターに映る彼らの戦い。フィルはそれをただ呆気にとられて見ることしかできなかった。その彼女の傍らに、一人の男が姿を現す。その姿は半透明で実体は無い。
『フィル……、手伝ってくれるかい?』
アッシュは魔導艦ファフニールを横づけにし、接触回線を通じてここに姿を出現させていた。
アッシュの言葉に一瞬迷う素振りを見せたフィルだったが、その瞳にはすぐに覚悟の光が宿った。
「……はいっ」
彼女は自身の持つ能力である重力操作で、重さを感じさせない軽やかなステップでコントロールルームを飛び出していった。
フィルが搭乗し、"魔導艦"から"魔王"に変形しつつ飛び立つファフニール。それを後目に、一人黙々と敵エグゾスーツを撃墜していく男。
「
また1機、敵エグゾスーツが墜落していく。
「おれも一応居るんですけど……、なんだろう、おれの孤独感がすごい……。」
ルクト・コープは一人呟く。
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