8.火炎竜を討伐しよう
飛竜素材が残っててよかった。ヴォーガルスの奴、僕の短剣が刺さったまま逃げていった。これが無かったら、また飛竜狩りに行かねばならないところだった。
フィルトゥーラもあれから
ヴォーガルスと実際に刃を交えたことで、飛竜素材でも攻撃が通らないというのはわかった。いや、人型の時には通らないわけじゃなかったけど、竜になってからは間違いなく効かない気がする。
以前聞いた通り、やはり竜種の素材を入手する必要があるのだろう。
「アーヴァならいずれは、と思ってたが、思った以上に早かったな」
いまだヴォーガルス襲撃の傷跡残るギルドの中、僕はいつも通りの受付員、バッシュに竜種の情報を聞いた。
「東の山。あそこはフレイム山という名前の火山なんだが、あの山の頂上に、"火炎竜"が居る」
山頂が雲に隠れて見えない……、なんてことはない、そこまで高い山ではない。だが、そこそこ距離もあるし、登山もしなくてはいけない。幸い今は温かい季節なので雪の心配はないが、それでも楽な道のりではないだろう。
「たどり着くだけでも2日~3日かかるだろう。しっかり野営準備をしていけよ」
「まあ、いつも通りのメンツだよね」
僕はクスタ、フィルトゥーラと共に、フレイム山に向けて歩いていた。
「当然相棒は一緒に行くのが当たり前です!」
『相棒はあったしだよ!!』
「見なかったのですか? 私とアーヴァの息の合った"こんびねーしょん"、これは完全に相棒の域です!」
イントネーションに微妙なおかしさを感じるよね。
『あったしのほうが以前からの相棒だし!』
「付き合いとは長さではないのです。"濃さ"なのです!」
怪我の具合が心配だったけど、これだけ元気なら大丈夫かな。
『濃さでもあったしのが上だもんねー、夜も一緒だし!』
「む、む、む、そ、それなら私も閨を共にっ!!」
「僕抜きで僕の今後の人生左右しそうな話しないでほしいかな……」
途中細かな魔獣との遭遇はあったけども、これを難なく捌き、初日はなかなか距離を稼げた。最初は鬼ウサギすら倒すのに苦労していたのに、慣れってすごいな……。
少し森が開けた空き地のような場所で火をおこし、僕らはここで野営することにした。
「そういえば、まだ礼を言ってなかった。この前は、君のおかげで助かった、ありがとう」
「え? ああ! あの火の玉の時ですね! あれ、私のスキルなら1回ぐらいは防御できるかなって思ったのですよ! まあ、無理だったんですけどね……」
最初の勢いとは打って変わって、後半はしょんぼり気味だ。どうやら僕を突き飛ばし、自分は火を防御してやり過ごそうとしたけど即断念。とっさに自分も吹き飛ばしたらしい。初めから自分も吹き飛ばせばよかったのでは? とは敢えて聞くのはやめておく。
「その、これでもアーヴァに恩を感じているのです。記憶が無くて、行く当てもない私を拾ってくれましたから」
……、どっちかと言えば、勝手に付いてきた感じだけど。まあ、僕も追っ払ったりせず受け入れてた部分はあったか……。
「そこはほら、僕も助けられた部分は大いにあるし、お互い様だよ」
「それでも……、です」
そう告げる、焚火に照らされたフィルトゥーラは、なんだかいつもと違って可愛らしくみえて……。なんか恥ずかしくなってきた。
「そ、そうだ、記憶は何か思い出した?」
僕はそんな自分の恥ずかしさを誤魔化して話題を変えた。
「それが、ぜっんぜんです! もしかして私には過去なんてないんじゃないかって思うくらいです」
「そんなことないでしょ……」
過去か……。僕も今でこそ"アーヴァ・スクラビー"という名前にだいぶ馴染んできたけど、日本人の高校生"
焚火の魔力か、フィルトゥーラが妙に可愛く見えてしまったことが原因だろうか。僕の中で唐突に「僕の過去を話したい」という欲求が膨らむ。彼女は"過去"を思い出せないと言っているというのに、自分勝手甚だしい。
「……、僕の、過去のことを、話してもいいかな?」
「いいですよ! 聞きたいです!」
僕が堪えきれず口にした問いに、彼女は即答える。その笑顔が胸にじんわりと染み込む。ああ、そうか。僕は彼女のことが好きなんだ。だから、彼女
僕はゆっくりと、それでいて長話になりすぎないように、元々日本の高校生であること、元は"
「アスト……、なら、あなたのことを"アスト"と呼んでもいいですか? あ、私のことは……、フィルって呼んでいいので!」
「うん、わかった、フィル?」
「ありがとうございます。アスト?」
お互いに顔を向け合い、呼び合う。焚火の照り返しだけでなく、フィルの顔は少し赤面しているように見えた。急に照れ臭くなり、僕は視線を逸らす。
「この先の敵は、簡単な相手じゃない。でも、もう君にあんなケガはさせない……。フィルは、僕が護るよ」
僕は彼女に再び視線を向けながら、決意を口にする。
「なら、アストのことは私が護りますよ!」
「だめだよ! 僕が護るんだから!」
「私も護りたいですよ!」
僕らはどちらともなく笑いだし、「僕が護る!」「私が護ります!」とひとしきりじゃれ合った。
『やれやれ、青臭くて見てられないわ』
クスタの冷めたツッコミで、お互いに恥ずかしくなり黙るまで、そのじゃれ合いは続いた。
「そういえば、"ニホン"という言葉ですが、なぜか聞いたことがある気がします」
「えっ!?」
気恥ずかしい沈黙を破るべくフィルが告げた内容に、僕は驚愕で答えた。
「内容は全然覚えがないですよ!? でも聞いたことがある、そんな気がするのです」
「もしかして、フィルの過去にも"日本"は何か関係があるってことなのかな!?」
まさか彼女も転生者だったりするのか!?
「うーん……、ダメですね、それ以上は全然、これっぽっちも思い出せません」
「……、あまり無理しないほうがいいよ」
「そうですね! じゃあ、この遠征が終わったら、また日本の話を聞かせてください! 何か思い出すかもしれないです」
まぶしい笑顔で言う彼女に少し見惚れながら、僕は「ああ、約束する」と口にした。やばい、自分の気持ちに気が付いてしまうと、想いが暴走しそうだ。彼女の笑顔で胸が苦しい。
僕はわざとらしく咳払いし、再び彼女の顔に視線を向け、黒く塗りつぶされたナニカと目が遭った。
「え……?」
──=\#-クィーティオ{+*;
黒く塗りつぶされた彼女から、奇妙な音声が紡がれる。
「フィル!!」
『アーヴァ!! 危険だよ!!』
フィルに触れようとする僕をクスタが静止する。この間一瞬で彼女の全身が真っ黒なナニカに塗りつぶされ、ただの黒い人影に変貌した。
集落で遭遇した黒い人影の姿が脳裏によぎる。そしてその末路も……。
「あぁぁぁぁぁ!! フィルゥゥゥゥゥッ!!!」
僕は短剣に手をかけようとして、どうしてもそれを抜けない。
『アーヴァ! 妖精剣を!!』
クスタはその身体から白光を発しつつ、僕の腰にある短剣に憑依すべく飛び込んでくる。が、フィルを覆う闇から何かが飛び出し、クスタを弾き飛ばした。
『あぅっ!』
「く、クスタ!?」
それはまるで黒い妖精。手のひらサイズの小人で背中に羽がある。クスタとの違いは、全身が真っ黒であることだろうか。
『クッ、こんなところまで!!』
クスタが苦悶の声を挙げる。両者は空中で衝突を繰り返し、戦闘を開始した。
「クスタ、今援護を──」
動こうとした僕の視界一杯に、黒い人影が入り込む。しまったっ!! 黒い人影の両手が、僕の右手と首を抑え込む。ま、まずいっ!!
──ガッピッ-……,抵抗スルナ &%#-
「え?」
── \*- 悪イ,ヨウニハ,シナイ -=*+
黒い人影は僕を抑え込むだけで、攻撃するとか、浸食する、といった意思が無いようだった。
『み、耳をかすんじゃない!!』
クスタは闘いながら、僕を叱咤する。なんかいつもと口調が違う? ぼ、僕はどうしたらいいんだ? フィルを振り切ってクスタを救うべき? フィルを助けられないのに? 抵抗するな?悪いようにはしない? どういうことなんだ? 誰が言っているんだ?
『ギャァァァァァァァ!!』
「っ!!」
僕が逡巡している間に、クスタは黒い妖精に貫かれていた。
「クスタァァァァァァッ!!」
僕は黒い人影を振り外し、崩れていくクスタをその手に受け止めた。クスタは既に半身が消滅し、残りもチリへと消えつつある。
「あぁぁぁぁぁぁ……」
なぜだ、本の数分前までは……、こんなことって……。
クスタが全て消滅した瞬間、景色が波打ち、空間に、世界に波紋が広がったような感覚に襲われる。同時にフィルだった黒い人影も消え去る。
『ようやく話せるようになりました』
先ほどまで真っ黒だった妖精が流暢に言葉を話す。その姿は先ほどまでとは異なり、全身が真っ白に変貌している。髪は白銀で方ほどの長さ。肌も透き通るほどに真っ白で、唯一の色は瞳の赤色だけだった。
『あなたには順に説明を。私の名はレイン』
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