3.街道警備実戦訓練

 街道周辺のモンスター討伐は、討伐兵団、機兵団の主な任務だ。主要都市への街道巡回は、討伐兵数名とマグナ1機で編成された小隊単位で行うのが通例だ。

「よし、出発だ。」

 僕、レイヴ・ヘイアンドの号令がマグナの拡声器から外に響く。それに併せ、僕たち小隊は前進を始めた。今日は僕たち訓練兵の街道警備実戦訓練だ。


 僕たちの小隊は、討伐兵5名とマグナ2機の編成だ。

 討伐兵はマグダイム君をリーダーとした5名、初等学年時の実地戦闘実技ではマグダイム君のチームは僕とルクト君を入れての5名だったが、僕らが機兵科に転向したため、今は元々のメンバーである、マグダイム君、スピネル君、メイベル君に、新たに2名のメンバー、ゲント君とヒーリエさんを加えての5名だ。

 そしてマグナ2機は僕とルクト君。通常は討伐兵小隊にマグナは1機なのだが、ルクト君は機兵科に入ってまだ1週間であるため、僕とのペアで参加することになった。


 訓練とはいっても、内容は実際の街道警備と変わらない。僕たちは王都を出発し、モンスターを掃討しながら一日かけてベネの町まで移動する。実際の警備と違う点があるとするなら、1kmほど後方から、正規の兵団が追従して来ていることか。もしもの場合には、僕たちを救援してくれるらしい。が、僕たちは訓練兵とは言いつつも、既に実戦経験もある。正規兵の方々にお手を煩わせることなく、今日の訓練を終えて見せる!!



火炎放射ラディ・フラマーエ!!」

 散発的に出現する1mサイズの角付きウサギモンスター「コルヌレプス」。盾役タンクであるメイベル君が自分に引きつけている2体のうち1体が炎に巻かれる。マグダイム君の放った幻想の炎だ。幻想魔法であるため、実際の炎が出ているわけではないが、強い思念を乗せた炎魔法は、実際に火傷を与える。怯んだ角ウサギにゲント君が接近、その短剣で首を切り裂く。

 もう1体も、メイベル君の槌を受けよろめいたところをスピネル君が槍で貫く。

 彼ら5名、新メンバー2名を入れての連携も見事だ。

 先ほどのような小型モンスターも、マグナなら一撃で倒しうる。しかし、小型すぎるため、マグナの振り下ろしが街道を破損させる場合もあることや、何よりマグナも永遠に稼働できるわけではない。マグナの魔力袋アニマ──最近の研究ではPEバッテリーと言うらしい──も、自然回復するとはいえ、高稼働状態が続けば枯渇し停止してしまう。必然、長距離長時間運用が前提となる街道警備は討伐兵とマグナの混成部隊で実施され、小型モンスターは討伐兵、中型以上はマグナ、と分担するのが一般的な運用になる。もちろん、小型であっても数が多い場合はマグナも攻撃するので、必ずしもその限りではない。


「それにしても……、」

 僕は実地戦闘実技の時を思い出す。あの時は初の実戦であるためか、どこか浮ついた雰囲気があり、ルクト君が森で行方不明になったりもした……。苦い思い出だ。しかし今の小隊は違う。見事な連携をとり、まとまりもある。これが"雨降って地固まる"というやつだろうか。皆の努力の賜物だ……。すばらしいっ!!



 適宜休憩を入れつつも工程は恙なく進み、凡そ半分ほどだろうか。岩場の多い場所に入り、見通しが悪くなった。

 先行し、偵察していたゲント君が足早に戻ってきた。

「この先、中型猿2体。」

 寡黙なゲント君が必要最低限の言葉で情報を伝えてくる。中型猿、おそらくはシミアシールヴァか。1体ならば僕一人でいける。が、2体なら釣りだして倒すのが安全策だが、マグナの燃費も考え、短時間で片づけることも重要だ……。

「ルクト君、いけるかい?」

 ここまでの行軍でも彼のマグナ操作は悪くない。倒せないまでも、引き付けることはできるだろう。それに彼の経験にもなる。

「いけます。」


「よし、マグナ2機で先行する。マグダイム君たちは、距離を開けて追従してくれ。いくよ!」

「「了解。」」

 全員が了承の回答の後、一斉に動き出す。

 歩兵全員が街道の脇に退き、僕とルクト君のマグナが先行して進んでいく。


 程なくして猿にしては巨大な生き物が2体、マグナの索敵画面に映し出される。

「げぎゃぎゃぁぁ」

「げっげっげっげ」

 巨大とはいっても、マグナからしたら腰程度の高さ。2体は威嚇するように鳴き、こちらに向かってきた。

「ルクト君、右の1体を引き付けてくれ!」

「了解!」

 向かってくる猿に向かってそのまま僕は突撃。しかし猿2体はそれぞれ左右に飛び退き、僕の突撃を回避する。2体が分散したな。

 そのまま左側の猿にシールドを当てる。

「ぎゃっ!」

 ややのけ反った猿に向け右手の剣を突き出す、が、するりと躱される。

「ハッ!!」

 僕は気合の声とともに、マグナの全身を回転させるようにして、その剣を横に薙ぐ。

 猿の片腕を切り飛ばし、腹も切り裂いた。しかしまだ動けるようだ。

「これでっ!!」

 一気に踏み込み、上段から剣を振り下ろす。手負いの猿は回避間に合わず、僕の剣で両断された。


「まだだ!」

 僕は緩みそうになる自身に喝を入れ、ルクト君に任せた1体に向き直る。

「ルクト……君、あれ? 敵は?」

 彼のマグナは街道の真ん中に立ち、僕を見て待っていた。

「あ……、ちょうど、今、倒したところです。」

 街道の真ん中、おそらく元はシミアシールヴァだったであろう、魔核が落ちている。

 ちょうどその時、僕の背後でジュクジュクと泡立つような音をたて、先ほど倒したシミアシールヴァは溶解し、魔核へと変貌した。

「ちょうど今……、ね。」

 なんだろう、なにか釈然としない感じがする。




「討伐兵は後ろへ!! ルクト君! 1体を引き付けてくれ!!」

「了解!」

 角ウサギ数匹との戦闘中、それを狙ってきたと思われる狼型の中型モンスター、パテットルプスが岩陰から飛び出してきた。それだけなら、まだ良かった。狼は群れで狩りをする。パテットルプスは3体居た。

 僕は1体をルクト君に任せ、残り2体に向かう。これほど中型が出るとは……。僕は不本意ながら、後方にいる正規兵へ救援を要請する警報器のスイッチを入れた。

 2体の中型狼が、僕に威嚇とけん制をしつつ、隙を狙ってくる。僕は剣と盾をそれぞれの中型狼に向け、どちらにも隙を見せないように移動する。このまま時間を稼げば、後続の正規兵が来てくれる。


 瞬間、僕のその希望を打ち砕くモノが上から落ちてきた。

「え……?」

「ギャン!!」

 中型狼のうち1体が、その巨大な顎にかみ砕かれ、短い悲鳴を上げる。二息歩行の巨大なトカゲ、いや竜が着地し、一口で狼の1体を捕食した。

「ドラコ種の……大型だと!?」

 体高7m、マグナと同じ視線。体長なら10m以上。まさしく大型モンスターだ。マグナでも数機で対処するような怪物だ。こいつ相手に、時間稼ぎなどできるのか……? むしろ、正規兵のマグナが1機合流したところで……。

「皆、にげ──、」


「グゴォォォォッブフォッ!」

 ドラコ種の鳴き声が中途半端なところで中断される。そう、閃光と共に突きだされたシールドバッシュにより、ドラコ種の首が跳ね上がったのだ。そこから流れるように一閃、一条の光がその首を通過した。

 キンッと遅れて響く斬撃音。その一閃がマグナの斬撃だと気づいたのは、振り抜いた後だった。


 音もなく斬り飛ばされた首は、数秒後に落下。と、同時に首を失った胴体が、思い出したかのように倒れる。

「……、えっと、びっくりしたぁ、いきなり出てくるから、夢中で振ったら当たったぁー。」

 ルクト君の独り言・・・っぽいつぶやきが拡声器から漏れ聞こえた。

「……。」


 残った1体の中型狼は、いつの間にか逃げたようだ。それはそうだ、アレを見たら逃げると思う。追いついた正規兵の方々も唖然としていた。


「あ、その……、いやぁ、さすがレイヴ! 敵の注意をひいてくれたお陰でたまたま・・・・うまく攻撃が当たったよ!!」

「うん、えっと、どういたしまし……、て?」

 僕の頭は状況の理解を放棄した。



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 おれは一息付き、改めて操作コンソールを確認する。間違いなく拡声器は切れているな。

 このマグナはすごい。事前に聞いていたが、思念同調システムで手動操作せずとも、おれの意思に沿って駆動する。手足の動きも驚くほどなめらかだ。レイヴのマグナを見ていたら、まるで操り人形みたいだった。とても素晴らしい。

 どれほど素晴らしいかって、普通のマグナが1対1で渡り合う中型モンスターは鎧袖一触。普通のマグナが数機で対処する大型モンスターでも一撃。何より燃費がアホみたいにいい。ここまでほぼ丸一日行軍、戦闘してきたのにPEバッテリー残量が90%……。


 おれは再度念押しで拡声器のOFFを確認し、

「性能良すぎだっての!!」

 完全防音のコックピット内で、製作者に向けて吠えたのだった。

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