5.侵食
ゴアァァァァァッ!!
「あ、あれはあの時の……!」
レインが怯えたような声を出す。
「あの時? もしかして目覚めてすぐに襲われたっていうドラゴン?」
レインはリンドヴルムから視線を外さずに頷く。
そんな俺たちのやり取りなど構わず、リンドヴルムは威嚇するように喉を響かせながら、こちらに向かって飛翔してくる。
速度はそれほどではない、フレースヴェルグに比べればかなり遅い。
奴目がけて
「ならば!」
両手で
更に接近してくる奴の突撃に合わせ、
「がぁっ!」
が、完全に押し負けた。フレースヴェルグなどその比ではない重量と威力。そして
【Willact Field Detected ...】
リンドヴルムが旋回しながら、その口内に力を溜めていく。
「!! レイン! 下だ!!」
俺は咄嗟にレインを庇いながら落下するように降下する。
直後頭上を灼熱の光線が通過する。
「ぐぁぁぁっ!」
僅かに掠めた背中の装甲板が焼け、内部に強烈な熱が浸透する。
射線の先にあった背の高い建物は、まるで熱したナイフを当てたバターのようにスッパリと切断される。
転がり落ちるように地面に着地し、背部のアーマーをパージする。空気に触れた背中が焼けるように痛む。
「ぐっ……、」
「あぁ、コースケ……、」
「大丈夫だ、しばらくすればμファージが修復してくれる……。」
とりあえず余剰のμファージを展開し、肉体の補修に充てておく。
空を見上げるが、リンドヴルムからの追撃は無い。
「どうやら、王都を破壊するつもりはないみたいだな……。」
「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」
「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」
「くっ、やはりか! レイン、行くよ!!」
上昇するとリンドヴルムに狙われる。王都の外にはフェンリルと白い巨人の群れ。
こうなっては、住民に追われながらも王都内を逃げるしかない……。
──ああ、実にいい
レインの手を引き、入り組んだ王都の路地を駆ける。
「まて」「にがすな」「おそえ」「とらえろ」
路地のあちこちから住民が飛び出してくる。
「
どうしても避けられない住民に
──生きるため、想い合う二人の逃避行、実に人間らしい
「うるさいぞ!!」
何者かわからないが、相手にしてはいけない何かであることはわかっていた。だから意識して無視してきたが、あまりの煩さに、思わず苛立ちをぶつける。
──はっはっはっ、その怒りも心地よい
ジグザグに建物を縫い進み、周囲に気配がないところで木箱の影へと入る。
「コースケ、大丈夫ですか?」
「……、ああ、少し回復した……。」
依然として背中と肩の損傷が激しいが、修復は進んでいるようだ。多少楽になった気がする。
キルゥェェェェェエェェェェ!!
甲高い鳥の鳴き声が響き渡り、上空を大きな影が横切る。
「くっ、フレースヴェルグを倒しきれなかったか……。」
今のところ見つかっては居ないが、やはり空には逃れられない。
「王都の外も敵の山……、やはり地下に逃げるしかないか……。」
すると、くいっっと、腕が引っ張られる。
「みつけた」
「あぁぁぁ!!」
影からこちらを覗き込んでいた子供に
「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」「みつけた」
再び周囲に人々の気配があふれる。
──そろそろ、さらなる絶望に陥ってもらおうか
あふれる人々の群れを乗り越え、恐ろしい勢いで黒い影が接近してくる。
俺はレインを庇うように立ち、その黒いモノの攻撃を受け止める。
ギャリリと義手を削る音が響き、黒い影が通過していく。
振り返ると、黒い影は壁に着地していた。
『ミツケタ!』
「フィーデ!」
フィーデは壁を蹴り、再び俺に向けて突撃してくる。
両手の爪が赤熱し、俺に向かって振り下ろされる。
直後、フィーデはあっさりと体を逸らして拮抗から抜けると、壁を蹴ってぐるぐると周囲を駆け回る。
そして一瞬の隙をついて再び襲い掛かってくる。辛うじて防いだ義手に4本の傷がつく。
フィーデは再び壁を使ったヒット&アウェイを繰り返す。防ぐだけでやっとだ……。
「うがぁ!」
左肩にフィーデの右爪が突き刺さる! だがチャンスだ! 俺はその手を掴み、フィーデを抑える。
「レイン! 今の内に逃げろ!」
フィーデは左手を振り回し、俺の拘束から逃れようとしている。
「で、でも!」
「何とかフィーデを撒く! すぐに追いつくから……。頼む! 行ってくれ!!」
レインは一瞬の逡巡の後、俺を置いて走り出した。
「さて、どうしたもんかね……。」
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フィーデの速度に、私は追いつけない。コースケに「先に逃げろ」と言われ、私はそれに従うしかなかった。明らかに私を庇っているために防戦一方になっていたから……。
脇目も振らず、振り返ることもせず、私は走った。
貧民街の入り組んだ路地を抜け、大通りは避け、細かい道を選んで進み、建物の影、時には建物の中を通過させてもらい、ひたすらに逃げた。
いつの間にか、住民の追っては無くなっていた。
まだ昼過ぎの時間だというのに、王都には人気が無く、閑散としている。
なにか不穏な空気を感じつつも、私は警戒しながら王都の中を進む。
そして気が付けば、私は下宿の前まで来ていた。
逃げる宛てがあったわけではない。だが自然とここへ足を向けてしまった。
この状況で、無事のはずがない。そんなことを確かめることに何の意味があるのか……。
だが、私は下宿の扉を開くべく、ノブに手を──、
一瞬早く、扉が開く。
「あら! レインちゃん!! 戻ってきたのね!!」
そこにはいつもと同じ笑顔のサンディさんが居た。
「ぁぁ……。」
サンディさんが無事だった。誰か一人でも無事な人が居てくれた。
こみ上げる想いを飲み込み、声を出そうと──、
「わざわざ殺されに!!」
サンディさんの笑顔から急に色が失せる。
目はどこも見ていない。虚ろなのに嗤っている。
「あぁ……、そんな……、」
「にがさない」「にがさない」「にがさない」「にがさない」「にがさない」「にがさない」
「にがさない」「にがさない」「にがさない」「にがさない」「にがさない」「にがさない」
「にがさない」「にがさない」「にがさない」「にがさない」「にがさない」「にがさない」
「にがさない」「にがさない」「にがさない」「にがさない」「にがさない」「にがさない」
これまで無人だと思っていた周囲の建物からもゾロゾロと人が出てくる。
サンディさんまで虚ろな笑顔でこちらににじり寄ってくる。
私はフィールド発生器を全力稼働させ、空に浮上する。
ドラゴンや鳥に襲われるかもしれない。でもあんなサンディさんを見るよりはマシだ。
直後、見えない何かに私は叩き落とされ、地面に激突する。
「あぐぅ!」
大丈夫、義体の被害は軽微だ。
私は体を起こし見上げた。屋根の上に立っている者が一人。
その男が軽く手を振り上げると、周囲の石畳がバキバキと浮き上がる。
その白銀の仮面からは表情は窺えない。
「殲滅卿……。」
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