第443話犬養博士との面会 そして柳生事務所に
万葉集の大家、犬養博士を前に華音は少々緊張気味。
格闘で華音に完敗した鬼の霧冬が、それをからかう。
「情けないな、お前が強いのか格闘だけか」
華音は、むくれるけれど、さすが犬養博士を前に口論はできない。
犬養博士は華音に声をかけた。
「そんな緊張をしないでもいいよ」
「霧冬は単なる負け惜しみ」
「それから、笠女郎も、その前の源氏も素晴らしかった」
「15歳にして、感心します」
今西圭子が、犬養博士に少し頭を下げた。
「博士の当日の講演の中で、華音君が人麻呂の歌の詠唱をご希望とのこと」
「具体的な歌については、すでにお決まりなのでしょうか」
犬養博士は、柔らかく微笑んだ。
「それについては、講演まで約一月あります」
「講演原稿そのものが出来ていません」
「そうですね、約一週間前に、お知らせいたします」
「と言いましょうか、今日は華音君を見たくてね」
霧冬も、笑う。
「俺も犬養も、華音の奈良の爺さんも、東京の爺さんも、全て遊び仲間」
「だから、孫を見るようなもんや」
犬養博士が華音を愛おしそうな目で見る。
「この子に人麻呂を詠んでもらいたいんだ」
「その人麻呂を、私が心を込めて、解説する」
「人麻呂の想いを、これから生きる若い人たちに、伝えたい」
「それだけなんだよ、私の気持は」
華音と犬養博士、柳生霧冬まで加わった面会は、至ってシンプルなものだった。
犬養博士の屋敷からの帰り道、まだ緊張顔の華音に、今西圭子が諭す。
「結局は、単なる顔合わせだけど、それが大切なの」
「顔を直接合わせて、人そのものを見る」
「もちろん華音ちゃんだから問題はないけれど」
「それでも、シンプルであっても、それは大切なこと」
華音も素直に答えた。
「さすがと思った」
「犬養博士は、人が大きい」
「余計なことは言わないけれど、全ての言葉に含蓄がある」
「弟子入りしたくなった」
柳生霧冬がクスッと笑う。
「ああ、犬養も弟子にしたいと言っとった」
「気持は通じるもんやな」
「お互いの間合いが合うんや」
華音は、そこで話を切り替えた。
「先生、永田町の柳生事務所に行きますか?」
霧冬は頷く。
「ああ、華音も忙しいけれど、それを言っている場合やない」
「圭子もだ」
今西圭子も察していた。
「かまいません、私もお付き合いします」
三人が千歳烏山の駅に着くと、柳生事務所のワンボックス車が停車していた。
そのワンボックス車の中から、松田明美が出てきた。
「霧冬先生、お久しぶりです」
「それから華音君、圭子も早く乗って」
「シルビア、春香、エレーナは、もう柳生事務所のビルに入っている」
華音の顔が引き締まった。
「となると、とんでもないこと?」
柳生霧冬が頷いた。
「ああ、とんでもない、決死戦や」
走り出したワンボックス車の中は、重い緊張感に包まれている。
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