第362話一緒に農作業?華音と同じ鍛錬は難しい。
華音と、都内選抜の空手選手、その監督の前田まで、楽しそうに広い花壇を整備している。
これには吉村学園長が驚いた。
「何があったの?空手はともかく」
都内選抜監督の前田が汗を拭きながら笑顔。
「いや、華音君に申し訳ないような気持で歩いていたら声をかけられて」
「おわびをしてくれるなら、花壇の整備を手伝ってって」
「雑草を抜いて、畝を切っています」
「これも足腰とか、腕の鍛錬にはいいですね」
華音は、恥ずかしそうな顔で笑うだけ。
潮崎師匠も笑う。
「それはそうさ、空手の練習だけでは、足腰は強くならない」
「今の時代は農作業をしないけれど、そうだな、特に明治以前の武芸者で農作業は当たり前だ」
と言いながら、都内選抜の空手選手を叱責。
「ほら!腰が入っとらん!畝が曲がっている!」
「そんな腰の使い方だから、踏み込みも突きも甘くなる」
叱責された都内選抜の空手選手は、ビクッとして足腰に力を入れている。
そして、いつの間にか、華音の学園の空手部選手も畑作業に参加し始めている。
吉村学園長が華音に声をかけた。
「華音君、今度は何を植えるの?」
華音はにっこり。
「白菜を植えたいなあと」
そして都内選抜の空手選手と笑顔。
「収穫の際には、来てもらってお鍋でも」
柳生清が笑いだした。
「俺も呼んでくれ、華音が作りたい鍋がわかった」
「飛鳥鍋だろ?」
吉村学園長は笑いをこらえきれない。
「そうね、奈良独特だね、奈良の明日香の郷土料理の一つ」
「特製の牛乳スープで鶏肉や野菜を煮込んだ真っ白な牛乳鍋」
「起源は飛鳥時代までさかのぼる、華音君の大好きなお鍋」
文科省の藤村は、どう対応していいのかわからない。
問題行為があって、厳正に対応しようと思っていたけれど、目の前に見る限り、仲直りどころか、和気あいあいと農作業に励んでいる。
その文科省の藤村に、吉村学園長が声をかけた。
「まあ、処分は保留にしたら?」
「仲良しでないと、美味しいものは食べられないから」
都内選抜の前田監督が華音に頭を下げた。
「華音君の鍛錬法を教えて欲しい」
「どうすれば、あれほど速く強く動けるのか」
華音は、答えるのが難しいようだ。
「とにかく、覚えている限り、三歳か四歳の頃から」
「毎日、朝4時半から、奈良の山の中を走り回って」
「柳生霧冬先生と一緒で、天候には全く関係なく」
「野犬の群れに放り込まれた時もあるし、熊とバッタリなんてこともありました、あれは怖かった」
「相手の目の動き、自分の立ち位置、それから一番適切な動きを判断して」
「うーん・・・それ以外は、何となく強くなったって感じで」
「何しろ、霧冬先生以外の人間と試合をしたのは、去年の大会が初めてなので」
「表彰式からすぐに帰ったのも、帰り道のメトロの乗り継ぎが全く分からなくて、不安で」
潮崎師匠が苦笑い。
「まさに鬼の修行、さすが霧冬翁、それに耐えきる華音」
「勝てないわけだ、生半可な修行では」
そして、都内選抜の監督前田に声をかけた。
「華音の鍛錬法は難しい、俺が教えよう」
都内選抜の監督前田は、潮崎師匠に走り寄り、深く頭を下げている。
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