第335話渋谷駅前スクランブルの乱闘(5)

華音を怒鳴りつけてしまった警察官は、顔が蒼くなったまま。

「つい、そこらのガキに文句を言われたと思って、とんでもないことを言ってしまった」

「まさか・・・あの吉祥寺のテロ集団壊滅と梶村雄大集団を退治した華音君とは」


その華音は、スマホで誰かと話をしている。

「はい、柳生ビルで監視していて」

「不穏な画面が映ったので、心配になりまして」


松田明美は華音が話をしている相手がわかったようだ。

年配の警察官に耳打ち。

「おそらく官房長官からのお礼の電話」

「その後、総理に変わると思う」

年配の警察官は身体がまた震え、華音を怒鳴りつけた警察官は頭を抱えた。


華音はそんなことは知らないので、話を続ける。

「はい、官房長官、まずは怪我をした人の治療を優先と考えまして」

「暴行をしていた人の動きを止めるだけに専念しました」

「いえいえ、僕もエレーナも無事です」

「あ、警察警護の状態ですか?」


官房長官と華音の会話は、警察警護に移ったようだ。

年配の警察官と華音を怒鳴りつけてしまった警察官は、華音の言葉を聞き漏らすことが出来ない。


華音は、素直に答える。

「いきなり声をかけた僕も悪いんですが、邪魔するなって叱られました」

「でも、松田明美さんも一緒に動いてくれましたので」

「あ・・・はい・・・詳しくは官邸に出向いた際に」


松田明美は厳しく二人の警察官を見据えた。

「誤魔化せないよ、華音はやさしいけれど、厳しい時は実に厳しい」

「そもそも、警護として来ていながら、乱闘をほったらかし」

「何とかしようと出てきた善意の華音を怒鳴りつけたんだから」

「もう一人のあなたも、それを見て見ぬフリでしょ?きっと」

「私が華音君と動かなったら、どうなったと思うの?」

「民間人に危険な思いをさせて、それを見ているだけ、コトが終わったらお礼やら謝罪に来るって、どういう神経なの?それが警察官なの?」

「それも私が手をあげなかったらお礼にも謝罪にも来なかったんでしょ?」


松田明美の隣に、今西圭子が立った。

「特に華音君にひどいことを言って、結局立っていただけの警察官の貴方」

「しっかり録画してあるよ」

「そのヤンキー集団への暴言も含めてね」


華音の電話の相手が、総理に変わったようだ。

「あ、はい、いつも呼ばれているのに、行けなくてすみません」

「はい、僕もエレーナにも怪我はありません」

「それでは、今度こそ、伺います」

「あ・・・総理も、お屋敷の料亭にいらしてください」

「積る話もありますので」

華音と総理の話は、そこで終わった。


シルビアと春香が、スッと華音の前に立つ。

シルビア

「治療は終わった、小学生の女の子も元気」

春香

「帰ろうよ、お腹が減った」

華音も、緊張がほぐれたのか、軽く頷く。

エレーナが、食事の希望を出す。

「江戸前のお寿司を食べてみたくて」


今西圭子は柳生ビルのレストラン部門に早速連絡を取る。

すぐにOKも取れたようだ。

今西圭子

「じゃあ、帰ろう、みんな」


華音は松田明美の顔を見る。

「明美さんは事後処理?仕方ないよね、地下鉄で帰る」


松田明美は、相当に残念そうな顔を見せるけれど、これは華音が正論。

警察としての職務を優先しなければならない。

結局、華音たちは、あっさりと姿を消してしまった。


松田明美は、今後が不安でならない警察官たちは完全無視、そのまま事後処理を行うべき警護本部に向かって歩き出す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る