第315話朝の山下公園で華音は不安を覚えた。
華音は、夕食前に、今西圭子と松田明美の乱入を受けたけれど、夜は久しぶりに一人風呂と一人寝になった。
「これはなかなか、気楽だ。いつもは腕を伸ばせば誰かに触る、寝返りを打てば、胸に包まれる」
「今夜は腕も楽々伸ばせる、寝返りも自由に打てる」
そのため、完全な熟睡、今までの神経疲れも、すっかり癒すことが出来た。
その華音が目覚めたのは、午前6時。
ホテルの朝食開始時間には、まだ早い。
「山下公園でも散歩するかな」
「奈良育ちなので、海を見たい、氷川丸を見たい」となり、さっそくホテルを出て、山下公園に入った。
「へえ・・・面白い」
「なんとも優雅で隙が無く」
山下公園で、華音が見張ったのは、太極拳を練習する10人ぐらいのグループ。
年齢は若い人から、年配まで様々、男女も様々。
一見して、中華系の人もいるけれど、それは民族衣装を着ているため。
それ以外の人は、ジャージの上下の人なので、国籍などは判別は出来ない。
他には、シャドウボクシングをしながらランニングをする人も、数人。
この人たちは、比較的若い、10代後半から20代前半。
「まだ、ボクシングを習い始めかなあ」
「動きがぎこちない」
華音は、もう一人の師匠、塩崎先生との修行を思い出す。
「単純な教え方で、自分で間合いを図って、防御と攻撃を考えろって」
「でも、その単純な教えが難しかった」
「先生は、いろんな格闘技を知っていて、全て間合いが違う」
「習ったのは総合格闘技に属すると思うけれど、そのリスクも指摘された」
「総合格闘技のチャンピオンであっても、柔道やレスリングだけの大会では負ける、それだけでは負ける」
「それは打撃系の空手とか、ボクシングでも負ける」
「そもそも、競技として、異なるとか、専門家には負ける」
「優劣ではない、100メートル走の選手が、100メートル障害物では勝てないとか、中距離走では勝てない」
「100メートル障害物の人も100メートル走では負ける」
華音が、そんなことを思い出して、再び散歩を再開すると、ボクシングを練習する若い人たちが、ランニングを停止、太極拳を練習するグループの近くに、ラジカセを地面に置き、大音量でラップ音楽を流し始めた。
太極拳を練習しているグループは、中国の民族音楽のようなものを流していたので、ほぼ大音量のラップ音楽に迷惑そうな顔。
しかし、ボクシングを練習する若い人は、そんな他人の迷惑顔などには、全く無頓着。
そのまま、シャドウボクシングを続けている。
華音は見ていて、少し不安。
「喧嘩にならなければいいけれど」
「わざわざ、ラジカセを大音量で鳴らさなければいいのに」
「ヘッドフォンとか、インナーフォンでもいいのに」
「そのほうが迷惑がかからないのに」
井岡スタッフが歩いて来た。
「華音君、あのままだと喧嘩になる」
「まずボクシングジムの会長と、太極拳の会長が仲が悪い」
「格闘技としても、商売の上でもね」
華音は井岡スタッフに尋ねた。
「格闘技は・・・全然、スタイルが異なるから、どっちが強い弱いで、喧嘩は起きやすいけれど」
「商売の上とは?」
井岡スタッフは難しい顔。
「たいしたことではない、立地がいい貸しテナントをめぐって、中華料理店が入るか、ステーキ店が入るかってだけ」
「でも、それにお互いのメンツ争いもあってね」
「大事にならなければいいけれど」
華音は、不安そうに太極拳グループとボクシングを練習する若い人たちを見ている。
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