第294話華音VS原島(2) 決着

「痛てえ!」

目を閉じた全員の耳に聞こえて来たのは、原島の叫び声。

その叫び声に続いて、金属バットがカラコロと転がる音。


そして、全員が、その目を開けると、原島が前のめりに倒れている姿。

尚、華音とは、5m以上離れている。


「この!・・・この!」

原島は、懸命に起き上がろうとするけれど、なかなか起き上がれない。

途中まで起き上がるけれど、脚に力が入らないのか、また倒れてしまう。


その原島に華音が声をかける。

「原島さん、僕を叩きたいんでしょう?」

「待っているんですけれど」

「どうして、途中で転ぶんですか?」

「ほら、立ってください」

「立って、向かって来て下さい」

「かわすぐらいはできます」


またしても、華音の挑発発言。


その挑発に原島は顔を真っ赤にするけれど、どうにも脚がガクガクとして動かない。

そして、そのありえない恥ずかしい姿に、野球部の取り巻き連中は、驚くやら呆れるやらになる。


「マジ・・・恥ずかしい」

「あれが四番?」

「華音にビビっている?」

「自分で華音に向かって行って、転んで地面に顔を突っ込んで」

「立ち上がれない?」

「どうして何も持っていない華音にビビる?」

「逆に、馬鹿にされている?」


華音のまわりの生徒たちは、笑い出している。

「原島、戦闘不能」

「結局、口先番長」

「芋虫原島、脚が無し」

「あの姿が、学園の名誉か?」

「芋虫は栄光の甲子園に出られるのか?」


とにかく原島の暴言が気に入らなかったようで、華音のまわりの生徒たちの文句や皮肉も、かなり辛辣。


少し黙っていた華音が、野球部顧問竹田と野球部監督杉村に頭を下げた。

そして尋ねる。

「あの、花壇は野球部顧問と監督の指示で、壊すんですか?」

「今からでも?」

「それから、僕たち全員は、原島さんに土下座しないといけないんですか?」


野球部顧問と監督は、その顔を蒼くして、首を横に振る。

野球部顧問竹田

「いや、謝って土下座をするのは、私たちの方だ」

野球部監督杉村

「本当に申し訳ない、金属バットで他人を襲おうとするなど、野球人と言う前に、人間として失格」


吉村学園長は、再び冷静かつ厳しい声。


「原島君、そしてそこで金属バットを持った野球部員」

「そして野球部顧問、野球部監督」

「今回の件は、理事会協議案件とします」

「何らかの罰があります」

「それまで、最低限、野球部全員が、華音君と花壇作りを手伝った生徒たちに、心からの謝罪をすること」

「それから理事会開催までの期間は、学園長権限で野球部練習停止、部室の鍵は学園長預かり、野球用具も全て使用禁止」

「そして、原島君は、無期限の自宅謹慎とします」

「その自宅謹慎期間中に、問題がある行為が発覚すれば、即退学処分を課します」


華音は、哀し気な目で、地面に倒れてもがき続ける原島を見続けている。

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