第267話華音は混沌、夢で不思議な異世界へ、そして「死」を意識する。

松田明美が確保した休憩場所は、長谷寺付近の大型の和風旅館。

華音は、小島スタッフと小久保スタッフに両腕を組まれながら、「大丈夫です、自分で歩けます」と言うけれど、その声が実に弱々しい。


松田明美が、その華音に声をかける。

「だめ、とにかく横になりなさい」

「少し寝てから、全てはそれから」


小島スタッフが心配そうな声。

「ねえ、華音ちゃん、身体が冷たい」

小久保スタッフは涙声。

「いくらなんでも、無理し過ぎ」


他のお姉さまたちは、真っ青な華音が心配で、そして涙があふれて声が出せない。


華音も、現実として、どうにもならなかったようだ。

和室に入り、布団に入り、苦しそうに息をしている。


お姉さまたちが、不安気に華音を見つめていると、旅館の女将も部屋にそっと入って来た。

「驚きました、あの御方のお孫様だったのですね」

「もう、何から何まで、本当にお世話になった御方のお孫様」

「心を込めてお世話させていただきます」

「それにしても・・・実に蒼いような顔で・・・」


松田明美が、代表して女将にお礼。

「いえ、こちらこそ、急なお願いで申し訳ありません」

「快く受け入れていただいて、本当に感謝しております」


旅館の女将が、蒼くなる一方の華音を見て、涙する。

「少しお聞きしたのですが、あの梶村雄大と、その集団を退治したとか」

「ここの旅館も、本当に苦労していて」

「それを、あんな可愛い坊ちゃんが・・・」

「本当に有難く存じます」

「むしろ、ここを頼っていただいて、光栄です」


旅館の女将にも、少々情報がある様子。

松田明美が、旅館の女将に耳打ち。

「ここで、あまり話していると華音が休めません、少しお話を伺えれば」

旅館の女将も頷いたので、すぐに別室にて、事情を聴取することになった。

尚、その事情聴取には、小島スタッフと小久保スタッフが同席。

眠り続ける華音は、今西圭子、シルビア、春香、エレーナが付き添うことになった。



さて、苦しい息の華音は、不思議な夢を見ていた。

冷えていた身体が、その感覚を失うにつれて、瑠璃光つまり濃い紫みの鮮やかな青色に包まれていることを自覚する。


「何か、すごく懐かしい色だな」

「落ち着く、こういうの」

「ヘトヘトだった身体が、動くような感じ」

実際、華音が身体を動かそうとすると、さっきよりは少し動く。

華音は、そこで思った。

「起きないと・・・いつまでも寝ているわけにはいかない」

そう思っていると、次第に視界が晴れて来た。

そして、その目に写った様子を見て、実に驚いた。


「え・・・ここ・・・どこ?」

「どうして?これ・・・仏画の世界?」

「金銀宝飾がフワフワと浮き、気持が和らぐような気高い香りが満ち」

「空は澄んだ青・・・そしてあの建物は?」

「絢爛豪華な大宮殿・・・」

「どうして目の前に、こんな世界?」


そして思った。


「もしかして・・・僕、死んじゃったの?」

「ここは・・・もしかして浄土?」

「えーーー?15歳で終わったの?」

「はぁ・・・短かったなあ・・・」


華音は混乱の後、既に自分の「死」を意識している。

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