第191話華音の不思議な説法
華音からの目の合図を受けて、根津ホテルマンがリモコンで何らかの操作をすると、鉄格子の壁全面が真っ白な壁に変化した。
華音は、言葉を続けた。
「もし、あなた方が、今、こんな状態にならなければ、何をしていたのかを思い浮かべてください、目を閉じて」
旧国鉄系テロリスト集団が怪訝な顔で、目を閉じると、まず感知したのは、救急車と消防車が走り回る音、とにかく大喧噪の様子。
男たちに、目を閉じながら動揺の表情を浮かべる者、高笑いをする者がでてきた。
「何?警察が、吉祥寺駅の炎上は失敗したって、言ったじゃねえか!」
「どういうことだ!」
「は?警察のハッタリさ!今は吉祥寺駅が大混乱だろう」
「あれほど綿密な計画が失敗するわけがない」
次に救急車と消防車のサイレンの音に混じって、人々の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
「きゃーーー!服に火が!」
「熱いよーーーお母さん!助けて!」
「逃げろ!爆発があちこちで起こっている!」
その泣き叫ぶ声を聞いて、テロリスト集団の男たちは、ますますうれしそうな顔。
「は!成功だぜ!」
「ざまあみろ!これが暴力主義革命の第一歩だ!」
「これで政権打倒の足掛かりができた」
喜色満面のテロリスト集団の男たちに、華音が再び、静かに話しかける。
「目を閉じて、思い浮かべてみてください」
「もし、あの服に火がついた人」
「熱いと、お母さんに泣きつく女の子」
「爆発から逃げる男の人」
「そんな苦しみと恐怖に包まれて逃げ惑う人々」
華音の声が深い哀しみを帯びている。
喜色満面のテロリスト集団の男たちが、不思議に真顔に変化した。
華音の声が湿った。
「その中に、あなたたちの奥様、娘様、息子様、お父様、お母様・・・」
「そんなあなたたちに、関係の深い方々がおられても、笑顔を見せられるのですか?」
「政権打倒とか、暴力主義革命は、そこまで非道なことも認められているのですか?」
華音の言葉と同時に、テロリスト集団の男の表情に、再び動揺が走った。
「う・・・何故・・・女房の顔が見える?」
「うわ!娘の制服に火がついて!」
「ひどい火傷・・・いや、全身が燃えている」
「あれは・・・孫だ・・・あ!群衆に踏みつけられ、頭を蹴飛ばされ・・・」
「あ・・・母さん・・・押し倒されて・・・血だらけ・・・」
華音は、また静かに、言葉を続ける。
「あなたたちが、しようとしたことを思い出してください」
「その刀と銃を持って、苦しみ、逃げ惑う人に何をしたかったのか」
テロリスト集団の男たちのまぶたが、再び、自然に閉ざされた。
そして、凄惨にして悲惨な情景がまぶたに浮かぶ。
自分たちは、「暴力主義革命」と叫びながら、苦しみ、逃げ惑う人々に、容赦なく刀を振るい、銃を乱射、死傷者は夥しく、吉祥寺駅はまさに血の海。
そして、横たわる死傷者に、笑顔で近づき、その中に、自らの血縁者、知人を見つけ、身体を震わせ続ける。
華音は、再び、テロリスト集団の男たちに尋ねた。
「あなたたちは、こんなことが、やりたかったのですか?」
「こんなことが、あなたたちの目指す理想の世界なのですか?」
「こんなことをして、幸せなのですか?」
華音の質問が決め手だった。
テロリスト集団の男たち、全て力なく、ヘナヘナと座り込んでしまった。
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