第188話吉祥寺駅の不穏、テロ集団の過信と柳生事務所

吉祥寺駅の中央線と井の頭線の線路内及びホームの各所では、極小の光が点滅している。

しかし、駅員、保線管理をする担当者たちは、全くその点滅光に気づいていない。

ただ、少々の匂いや雰囲気に気がつく者もいる。

駅員や保線管理担当者が、ヒソヒソと話を始めている。


「うーん・・・何か油臭い」

「よくわからないけれど、何か変」

「さっきの黒服で角刈り、黒いバッグを持った男たちは何だろう」

「暴力主義革命の始まりとか言っていた」

「どこかの政党綱領?」

「かつての旧国鉄の写真にも、そんなプラカードが写っていた」

「昔の人たちだよね、そういうのって」

「いや、今でも幹部連中には、その関係の人も残っているみたい、それと昔ながらの人たち」

・・・・・

様々なヒソヒソ話が続くけれど、誰一人として、何をどう対応していいのかわからない。

何しろ現時点では、「彼らの目に見える」異変は発生していないのだから。



一方、吉祥寺駅前のホテルに集結した黒服、角刈り、黒い大きなバッグを持った男たちの顔は緊張している。

その男たちの中でも、特に精悍な顔立ちの男は、腕につけたスマートウォッチを気にしている。

「あと10分」

「10分後に、爆発が始まる」

「爆発が始まったら、警察署を襲撃」

「警察官を人質に取る」

「失敗したら、歩いている市民でもいい」


その精悍な男の隣に立っていた黒縁の眼鏡をかけた男は、手に持ったタブレットをタップした。

「暴力主義革命の警告文書は、5分後に、まず官邸に送付」

そして、スマートウォッチを見ている男に確認。

「政党にも送るんだろ?」


スマートウォッチを見ている男は、無言で頷く。



根津ホテルマンは、ホテル内の不穏な様子や会話を動画として、全て柳生事務所に転送している。


柳生隆が即分析を開始する。

「5分後に、官邸に警告メール、そして暴力主義革命を捨てていない政党にも」

「5分では、対応できないと思い込んでいるのか」

「彼らの頭の中は、すでに一般市民を巻き込んだ無差別大型テロの実現に移っている」


柳生事務所の長で、隆の父、清は厳しい顔。

「彼らが気がついていない失敗がある」

「ホテルに集合してしまい、現場である吉祥寺駅には、ほとんど見張り役を残さなかったこと」

「その見張り役は、すでに柳生事務所の井岡スタッフと警察当局で捕縛、銃刀法違反で」

「連絡手段であるスマートウォッチも押収済み」


柳生隆からの連絡を受け、吉祥寺駅で内偵等を続けていた、その井岡スタッフから連絡があった。

「駅の保線管理員で、テロ集団への協力者も確保しました」

「彼らが残してしまった見張り役を追求して、白状させたので確かです」

「やはり、かつてから目を付けていた保線管理要員、成田闘争の生き残り、当時の反対政党の幹部とも親しい」

「もちろん、少女買春疑惑の野党政治家とも懇意です」

「油を各所に撒くことに協力、時限爆弾装置のことも自供しました」


柳生隆は、そこでニヤリ。

「ふ・・・メール送付まで、あと2分半」

「そもそも、送付ができるのか?」

「すでに押収したスマートウォッチから、端末情報は把握」

「簡単に通信遮断はできる」


柳生清も、フッと笑う。

「すでに警視庁の機動隊が吉祥寺駅付近に集結している」

「待ち構えられている、どれほどの成果があるものか」



さて、久我山の大風呂に入っていた華音と松田明美は、ものすごい勢いで服を着た。

脱衣場から出ると、立花管理人が立っている。


「明美さま、大型バイクを玄関に」


松田明美と華音は、玄関に向かって走り出している。


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