第168話別室の中の別室を知っている華音

さて、華音と松田明美はヤクザ男に恐喝されていた美少女が保護されている別室に入った、

松田明美を見て、シルビアと春香は「うっ!まずい!」との顔になるけれど、華音は、全く無関心。

文学研究会部長の長谷川直美と、例の美少女も事情は知らないので、松田明美を見て、「何かキレキレの人って感じ、かっこいい」程度。


・・・ただ、今西圭子と松田明美は、ものすごい視線バチバチ状態。


そんな異様な雰囲気の中、華音は例によって冷静。

「警察庁本庁の松田明美さんです」

「今から、事情聴取とのことです」

とやさしい声で、美少女を見る。


美少女は、その言葉で立ち上がった。

深く頭を下げて

「私、真奈と申します」

「先ほどは、今西さん、シルビアさん、春香さん、長谷川さんに怖い人から助け出していただきました」

「本当にありがとうございます」

かなりの美少女で、性格も真面目なタイプのようだ。


その美少女真奈に、松田明美が冷静に話しかける。

「みんなも気にしているだろうけれど、例の怖い男は、逮捕」

「問題の政治家先生も警察で事情聴取されている」


美少女真奈は、それでホッとした顔になるけれど、すぐに不安な顔に戻る。

「あの・・・父と母は、大丈夫でしょうか」

やはり、ヤクザ男から「両親を血の海に沈める」と脅された不安は消えない。


その問いに対して松田明美。

「大丈夫、全く手出しはさせない」

「今、そこにいる華音君の知りあいの弁護士兼探偵事務所が、ご両親と一緒にホテルに向かっています」


真奈は、その言葉で本当に安心したようだ。

腰が抜けたかのように、ソファに座り込んでしまった。

また、その目から涙がこぼれ落ちている。


華音は、松田明美の顔を見た。

「それでは、事情聴取をお願いします」

「この別室の中に、もう一つ別室があるので」


確かに豪華で広い別室の中に、もう一つのドアがある。

松田明美は、頷いて真奈を伴い、さっそく別室の中の別室に入った。



さて、華音たちは、そのまま別室で事情聴取が終わるのを待つことになる。

長谷川直美が驚いたような顔。

「すごいねえ、華音君、いろんな人とお知り合いで」

「それに、この豪華な部屋の中の別室って、よく知っていたね」


華音は、恥ずかしそうな顔で何も答えない。

その華音を今西圭子が補足する。

「ここのホテルの経営者は、華音君のお祖父さんだったの」

「だから、小さな頃は、この別室に何度も入って遊んだのかな」

「それと、華音君にも、相続権がある」


シルビアも口をはさむ。

「あの当時の華音は、可愛かった」

「ソファに座ると、まるでお人形さん」


春香も続く。

「そこで、人形華音を取り合ったのが、今西圭子さんと、別室で事情聴取をしている松田明美さん」


長谷川直美は、それで納得した。

「そうか、それで、視線バチバチになったんだ」

「これは、面白い」


ただ、華音は、そんな女性たちの話は、何も聞いていない。

腕を組んで、何かを考えはじめている。

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