第156話現世に出現した薬師三尊の初仕事

シルビア、春香、今西圭子も、井岡スタッフとほぼ同時に追いつき、華音と井岡スタッフの対応を見ていた。

尚、今西圭子は冷静に華音とヤクザ風の男たちとのやり取りをスマホで録画している。


井岡スタッフが華音に声をかけた。

「警察への対応は任せてほしい」

「といっても、華音君は、声を出しただけだから、問題はない」

「手錠をかけたのは、暴力抑止行動のため」

「この周囲でも札付きの極道だろう、警察も問題視はしない」


華音は、井岡スタッフの言葉には、頭を少し下げる。

しかし、あまり関心はない様子。

シルビアと春香に目くばせ。

シルビアと春香も、承知済みのようで、華音を中心に三人並ぶ。


すると華音に左手に、突然薬壺のようなものが出現。

華音は、その中に指を入れ、何か薄紫の粉末のようなものを、激しい流血のホームレス三人に振りかける。


「う・・・」

「ゲホ・・・」

「あれ・・・」

ヤクザ風の男たちに、相当の暴行を受けたのだろう、意識を失っていた三人の口から、声が出た。


今西圭子は、笑顔で華音を見る。

「ふ・・・さすがお薬師様」

「流血も止まった、皮膚も回復し始めている」

「打撲も骨折もあったのかな、それも治療を早める粉をまいた」


その華音は、シルビア、春香と一緒に回復しつつある三人のホームレスの前に蹲り、声をかける。


「大変でしたね、痛かったでしょう」

「少しだけ、治療いたしましたが、お加減は?」


三人のホームレスは全員、キョトンとした顔。

「いや・・・すっかり・・・さっきの痛みがなく・・・」

「どうして?あなた様は・・・」

「まるで、仏様のようで・・・」


華音は、尋ねた。

「ここに手錠をかけられている人たちに、借金があったのですか?」


三人のホームレスは、肩を落とした。

「はい・・・私は、競馬で借金をして、払いきれず・・・」

「私は、パチンコで」

「私は、酒代がかさみ」


自業自得のような理由を言うけれど、華音のやさしい顔は変わらない。

「ご家族も、ご心配ではないですか?」

「ご家族の顔を見たいでしょうに」

「ご家族も、不安でしょう」


三人のホームレスの心に、その言葉が響いたようだ。

全員が顔をおおって泣き出してしまった。


その三人のホームレスに、華音が再び声をかけた。

「僕たちにお任せください」

「決して、悪いようにはいたしません」

「必ず、良い状態で、ご家族と顔を合わせられるようにいたします」


驚いて華音の顔を見る三人のホームレスに、シルビアが笑顔。

「大丈夫、この子を信じて」

春香もやさしい。

「この子が救うと言ったら、何があっても救うよ」


今西圭子は、井岡スタッフと顔を見合わせて、驚きの顔。

「現世に出現した薬師三尊の、初仕事かな」


「とにかく、三人のオーラがすさまじい」

井岡スタッフも震えてしまっている。

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