第107話VS柔道部副主将篠山(5)華音の床掃除、篠山の涙
華音がモップを使って床掃除を始めたのを見て、3年生たちは慌てた。
「あ!華音君!いいよ!僕たちの教室だから」
「そんな、喧嘩をおさめてもらって、申し訳ない」
「華音君には何の非も無いんだから」
華音は、それでも濡れモップで丁寧に、床掃除を続ける。
「いえ、掃除は好きなんです」
「きれいになると、心もスッとなるって感じなので」
3年生たちは、目を丸くしたり、感心したり。
「それはそうだ」
「あまり気にしたことはなかったけれど」
他にもモップを持って来たり、ホウキとちり取りを持ってくる3年生も出始めた。
そして、華音に協力するかのように、掃除をはじめた。
「たまにはいいかなあ」
「喧嘩の邪気払いさ」
「確かにきれいになるのは、気持ちがいい」
・・・・
それに加えて、雑巾で窓を拭く人まで出てきた。
結局は、そのクラスの全員が、掃除用具を持ち、何らかの教室美化に取り組んだのである。
さて、華音に「視線で制されてしまった」篠山は、学園長、柔道部顧問、空手部顧問と学園長室まで歩く廊下で、相当な違和感を感じている。
「マジで、華音の正論と目線が怖かったのは事実」
「超真っ直ぐの正論」
「痛いくらいの視線で」
「確かに、何が面白くて、剛をイジメて、ペットボトルを投げたのか」
「おまけに、後ろからチョークスリーパーか」
少し冷静に戻ると、今後のことが不安になった。
「これは厳罰だなあ、下手をすると退学、あるいは処分程度かなあ、自宅謹慎とか、まずいなあ」
「親父に知られると・・・」
PTA役員、区議会議員の父の顔が浮かんだ。
「もみ消すって言ってもなあ・・・」
「証拠もなにも、クラス全員の前だ」
「世間の噂にでもなると・・・」
「親父の顔に泥?」
篠山は、それを思うと、足が震えて来た。
「どう言って、親父を誤魔化そうか」
「華音のせいにする?」
「・・・華音は、俺に何もしていないって・・・」
「むしろ、助け起こされたくらいだ」
もちろん首を絞めてしまった剛に、「自分を弁護しろ」などは、絶対に言えない。
少し離れて歩く剛は、ブスっとして歩いている。
とても「ごめん」と言って、すむ程度の話ではないと、篠山自身が思う。
篠山は、うなった。
「うー・・・絶体絶命か・・・」
また、篠山を見る他の生徒の視線も痛い。
「マジ、顔もあげられない・・・」
結局、篠山は、顔を下に向けて歩く。
その耳に、後ろから、ヒソヒソ声が飛び込んで来た。
「ねえ、篠山さんがね、剛さんにペットボトル入りのコーラを投げて、そのまま後ろから首を絞めたんだって」
「それでね、華音君が出向いて、不思議におさめたんだけど」
「華音君ね、篠山さんが学園長とかに連れていかれた後、床掃除をはじめて、それに3年生の同じクラスの人も、全員掃除を始めたんだって」
篠山は、ここで「完全に負けた」と思った。
そして、そう思った途端、涙が出て来てしまった。
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