第80話感謝状を拒否する華音

華音と女子生徒たちには、見守っていた周囲の通行人たちから、大きな拍手。

華音は、周囲の人たちに頭を下げた後、女子生徒たちに、深く頭を下げる。

「ご協力ありがとうございました」

ただ、女子生徒たちは、恥ずかしそうな、驚いたような顔。


長谷川直美

「華音君の言う通りに動いただけなのに、人助けしてしまった」

花井芳香

「華音君、すっごい心配だった、大丈夫?」

佐藤美紀

「刃物を持ったヤクザみたいな人に、全く動じないし」

志田真由美は泣き出している。

「マジで怖かった」

雨宮瞳も泣いている。

「涙が止まらないし、脚がガクガクしている」


若いヤクザ男を捕縛した警察官から、声がかけられた。

「事件の調書を作りたいので、署まで来て欲しい」


吉村学園長も、華音たちを促す。

「私もついて行くから、心配はいらないよ」


特に女子学生たちが、ホッとするような顔をするなか、華音はサギ被害を免れたおばあさんに声をかけた。

「ねえ、おばあさん、もう、夕方になるけれど」


おばあさんは、「ハッ」とした顔。


華音

「今からホテルとか、難しいと思うんです」

「息子さんとかに内緒にしたいのなら、僕の家に泊まってください」


キョトンとなるおばあさんに、吉村学園長が声をかけた。

「大丈夫です、この子は、華音君って言ってね」

「私の甥なの、信頼してください」


警官からも、おばあさんに声をかけた。

「大丈夫です、この華音君は、私の尊敬する師匠のお弟子さんなんです」


華音は、途中から恥ずかしそうな顔。

おばあさんは、泣き出してしまった。

「・・・そんな・・・こんな見も知らない田舎者を命を懸けて守ってくれた上に・・・」

「お宿まで・・・申し訳なかとです」


そのおばあさんを、吉村学園長が抱きかかえる。

「ねえ、大変でしたねえ・・・はるばる九州からですか?騙されて大金を持ってきて、奪われそうになって、怖い想いをして」

「いいですよ、ご心配なさらず、私どもを信じて」


おばあさんは大泣きとなり、華音たちは神妙な顔で、警察署に出向き、調書作成に協力することになった。


スマホで撮影した現場動画と、おばあさんの話と若いヤクザ男の自供で、調書作成は、スンナリと終わり、警察官から華音に声がかけられた。

「まさか、君が柳生先生のお弟子さんだったとは」

「僕も10年前に指導してもらったんだ」

華音は、頷くだけ、恥ずかしそうな顔のまま。


途中から、警察署長が顔を出して、吉村学園長や華音たちに、挨拶、深く頭を下げる。

「ここの署長です、今回は、本当にありがとうございました」

「警視庁に報告させていただいて、感謝状を贈呈したいと思います」

「それから、おばあさんのお宿の手配まで、誠にありがたいことです」


その警察署長の言葉を、吉村学園長と女子生徒たちと、おばあさんは頭を下げて聞いているけれど、華音だけは、少し困ったような顔。

「あの・・・僕は・・・感謝状はいりません」

「当然のことをしただけなんです、当然のことに感謝状はいりません」

とにかく、感謝状は「不要」と言っている。



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