第67話華音と瞳は、井の頭線でピッタリとなる

華音は、雨宮瞳と一緒に井の頭線に乗り込んだ。

瞳は、そこでやっと、落ちついた。

「華音君、お疲れ様、大変だったね」

つまり、先輩女子たちとの話が疲れただろうという、気苦労のこと。

ただ、瞳も気を使って、かなり疲れている。


華音は、少し笑う。

「いえいえ、みんないい人ばかり、助かります」

「いろんなことを教えていただいて」


瞳は、華音に少しだけ近寄った。

「たいして手助けにはならないけれど、部屋の整理を手伝いたいの」


「え?」と驚く顔をする華音に、瞳はまた近寄る。

「あのね、家も近いし、自転車でも歩いてでもいけるし」


華音は、また笑う。

「ありがたいことです、お待ちしております」


瞳は、その笑顔がうれしい。

「華音君、実はね、私の母が華音君のお屋敷に行ったことがあるんだって」

ようやく、母からの話を伝える。


華音は、驚いたような顔。

「え?そうなんですか?」


瞳は続けた。

「母はね、華音君のお祖父さんの会社に勤めていたの」

「それで、同窓会も、お屋敷でやったとか」

「立花管理人さんも、よく知っているみたい」


華音の目が、ますます丸くなる。

「そうだったんですか・・・不思議な御縁ですねえ」


瞳の心臓が、その「御縁」で、ビクンと鳴った。

瞳は、ますます華音に近寄る。

すでにピッタリ状態になった。

「でね、華音君の小さな時に見たんだって、シルビアさんと、春香さんも」


華音は、驚いて声も出ない。


瞳は、一番言いたかったことを華音に。

「華音君とシルビアさんと春香さんで、カモメの水兵さんを歌ったのを聞いたとか」


すると、今度は華音の全身がビクン。

二人の肩が触れ合うことになった。

華音は珍しくアセリ顔。

「あ!すみません・・・驚いてしまって」

「そんなことがあったような・・・かなり小さな頃で」


瞳は、そんな華音の赤い顔がうれしい。

今までの華音の、冷静で落ち着き払った顔よりも、うれしい。

何より、華音の本当の顔なんだと思う。


瞳は華音に、また話しかける。

「ねえ、華音君」

華音「はい」


瞳の声が少し震えた。

「土日とか、練習がない日とか、一度ゆっくりお邪魔していい?」


華音は、冷静な顔に戻っている。

「わかりました、ご連絡をいただければ、お待ちして・・・」

そこまで言って、少し笑う。

「お迎えにあがります」


瞳は、その言葉で、真っ赤。

「え・・・恥ずかしい・・・ドキドキする・・・」


華音は続けた。

「瞳さんのお母様にも、ご挨拶をしないと」


瞳の顔は、ますます真っ赤になってしまった。

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