第37話華音の剣と、その不安
華音は、しばらく佐野顧問を見ていたけれど、結局、腕を取り立ち上がらせた。
そして、深く頭を下げ
「ご指導、ありがとうございました」
との、お礼。
佐野顧問は、
「あ・・・指導どころか・・・」
と言うのが、精一杯。
華音は、今度は、頭を少し下げ、
「そろそろ、失礼しようと思います」
「竹刀、お貸しいただきありがとうございます」
と、竹刀を佐野顧問に渡す。
佐野顧問は、まだ声が出ない。
「あ・・・ああ・・・」
茫然としたまま、華音から竹刀を受け取る。
それでも、どうしても聞きたいことが一つあった。
佐野顧問は必死に声を出した。
「ところで、合気道でも中学日本一って聞いたけれど、その先生は?」
「柳生先生だったのか?」
華音は、首を横に振る。
「いえ、合気道の先生は、また異なります」
「合気道大会には出たけれど、そもそも合気道かどうか、わかりません」
「もっと古いかも、親父に時々、しごかれただけで、先生なんて資格があったのかなあ」
「ただ、大会に出てしまったのは、柳生先生が勝手に申込んだから」
「僕は忙しくて、会場掛持ちで、道には迷うし、大変でした」
華音は、そこまで言って、笑って頭を下げた。
そして、そのまま剣道場を出ていってしまった。
吉村学園長が、まだ呆然としている佐野顧問に声をかけた。
「佐野顧問、驚かせてごめんなさい」
「華音君は、あんな子だから」
「決して悪気はないの、あの子なりに気は使っていたから、許してあげて」
佐野顧問は、吉村学園長の言葉に驚く。
「いえ・・・許すもなにも、全てが格違いで・・・」
「どうにもなりません」
今度は佐野顧問が学園長に尋ねた。
「学園長は、華音君のことをお知りだったのですか?」
吉村学園長は、にっこり。
「はい、知るも何も、弟の子、だから甥」
「それでね・・・」
吉村学園長は、秘密のことがあるらしい。
佐野顧問に「何か」を耳打ち。
「う・・・本当ですか・・・」
佐野顧問の身体が硬直する。
吉村学園長は、話題を変えた。
「ところで、佐野顧問と、剣道部の諸君、見学の先生と学生諸君」
佐野顧問だけではなく、剣道部員、剣道場にいる全員に声をかけた。
「今日のことは、学園外には秘密に」
「華音君が剣道をここでやったということになると、必ず他の剣道部が見に来る」
「しかし、華音君は剣道部に入る気はない」
「そこで、トラブルが起きる可能性が高い」
「それが高じて、華音君だけではなく、他の学生にも迷惑が及ぶかもしれない」
佐野顧問が頷く。
「都大会に出てもらおうかと思ったのですが、それもしない方がいい」
「実力が違い過ぎる」
そしてつぶやいた。
「あの剣は、高校生・・・いや・・・人のレベルではない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます