第27話華音の鍛錬のことと、文学研究会
華音は、ニコニコと笑いながら、説明をする。
「えーっと、実は剣道部にも、合気道部にも入っていなかったので、個人の資格、当たり前ですけれど、それで、参加したんです」
沢田文美は首を傾げる。
「うん、でもね、どうして?誰かに習っていたの?素人が出て、日本一なんてありえないんだから」
その沢田文美に疑問は、当然、一緒に食事をとっていたクラスメイトたちの視線が華音に集中した。
華音は、それでも、ニコニコ。
「はい、確かに習っていました」
「祖父の知りあいの人で、奈良でも古い流派で、古武道かな」
「江戸時代で言うと、柳生流とか、裏柳生とかって」
「その中では柳生十兵衛って人が有名みたいですね、その人の流れを組む人らしくて」
実に、あっけらかんと、柳生、裏柳生、柳生十兵衛の名前を口にする。
雨宮瞳が、ようやく口を開いた。
「その人に習っていたから、部活に入らなかったの?」
当たり前と言えば、当たり前の質問。
華音は、ニコニコ顔から、少し普通の顔に戻った。
「はい、先生が、部活なんていらないって」
「練習は、毎日、早朝でした」
「朝の4時半から、1時間半きっかり」
「三歳の頃からでした」
沢田文美はため息。
「三歳の頃から、毎朝4時半から、キッチリ1時間半・・・」
「柳生、裏柳生、柳生十兵衛・・・」
口に出すのも、三田華音が口にしたことを、繰り返すのみ。
雨宮瞳は、もう少し聞きたくなった。
「地方大会から始まって、全国大会に申し込んだのは?」
華音は、また、少し笑った。
「はい、先生が、中学三年生の時に、これも修行って、突然申し込んでしまったらしくて」
「それまで、先生以外と、打ち合ったり、投げ合ったりしたことなかったんです」
驚くばかりの周囲に、華音は付け加えた。
「あ・・・柳生の地ってのは、奈良の春日大社からも、近くて」
「いつも鹿さんがいる所」
しかし、そう言われても、まだまだ周囲は驚くばかり。
「・・・すごい先生・・・」
「それで勝ってしまって・・・日本一・・・」
「部活って意味ない?」
「すごすぎ・・・」
雨宮瞳は、また聞き出す。
「・・・それで・・・中学での部活は?」
華音は、また笑う。
「はい、文学研究会でした」
「古文は祖父から仕込まれていましたし」
「英米文学は、英語の勉強を兼ねてでした」
沢田文美は、もう一つ、どうしても聞きたいことがあった。
「ねえ、華音君、私の右足首を治してくれたのは・・・」
「もしかして・・・柳生とか裏柳生とか、古武道の技なの?」
沢田文美の質問には、また全員が興味があるようだ。
華音は、今回は、少し真顔。
「えーっと・・・それは、僕にもわからないんです」
「古武道の治し方は、また別、もう少し時間もかかります」
「沢田さんの時は・・・とにかく早く痛みを消してあげたいって、気持ちだけ」
華音は、そこまで言って、沢田文美に、やさしく微笑んでいる。
華音のその言葉で、沢田文美は顔が真赤になってしまった。
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