第12話華音の不思議な御力?

ようやく沢田文美を乗せた担架が、保健室に到着した。

華音が合図をして、ゆっくと診療用のベッドの上に、沢田文美を移す。

その沢田文美は、移している間も、痛くて仕方がない様子。

歯を食いしばっているけれど、眼尻から涙がつたっている。


保健教師の三井が、本当に慎重に沢田文美のジャージの右足の裾をあげる。

沢田は、また身体をのけぞらして、必死に耐える。


「真っ赤に膨れ上がっているね、これは痛かったよ」

保健教師の三井の顔は、厳しくなった。


「まずは安静、そしてアイシング、圧迫・固定、挙上、つまり心臓より高い位置に、受傷した患部を置くことになるけれど」

「安静はできたので、次にアイシングするよ」


保健教師の三井は、そこまで話して、華音の顔を見た。

華音も、三井の意思を理解したようだ。

「はい、お手伝いします」


保健教師の三井がアイシングパックを準備する間、華音は、そっと沢田文美の右の太ももと、ふくらはぎを持ち上げる。


「沢田さん、痛かったら、素直に言ってくださいね」

「遠慮はいりませんよ」

「大切な右足首ですよ、しっかりケアしましょうね」

持ち上げながらの、声がやさしい。


沢田文美は、持ち上げられている痛みも感じたけれど、華音の言葉が本当にうれしかった。

「この子が、すぐに動いてくれて、ここまで来ることができた」

「今日からの転校生って聞いたけれど、いい子だなあ」

「テニス部員も、顧問も見ているだけで、何もしないで・・・」

「おまけに早くどけ?・・痛くて歩けないのに」

「でも、この子は・・・やさしいなあ・・・」


沢田文美が、そこまで思った時だった。

沢田文美は、華音に持ち上げられた右足の太もも、ふくらはぎから、痛む右足首に向かって、別の感覚を覚えた。


「あれ?何だろう・・・」

「華音君の手のひらが、気持ちがいい」

「温かいっていうのか、それでいて、スッとなるような、痛みがやわらぐ感じ」

「持ち上げられていて、直接ベッドに接してないからかなあ」

「うーん・・・でも、右足全体がホカホカしてきた・・・軽くなったような気がする」


「さっきの、のけぞるような痛みは全くない」

「うーん・・・何だろう・・・」

「足首のメチャクチャな痛み、ジンジンした痛みが・・・あれ?」

「スッとなってきたような気がする」


沢田文美は、「これなら」と思って、右足首を少し動かしてみる。

そして驚いた。

「え?マジ?ちょっと痛いけれど、動く・・・」

「えーーーー?さっきまで、どうにもならなかったのに」


その沢田文美に、華音が、またやさしい声。

「沢田さん、まだだめです、しっかりアイシングして、熱を取り除いてからです」

「早く治すには、今が一番大事な時間帯です」

「さあ、アイシングパックを三井先生がセットしますので、またゆっくりとおろしますよ」

「痛かったら、遠慮しないで、言ってくださいね」


沢田文美は、そんなことを言われて、「うーん・・・やさしいなあ、いい子だ」

と思って、その右足を全て、華音に委ねた。


ようやく、沢田文美の右足首が、アイシングパックの上に、置かれた。

沢田文美は、その時点で、相当痛みが減っていたようだ。

上気していた顔も、いつもの色白の顔、落ちついている。


保健教師の三井が、沢田文美の右足首を、もう一度、改めて見た。


そして、驚いた。

「え?マジ?あの真っ赤な腫れが・・・ほとんどない!」


その三井の言葉で、保健室に集まっていた雨宮瞳他、全員が目を丸くしている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る