第11話雨宮瞳の、華音に対する恋心が芽生えた瞬間
グラウンド内を、三田華音と雨宮瞳、そしてクラスメイト達が、沢田文美を担架に乗せて、慎重に運ぶ。
その姿を見かけたらしい、他の運動部員たちが、たくさん集まって来る。
「ねえ、沢田さん、どうしたの?」
「どうしたの?」
沢田は痛みが強いらしい、声も出せない。
雨宮瞳が答えた。
「右足首が捻挫みたいです」
「それで担架に乗せて、保健室に」
保健教師の三井も雨宮瞳を補足する。
集まって来た運動部員たちの関心は、担架の前を持つ三田華音にも向けられた。
「ねえ、瞳ちゃん、前の子、見かけない顔だけど」
「もしかして転校生?」
華音が、それには答えた。
「はい、今日から転校してまいりました三田華音と申します」
ただ、答えるのは、それのみ。
本当に真剣、慎重に担架の揺れを抑えようと、進んでいく。
するとまた運動部員たちは、声をかけてくる。
「ねえ、瞳ちゃん、テニス部で担架持っているのは瞳ちゃんだけだよ」
「テニス部員が何で、持たないの?」
「仲間なんでしょ?高田顧問は何をしているの?」
雨宮瞳は、本当に応えづらそう。
「すみません、まず華音君が沢田先輩の怪我を察してくれて、すぐに動いてくれて、こうなってしまって・・・」
応えるのもそんな程度。
保健教師の三井が、また補足する。
「テニス部員も、高田顧問も、見ているだけだった」
「中には、邪魔だから、どいてって言っていた人もいたみたい」
「怪我人を助けようなんて気持ちを全く感じなかった」
それを聞いていた他の運動部員に、動揺が走った。
「じゃあ、華音君が気が付かなかったら、担架も遅れたの?」
「呆れるよね・・・」
華音から、また返事があった。
「すみません、今日、転校したばかりで、出すぎたかもしれません」
「でも、痛みを早くやわらげてあげたいだけで」
「今は、言葉一つ一つが、右足首に触る状態、響く状態と思うんです」
保健室の教師三井が、驚いたような顔で、華音を補足。
「あなたたち、心配してありがとう」
「今は、華音君の言う通り、治療を急ぎます」
その言葉で、集まっていた他の運動部員も、担架の周りを離れ、担架はスムーズに進むことになった。
雨宮瞳は、ここでも感心しきり。
「私だったらオタオタして、立ち止まって話したりして、治療が遅れたかも」
「華音君は、何よりも痛んだ人を優先している」
そしてまた感じた。
「華音君の背中、見ているだけで安心する」
「あのお顔もきれいで可愛いけれど、言う事、やる事がシンプルにして、真実味がある、すごくやさしいし、そのうえ強い」
「・・・なんか・・・ずっと一緒にいたいなあ、華音君なら」
これが、雨宮瞳の心に芽生えた「恋心」の瞬間であった。
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