第72話 ~デデのお父さんは考古学者~

「親父って、もしかして……」

「デデのお父さん?」

 みんながデデを見た。ぎゅっと口をつぐんで、親父と呼んだ人を鋭い目で睨みつけていた。

「まさか、デデなのか?」

 考古学者は歩くと、もっさりと大きな耳が揺れて土埃が落ちていった。

「わりぃ、外に出てるわ」

 デデは視線をそらすと、踵を返して遺跡を出ていく。

「あ、待って」

 ポメは思わず止めようとした。上げた手をマニが静かに止めて、首を小さく横に振った。

「もしかして君たちは、デデの友達なのかな?」

 考古学者はポメたちを見回してそう言った。

「は、はい。僕たちデデとずっと旅をしてて」

「そうか……」

 考古学者は近くの岩に腰かけた。

「とりあえずイリイさん、取材だったな。早く始めようか」

「私はいいですけど、センセイは大丈夫ですか?」

「あの子とはあとで、話をするよ」

 

 考古学者……デデのお父さんは、遺跡での話をイリイさんに伝えていた。

 考古学者らしく、この遺跡でどんな調査が進んできたのかを、淡々と伝えていく。

 でも考古学者らしく、その話は色んな専門用語が使われてて、とてもポメには理解しにくい内容だった。

 イリイさんはその言葉をこと細かく全てメモしているようだ。

「……それじゃあこの遺跡の奥にまつわる秘密が、もう少しで分かりそうなんですか」

「もう少しか……分からないが、大昔に彼らが崇拝していたものの、手がかりが掴めれば、近道になるはずだよ」

 デデのお父さんによると、この遺跡は元々洞窟で、ここの住民たちが暮らしていたという。それがいつしか神殿として扱われるようになって、住民たちは外で暮らし始めたのだという。

「不思議なのは、住民たちが暮らしてなかっただろう、手つかずの洞窟のような場所でも点々と、生活の痕跡が残っていたことだな」

「どういう意味なんでしょう?」

「そうだな……多くの民は外での暮らしを選んだが、一部の民は洞窟の奥で暮らしていくことを、選んだかもしれない」

 デデのお父さんは、もう何年もこの遺跡の調査をしている。遺跡の奥には死の世界に繋がっているとか、昔の時代に戻れるとか、神が眠っているとか……色々言われているのだそうだ。

「うーん、デデの父さんの話、なんだか難しいけど、イリイさんはあれを記事にするのか?」

「ふふ~ん、イリイさんはああいう難しい話を分かりやすく、テンポよく面白くする天才なのよ!」

 ロココは自慢げに胸を張ってそう言った。

 ポメもデデのお父さんの話を、静かに聞いていた。話が難しいのもあるけど、どうにも頭に入らない。

「……ねぇポメ」

 ポメに、マニが小さく話しかけてきた。

「な、なに?」

「やっぱりデデのこと、気になる?」

 図星だった。デデのお父さんの話を聞きながらも、デデのことがずっと頭にちらついていた。

 ポメは静かにうなずいた。

「デデがお父さんと何があったのか、分からない。けどここに引き留めるのは、よくないと思ったの」

「うん、分かってるよ」

 あの時、ポメは思わず引き留めようとした。でもそれを止めたマニが正しいと、今は分かる。

 あの時のデデからは、僕を相手にする時とは全然違う、機嫌の悪さ。本当に、すごく嫌っているような感じが、溢れるほどに出ていた。

「でも、一人にするのもよくないと思うんだ」

「強がりな感じするものね、デデって」

 デデのことを考えると、どうにも鼻がむずむず、足のつま先がそわそわしていた。

「やっぱり、行ってくるよ」

 ポメは駆け足で、デデの元へ向かった。

 

 ―――

 

 遺跡の外に出ると、空が夕焼け色に染まっていた。デデがどこにいるか、探そうとしたけど、すぐに見つかった。

「デデ、大丈夫?」

 遺跡の壁にもたれかけていたデデに、ポメは近づいた。

「あ、なにがさ?」

 じとっとした目で、デデは睨みつけた。ポメはデデの近くに、ゆっくりと歩み寄る。

「お父さんと、何かあったの」

「…………」

 お前に話すことなんかない、と言わんばかりに口を曲げている。でも鼻がむずむず、耳がぴくっぴくと小さく動いてるのが分かった。

「お前、俺の家族について、何か知ってたっけ?」

「うん、おばあさんと二人暮らしだよね。それで、お母さんは……」

 デデとはあまり話したことはない。でもデデはおばあちゃんと一緒に住んでいることはよく知っていた。それに、お母さんのことも。

 デデのお母さんは、僕たちの暮らすアルメリシアでは有名な演奏家だったって聞いたことがある。でもデデが幼い頃に、病気で亡くなったということも聞いている。

「母さんはさ、元々体が弱かったんだよ。でもあいつは、それを分かってて、ずっと遺跡の調査なんてしてたんだよ。亡くなったときも、家に帰ってこなかったんだぜ」

 デデの言葉が、ナイフのように鋭く聞こえた。

「いいよな、お前の父親はさ。ずっと街にいるんだから」

「でも……お母さんは違うよ。忙しくって中々帰れなくて」

「立派な仕事をしてるんだから、仕方ないだろ!」

「それは多分、デデのお父さんも同じだよ」

 デデはきっと睨みつける。そのままうつむいた。

「遺跡の調査なんて……なんの役に立つんだよ」

 

 ポメはそれ以上、どうしてもデデには何も言えなかった。

 デデは頑固なとこがあるから、何を言っても聞いてくれないのもあるけど、ポメとデデは、両親の状況が似ているようで全然違うんだから。

「へヘ、アイツはやっぱ頑固なヤツだナ」

 宿へ向かうポメに、フォルが現れた。

「デデの怒る気持ちも分かるから、強くは言えないよね」

「まァ、オレ様はそれよりモ、気になることがあるけどナ」

「気になること?」

「あァ、あの遺跡サ」

 フォルは遺跡を指さす。入口よりも、少し下の方を指しているような気がした。

「あの地下にはおそらク、とんでもねぇ譜面石が眠ってるゼ?」

「分かるの?」

「あァ、感覚でナ」

 くるりん。フォルはひねるようにして逆さのままポメに顔を近づけた。

「しかも見たことねぇようナ、すげぇ効果を持つ石かもしれねぇゼ……?」

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