第71話 ~荒野の集落と、翼をもつ記者と~

「ここが、アンサーク……」

 今までの旅で、色んな町を訪れてきた。どこも賑やかで、見たことのない景色であふれていた。

 アンサークはとっても静かな集落だ。フロッカの集落も静かだったけど、ここはなんだかいやな視線を感じる。

 外を歩いてるヒトたちが、ぽつぽつといる。みんなウサギで、ポメたちのことをじっと睨んでいるようだった。

 それに、家からもこっちを見ているみたい。

 ここの家は、まるで布でくるんだような見た目をしている。布の切れ目から、ここの住民が顔を覗かせていた。

「なんか、あんまり歓迎されてないみたいだな」

 ジェコがきょろきょろと見ながら言った。

「仕方ないわよ。ここはあんまりよそ者を受け入れなかった歴史があるからね」

 ここに来るまでに、トリキリデとリフテイルの街道からはそんなに離れていない。そのはずなのに、旅人のようなヒトは見当たらなかったし、お店らしき建物もなかった。

「ま、悪いヒトたちじゃないわよ。前にヒナコリで来た時は、みんな聴きに来てたし」

 ヒナコリは、ロココがポメたちと旅する前に入っていた音楽団だ。

 とにかく悪いヒトたちじゃないというのは、少しばかり安心感があった。

 いつオロオロさまに襲われるか、警戒しながら崖を進むよりも、ここで一夜を過ごし日の高いうちに街道を抜けるのが、きっと一番だ。

「でもさぁ、こんなとこに宿屋なんてあるのか?」

「失礼ね、ちゃんとあるわよ!」


 ―――


 集落の隅っこの家に、宿屋の受付となる建物があった。他の住居と見た目は同じで、違いがあるとしたら布にベッドのマークが描かれてあるくらいだ。

 ここはただの受付所で、空き家が泊まるところになる。ポメたちは二つの家を借りた。

「ふぅん、使わなくなった家を宿として利用してるわけね」

「それにご飯つきだから悪くないわよ」

 マニとロココが先頭を歩いて、借りた家へと進んでいく。

「しっかしまぁ、本当になんもないとこだなぁ」

 ポメやジェコは辺りを見ながらゆっくりと歩いていた。

「でもほら見てよ、あそこ」

 ポメはアンサークの奥の方を指さした。だだっ広い荒野に、点々とした家以外に小さな丘みたいなのがある。遠くてよく見えないけど、何かの形を象っているようにも見えた。

「あれって、遺跡かな」

「おぉ、なんか気になるな」

「ねぇね、デデはどう思う?」

 ポメはちらりとデデの方を見た。デデはポメたちの話も届いてないようで、上の空だった。

「ねぇデデ、聞いてる?」

「あ、なにが?」

 返事をしてくれたけど、声色を聞いただけでポメは分かった。今のデデは、すこぶる機嫌が悪いのだと。

「ううん……なんでもない!」

 一緒に旅をして、デデのことは分かってきた。僕のことをライバル視するけど、イジワルなんかじゃない。

 でも今のデデは、まだ見たことのないデデのような感じで、近づくのがちょっと怖かった。

「あぁ~!」

 突然、ロココの声が聞こえた。ぼーっとしてたデデも、目をバッと大きくさせた。

「な、なんだよ一体」

「行ってみようか」

 ポメたちも駆け足でロココたちの所へ向かった。

「ロココさん、何してるの?」

 家の前に、ロココともう一人、女のヒトがいた。ここの住民とは違う衣装で、ロココとは対照的に背が高く、青い羽根に身を包んだカラスの女性がそこにいた。

「いやぁ~まさかココで会えるなんて! アタシね、アナタのファンなのよ! んもう、一人でいろんなとこに取材に出かけて、クールなとこがね!」

「ふふ、ありがと。まさかそんな熱血なファンがいてくれるなんてねぇ」

 ぶんぶん、ロココのしっぽはゴムまりが弾むように大きく揺れている。ぶんぶん、女性と握る手も激しく揺れていた。

 ロココにとっては、まるで有名なヒトみたいだ。そしてポメたちも、そのヒトに見覚えがあった。

「ねぇジェコ、あのヒトって」

「あぁ、確かトマリギで……」

 二人がひそひそ話をしていると、カラスのヒトはじっと二人に目をやった。

「んん~、なんか見覚えのある子たちがいるわね」

 ポメたちに気づくと手を振った。肩にかけているカメラのレンズが、きらりと光る。

「イリイさん、だよね。確か」

「うんうん、正解!」

 イリイはカメラを持って、ポメを撮るふりをしてみせた。

「え、もしかしてアンタたち知り合いだったの!?」

「前に会ったことがあるんだ」

 イリイはジェコと出会ったノウィザーの次に訪れた、トマリギで出会った新聞記者だった。

 あれからずいぶんと経ったけど、トリのヒトと話す機会が滅多にないから、ポメたちにとって印象的だった。

「イリイさんは、どうしてここにいるの?」

「ここには定期的に取材に来てるのよ。今からそのヒトのとこへ行くとこよ」

「ねぇねぇ、それならアタシたちもついてっていいかしら?」

「まー、別にいいわよ。当然だけど、邪魔しないようにね」

 そうしてポメたちは、イリイの取材についていくことにした。


 ―――


 イリイが進む先は、さっきポメが指さした遺跡のような場所だ。近づいてみると、側面に柱や大きな像が彫られている。

 そこまで大きくはないけど、荒野に構えていると存在感があった。

「なんだか歴史を感じるね……」

「遺跡の調査をしているヒトによるとね、オルゴア王国ができる前からあるんだって」

「そりゃあ途方もないほど昔だなぁ」

 神殿の入口の先は、下へと続く階段になっていた。点々とランプが置かれていて、足元がなんとか見えるようになっている。

「私の取材相手は、この奥で調査をしてる考古学者よ」

「考古学者……」

 デデが、ぽつりと呟いた。ポメにしか気づかないくらい、小さな声で。


 神殿の奥へ進むと、ハンマーやハケみたいな、考古学にありがちな道具が床に並べてある。その奥の壁に向かって、指を当てているヒトがいた。

「どーも、調査は捗ってます?」

 イリイの声が反響して聞こえた。考古学者はこっちに気づくと、埃を払ってやわらかな笑顔を見せた。長い耳を垂らした、ウサギのおじさんだ。

「おやぁ、今日はずいぶんと賑やかだね」

 ピタリ。デデが足を止めた。拳がふるふると、震えている。

「や、やっぱりオヤジか……」

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