第67話 ~おばけが放つ、甘い誘惑~

「どうしよう……」

 おばけは、じっとこっちを見つめている。細い目からは、妖しい紫色の光が漏れていた。

 きっと今までのおばけと同じだとしたら、迂闊に近づくわけにはいかない。

 でも困ったことがある。それを分かっているのは、自分だけだということだ。

「どうやって、デデたちに近づかないように言えば……」

 後ろを見る。みんなも、ポメと同じように立ちつくしていた。

「あれ、どうなってるのかしら……」

「おいおいなんか、ヤバくねぇか?」

 三人の表情が、曇っている。まるでポメのように、おばけが見えているような。

「みんな、どうしたの?」

「どうしたのってアンタ……あの木が見えないの?」

 おばけにじっと目を凝らす。おばけに隠れてよく分からなかったけど、後ろの木……みんなが寄り添っていた木が、動いていた。

 フォルがうなずいた。

「おそらク、あの木に憑りついてるんだナ」

「おばけって、木にも憑りつけるの?」

「木だって生きてるんだからイケるんじゃねえカ?」

 ズズッ。地面が妙に盛り上がる。前から、後ろへ。ポメは振り返った。

「危ない!」

 地面から、木の根っこが飛び出す。デデとマニの足を掴んだ。

「な、なんだよこれ!」

 ゆらり。デデの後ろに、二つの青白い光が見えた。あのおばけだ。暗闇から現れた、とげとげしい葉っぱの手が、デデの体をガシっと包んだ。

「あぁぁ!」

 デデは全身に鋭い痛みを感じた。気を失ったように、倒れ込む。

「な、なんてことしてくれんのよ!」

 足をつかまれてなかったロココは、木に向かって飛び込んでいった。カラットの体をつかんで、引き離そうとする。

「やメてぇ……ソの子を、連れてかナいでぇ!」

 木の根を伝っているのか、おばけは一瞬にして、ロココの目の前に来ていた。

「ロココさん、逃げてぇ!」

 おばけが、ロココの体を包んだ。

 

 ―――

 

「う、うぅ」

 デデはぼんやりとした景色の中にいた。

「オレ、確か墓地の中でぶっ倒れて」

 顔を上げる。その先に見覚えのある顔が、見えていた。

「あれは、母さん?」

 よく見えないけど、その姿は見覚えがある。自分と同じ形の耳をした、お母さん。

「オレの知ってる笑顔だ……」

 デデのことを、手招く。両手を広げて、デデのことを受け止めようとしていた。

『こんなところに、母親がいるはずがない』

 そう分かっていても、デデにとってその母親の誘惑は、抗えるものではなかった。


「デデ、どうしたのさ!」

 デデはゆっくりと、木に引き寄せられていく。足をつかむ根っこが引っ張っているわけじゃない。自分の足で近づいていた。

 ただうわごとのように、母さん、母さんと呟いているのが聞こえる。

「こりゃア、あのおばけの力みたいだナ」

「それじゃあ、ロココさんも」

 すっかりおばけの抱擁を受けてしまったロココも、気を失っていた。カラットと寄り添うようにしている。

「ねぇポメくん。一体どうなってるの?」

 マニはポメに聞いた。マニもまだ、おばけの影響は受けていない。

 でも足は絡みつかれたままだ。

「どう、すれば……」

「忘れんなヨ、ポメよォ」

 フォルは厳しい声で言った。

「今までのおばけを忘れんナ。みんナ、何かしら苦手な音があっただロ?」

「それじゃあ、あいつにも……」

 マニに怪しまれるかもしれない。それをわざわざ説明する時間もない。

 でも今は、急がないと。

「なにしてるのよ」

 ポメはトランペットを構えた。そして吹き鳴らす。

 でもおばけには、まったく反応がなかった。

「な、なんで……」

「おおかた予想してたガ……効く音と効かない音ガ、あるんだろうナ」

「うぅ」

 たじろいでいる間に、ついにポメの足にも、木の根っこが絡みついた。

 目の前におばけが迫る。

「あなタも、母のぬクもりに抱かれなサぁい!」

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