第66話 ~愛する我が子を、抱えるように~

 ―――


「……ねぇ、なんか様子がおかしくない?」

 ポメたちは一目散に大樹の入口へと向かっている。近づくにつれて、入口から溢れるほどの妙な人だかりが見えてきた。

「おい、こんな状態で大丈夫なのか?」

 それは、入口を通るのも一苦労なほどだった。三人は離れないように進んでいく。

「カラットくんがいなくなったことと、関係してそうね」

 マニが先頭に立って、墓地の入口へと向かっていった。

 しかし、人だかりのど真ん中で、マニは立ち止まった。

「どうしたの?」

「見てよ、アレ……」

 マニは指をさした。すぐ先には人だかりもなくなっている。

 その先にあるのは、墓地への入口。しかし、神官たちによって封鎖されていた。

「なぁ、一体何が起きてるんだ?」

 デデはすぐさま隣のヒトに聞いた。

「なんでも、中に入ったヒトたちが出てこなくなっちまってるんだとさ」

「なんだよ、それ……」

「さぁな。ともかく、今は誰も入れないように封鎖してるのさ」

 ポメとマニは、お互いに顔を見合わせた。

「ねぇ、カラットくんはいると思う」

「そりゃ、きっと……」

 いると思う。でもそれを確かめるすべはないし、中に入ることがかなわないのも、目に見えていた。

「とにかく、諦めてここは離れましょ……」


 ―――


 大樹の外に出ると、人だかりはさらに増えていた。騒ぎもどんどん広まっているようだった。

「せっかく来たのに、ここで待ってるのか?」

「この状況じゃあ、大人たちに任せるしかないんじゃない?」

「そう、だよね……」

 でも。と、ポメは口に出しかけた。

 ポメには一つ、気がかりなことがあった。

 みんなから少し離れたところに移動した。ひょっと現れたフォルに、こっそり声をかける。

「ねぇこれってさ、例の“おばけ”たちに、なんか似てない」

「あァ、よく気づいたナ」

 フォルは腕を組んでふんと鼻を鳴らした。

「あいつらと似たにおいガ、向こうから漂ってきてたゼ。出てこなくなったって奴は間違いなク、なんかの虜になっちまったんだロ」

「そ、それじゃあ……」

もしそうだったとしたら、このままじゃ危ないと、ポメは思った。

「早く、助けないと!」

 ポメの大声を聞いて、デデとマニは振り返った。

「どうしたの、ポメくん」

「い、いや……」

 フォルと会話をしていたことは、マニにも言えない。なんて言おうか迷っていると、声が聞こえてきた。

「ちょっとアンタたち、こんなとこで何してるのよ」

 振り返ると、そこにはロココがいた。


「……ふぅん。つまりアイツが昨日、行方知れずになって、朝になったら墓地が封鎖されてたってことね?」

「何か大変なことが、起きてるんじゃないかな」

「そりゃあ、起きてるはずよね」

 ロココは歩き出した。その方向は、大樹の入口とは反対の方向だった。

「でもよぉ、大人たちに任せるしかないんじゃないか」

「どうにかしてくれると、思う?」

 マニは振り返らないまま、そう言った。

「アイツらのことよ、塞ぐだけ塞いで、どーせ何もしてくれないわ」

 ロココの口ぶりは、まるで昔からあの神官たちのことを、知っているみたいだ。

「で、でも中には入れないんだぜ?」

「そう、普通ならね」

 くるり。ロココは振り返った。いつもの顔の、その目の奥に、強い光があるように見えた。

「でも墓地に繋がる抜け道は、アイツらでも知らないはずよ」

 ロココは走り出した。ポメたちはお互いに目を合わせると、すぐに追いかけていった。


 ―――


 ロココがたどり着いたのは、大樹の壁際だった。入口からも、遠く離れている。

「こんなところに、道なんてあるの?」

「ふふ~ん」

 ロココは鼻歌まじりに、壁をペタペタと触っていく。

「アタシもね、よくまいたものよ。ここに抜け穴があるなんて気づかないから、逃げ放題なのよね」

「…………」

 ちらりと、ポメとデデは目を合わせた。

「このへんね」

 そう言うと、ロココはひょいと足をかけて登り始めた。

その様はさながら、カラットが大樹を登ったときの姿だと、ポメは思った。

「ここから中へ入れるはずよ」

 ポメの手が届くか届かないかくらいのところで、ロココの体がすっと奥へと消えていった。

 ついに、中へと入ることができる。でもいまだに、何がいるかは分かっていない。三人の間にもようやく、緊張感が走るのが伝わってきた。

「一体何が、いるんだろう……」

「ま、墓地だしな。本当におばけが、いんのかもな」

 何気なく出た、デデの言葉。それを聞いて、ポメはどきっとした。

「勘がするどいじゃねえカ、あいツ」

 ケッケッケ。高い声で笑うフォルを見て、ポメは小さくため息をついた。


 ―――


墓地の中は、薄暗い。隙間からわずかに光がこぼれているけども、遠くは見えなかった。

「離れないようにしないと」

 ポメとデデ、マニとロココは手を繋いだ。

 ゆっくり、一歩一歩進んでいく。

「この町の墓地はね、他とはちょっと違うのよ。木を植えて、そこに死者の名前を刻んだお札をかけてるのよね」

 一本一本、木を通り過ぎていきながら、ロココは小声で説明していった。

「魂だけでも、このトリキリデの一部としていてほしいという願いかしらね」

「でもどうしてカラットは急に、きも試しなんてしたんだろう」

「…………」

 少しの間、妙な静けさが包んだ。

 どこへ進むべきかも、分からない。そんな中でも、ロココは先陣を切って、確実に、ある方向へ向かっていった。

 まるで、この先にきっと、何かがあると分かっているかのように。

「……ねぇ」

 静寂を遮ったのは、マニだった。

「なにか、聞こえないかしら?」

「なにって?」

「あぁ……俺には聞こえるぜ」

 じりっと、ひとしずくの汗がデデの頬を伝った。

 目の前の、暗闇の向こうから、かすかに聞こえてくる。

 最初は、うめき声かと思った。でもちょっと違う。その声に、苦しむ感じがしないのだから。

「な、なによあれ!」

 ロココのしっぽがぶわっと揺れた。

 先にある木に、何人もの人たちが群がっていた。そして周りの根っこが、それを抱くように巻きついている。

 なにより、みんながまるで、安心して眠っているように見える。それがポメたちにとっては、不気味だった。

「カラットくんだ!」

 その中に、カラットもいた。まるで自分から、抱きつくように。

 ポメは走り出す。

「おイ、危ねぇゾ!」

 フォルの言葉に、ポメは足を止めた。ヒュン。鼻先で、何かが通り過ぎていった。

 ごくり。ポメは息を呑んだ。

 目の前の木と、重なるように、見えている。デデたちには見えないものが。

「これが……ここのおばけなんだね」

 鼻先をかすめたのは、刺々しい大きな葉っぱだった。それがまるで手のように、そのおばけは顔を隠す。

 丸く大きな体。フクロウみたいな仮面の目のそばに、涙のような宝石が埋め込まれている。

「コの子たちは……つれテいかせないわよぉ……」

 おばけの声が、ポメの耳にだけ届いていた。

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