第64話 ~カラットたちの、おそろしオドロキきも試し~

 草むらから顔を出したのは、三人の子どもだった。トリの少女に、イヌの男の子。そして真ん中にいるのは、カラットだ。

「でもこんな夜遅く……本当に行く気?」

「夜遅く、だからこそじゃないか!」

 二人は、カラットと一緒に冒険ごっこをする友達だ。一緒に孤児院を抜け出せば、一緒に叱られたりもする仲だ。

「やっぱこんな時間だと、ぞっとするなぁ……」

 イヌの男の子は、肩をぶるっと震わせた。

「なっさけねぇこと言うなよ! おばけなんていないってこと、証明しようぜ!」

 どん、とカラットは胸を強く叩いた。

「だ、大丈夫よね……?」

「う、うん……」

 そんなカラットが一番体を震わせているのを、他の二人は知っていた。


 三人は大樹の中へと、入っていった。真夜中とはいえ、中にはまだ大人たちがまばらにいる。

 それでもその目を盗んで墓地へ行くのは、冒険ごっこをこなしているカラットたちにとっては造作もないことである。

「明かりがないと、なんにも見えないね」

 トリの子はランプを取り出して、とんとんと叩く。中に入っているキノコは刺激を受けると発光して、ぼんやりと辺りを照らした。

「でも、そんな明かりじゃあな」

 それでも外とは違う暗闇の続く先へ、三人は進む勇気がなかった。その先にある木々の一本も見えないほどの暗闇には、何もいないと分かっていても、何かがいそうな空気が立ち込めているようだった。

「こんな暗い中、おばさんはいつも一人で来てるんだよね」

「そ、そうさ!」

 カラットの返事は上ずっていた。

「お墓って、おばさんの旦那さんと息子だったよね?」

「うん。隣町に行く途中の、事故とかだっけ……」

 マリエットは夫と子どもがどうなったのか、子どもたちには話していない。

 それでも子どもたちは、察していた。自ら調べなくても、冒険ごっこをしていると自然と大人たちの言葉が耳に入ってくるのだから。

 三人は、一歩一歩、足元を確かめるように進んでいった。これでもかというくらい、ぎゅっと身を寄せ合って。お互いの震える息遣いが、しっかりと聞こえてくる。

「ね、ねぇもう帰らない?」

「まだ! まだだよ!」

 冷たいほど静かな空間で、カラットの声が大きくこだました。

「せめて墓の前まで行かねぇと……なんかこう、おばけがいないって、証明にならないだろ!」

「そういうもんかなぁ」

 イヌの子が首をかしげる。カラットのしっぽがびしっと背中に当たった。

「び、ビビッてんなよ……ずっと冒険ごっこしてきた仲だろ?」

 カラットはトリの子から、ランプをつかみ取った。

「見てろよ……オレに怖いもんなんて、ねぇんだからな」

 すうはあ、すうはあ。カラットは何度も深呼吸をして、ずんずんと進んでいく。二人はぼそりと呟いた。

「カラットくん……ずいぶん熱くなっちゃってるね」

「でもさ、カラットをあんなにムキにさせるロココって子、すっげぇな」


「こ、ここだよな?」

 カラットたちは、ある木の前にまでやってきた。

 その木は確かに、マリエットが立ち止まった木である。

「……で、ここにきて、どうするわけ?」

「なんにも、いなかったよね」

 二人は顔を見合わせる。カラットはワハハと、大きな声で笑ってみせた。

「そう、なんもいない。おばけなんて、いない! やっぱりあのロココって奴、オレにウソをついたわけさ!」

「ウソ……ってことに、なるのかしら?」

「まぁ……カラットがそう思うなら、いいんじゃない?」

 それでも、カラットの笑い声を聞いていると、二人も少し気が緩んできた。カラットだけじゃなくて、二人も怖かったのだから。

「それじゃ、さっさと戻りましょうよ」

「おばさんにバレると、色々とヤバいし」

「おう、そうだな!」

 どんどん、強く足踏みを鳴らして、カラットは木から離れようとする。

「…………」

「ん?」

 でも、カラットは足を止めた。

「な、なぁ二人とも」

「どうした?」

「なによ?」

 二人は振り返る。ぞっと顔を青くするカラットを見て、二人は首をかしげた。

「い、今……なにか喋らなかったか?」

「フツーに喋ってるじゃないの」

「いや、オレの後ろからだよ!」

 たしかに、何かが聞こえた。カラットには。後ろから、声らしきものが。

「何言ってんだよ。さっさと行こうぜ」

「…………」

 背筋が凍るようだった。カラットは今すぐにでも駆けだしたかった。

 でも二人がいる手前、そんな恰好のわるいことなんて、できない。

「な、なんでもない……ただの空耳、空耳……」

 すう、はあ。すう、はあ。深呼吸をして、震える膝をなんとか動かしながら進もうとした。

 でも、その足首に、何かがからまった。

「あぁぁ! うわああぁ!」

 ぐいっと、後ろへ引っ張られる。カラットはそのまま倒れて、ランプを落とした。発光キノコが放り出されて、三人から遠くへ飛んでいってしまった。

「や、やだなによ!」

 急に暗闇の中に、取り残された三人。すぐそばにいるはずのみんなも、見えない。さっきまでの安心感も、完全に吹き飛んでしまった。

「た、たすけ……」

 かすかに、カラットの声が聞こえる。

「と、とにかくここから出よう!」

「そうね!」

 すぐそばにいる、はず。二人はそれだけを信じて、かすかに明かりの漏れる出口へと走り出した。

「待って、待ってくれ! 助けてくれよぉ!」

 カラットは必死に手を伸ばした。でもその手をつかむ人も、その声を聞く人もいない。

 暗闇の中、カラットは一人だけ。あの声が、しっかりと、はっきりと、聞こえてくる。

「……コの、町を……」

「や、やだぁ……」

「コの町を、出ていこうとするのは誰ェ?」

 足に絡まったツタは、ずるずるとカラットを自分の木へ引き寄せていった。

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