第61話 ~僕らを縛る、おばさんの笑顔~

 ―――


「……なんだよその情報、うさんくせーなぁ」

 ジェコは孤児院に戻ると、あの情報をポメたちに伝えた。だけどもその話を、デデは眉をひそめてその話を聞いていた。

 なにせ、見つかった情報が抽象で曖昧な語られ方をしている。“詩”というかたちで、伝わっているのだから。

「まぁ、あの話をしてたじいさんも怪しいんだけどな……」

 ジェコも顔をしかめながら、話を続ける。

「でもさ、今までの話と比べたら……色々と、合うだろ?」

「うん、そうだよね……」

 ポメは腕を組みながら、うつむく。

 最初に得た情報は、ルーチ・タクトを追っていたという新聞記者の話だ。カルカルから王都へ直接向かうなら、リフテイルの近くを通ることになるはずであった。

 その次は……ルーチ・タクトのメンバー、アーネスの話。ルーチ・タクトは、誰も知らない秘密のルートで王都へ向かい、何者かに襲われたという話だった。

 そして最後に、詩で手渡されたという、風のウワサのような話。でもそれは、アーネスの“誰かにさらわれた”という部分と“リフテイルの付近を通った”という部分が、合致している。

「リフテイル……そこで、何かあったのかな」

 湖畔の町。詳しくは知らないけども、王都にも近くって、優雅な町だとは聞いている。ルーチ・タクトの聖地巡礼でも、はじめの方に通る場所だ。

「ま、どっちにしろよぉ」

 デデはぐっと握りしめた拳を持ち上げる。

「ようやく、次の目的地が決まったな」

「うん!」

 ポメは強くうなずく。

「リフテイルに行こう。そうすれば、お母さんの情報が見つかるかもしれない」

「ガキンチョたちの世話も、今日までだな」

 ようやく希望が見えてきて、ポメは目を輝かせていた。デデは振り返って、子どもたちを見ると、ふうとため息をつく。

「……どうしたの、ジェコさん」

 そんな二人を見ているジェコの顔は、少しだけ複雑だった。

「いや、本当に……このままでいいのかなって、思ってさ」

「どういう意味?」

「……はは、お前たちは気にしなくていいさ!」

 ジェコの頭には、うっすらと、ロココの顔がよぎっていた。

 いちばん最初に、マリエットと会った時の、ロココの顔だ。


 ―――


「マリエットさん!」

 もうすぐで夕飯の支度時、子どもたちと遊ぶマリエットに、ポメたちは駆けよった。

「あら、どうしたのかしら?」

 マリエットさんは、相変わらず優しい笑顔を見せてくれている。

 かくまってくれてから、今の今まで、たくさんお世話になってきた。そう思うと、旅立つという話を言うのは、少しだけ気が引けてしまった。

「おい、ポメ」

 デデが背中を軽く押す。

「気持ちは分かるけど、俺らには俺らの目的があるだろ?」

 ポメは黙って、しずかにうなずいた。

「……マリエットさん、大事な話があるんだ」

 すう、はぁ。ポメは小さく深呼吸をした。

「僕ら、明日にはここを発とうと思うんだ。お母さんの情報が、リフテイルで見つかるかもしれないから……僕ら、リフテイルに向かおうと思って―――」

 そこまで言って、ポメは思わず次の言葉を失った。さっきまで笑顔だったマリエットの顔が、だんだんと険しくなっていったからだ。

「だ、ダメよそんなの!」

 マリエットはポメとデデをぎゅっと抱きしめた。

「外は危険でいっぱいなのよ! それにこんな時に……この町を出るなんて、危険よ!」

「で、でも僕たち……いつまでもここにいるわけには」

「いつまでもいてもいいわよ。あなたたちは」

 マリエットは手を離す。ポメたちに微笑むその顔は、いつものぬくもりのある笑顔とは、少し違うように思えた。

「で、でも僕ら、お母さんを……」

 まるで全身に冷たい鎖が巻かれたような感覚が、まとわりつく。それを感じると、ポメはそれ以上、何も言えなかった。

「さ、お夕飯の支度をしなくっちゃね」

 くるりと振り返り、マリエットはキッチンへと向かっていった。

「……もっといいタイミングで、もう一度言った方がいいかもな」

 ジェコは苦い顔を見せながら、マリエットを追いかけていった。

ぽかんと、ポメとデデは口を開けていた。

「おばさん……すっごい圧だったな」

「う、うん。それもあるけど……」

「あるけど、なんだ?」

「いや……」

 ポメはうつむいた。

『マリエットさんの、あの感じ……なんか、呪いの道具に憑りつかれてたヒトたちに、似てる気がする』

 ポメはちらりと、フォルの方を見た。フォルは静かに首を横に振る。

『やっぱり、考えすぎかな……憑りつかれてたら、おばけみたいなものが、見えるはずだもんね』

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