第60話 ~影のウワサに、導かれ~

 ———

 

「……で、なんでアタシたちがこの子の“おもり”をしなきゃなんないわけぇ?」

 次の日。いつもの場所でジェコとロココは合流していた。

 でも、今日は二人だけじゃない。ジェコのそばには、カラットもいたのだった。

「仕方ないじゃないか。この子なら情報を知ってる人に、案内してくれるかもしれないんだから」

 それはあの昨夜、ポメたちと話の続きのことである。

 マニが言うには、カラットが「ルーチ・タクトがオロオロさまに連れてかれた」と言っていたという話であった。

「それにロココが一緒だったら外に出てもいいって、マリエットさんも言ってたからさ」

「ふぅん、あのヒトがね……」

 ロココは静かにうなった。少しだけ、しっぽが小さくなったように見える。

「でもねぇ……その子の言うことなんでしょ?」

 じとっとした目で、カラットの顔を見つめた。

「な、なんだよ。俺がウソついたとでも言うのか!?」

「ま、信じてあげるわよ。私もオニじゃないし」

「……そうか?」

 ジェコは眉をひそめて、呟いた。

 そうしてロココたちは、カラットの案内で町を進んでいった。昨日と同じ、他の町の商品が立ち並ぶ地区に、その話をした人がいるらしい。

「どうでもいいけどさ……」

 カラットはぼつりと、呟く。

「なんで俺のしっぽに、こんな鎖つけてんだよ!」

 カラットのしっぽには、頑丈な鎖が括り付けられていた。その端っこは、ジェコがしっかりと握りしめている。

「逃げないための対策だろ~? オイラを引っ張るだけの力があるなら、逃げられるんじゃないか?」

「ぐぐ……」

 カラットはしっぽをぶんぶんと振り回す。当然、鎖は外れそうになかった。

「いいよもう、ついてこいよ!」

 どすどすと足を鳴らすカラットを先頭に、ジェコたちは歩き出す。

 

 ―――

 

「それにしても、アンタさ」

 ロココは歩きながら、横を歩くカラットに目を向ける。

「どうしてそこまで、外に出たがるのよ」

「ふん、決まってんだろ」

 カラットは自慢げに、鎖がくくられたしっぽをぶんと回した。

「俺はいずれ、この町を出るんだ。そのためには、いっぱい旅のためのスキルを、磨かないとな」

「外に出て、好き放題暴れるのが、旅のスキルねぇ」

 カラットはぎっと睨みつける。

「なんだよ……体を鍛えるのって、大事だろ!」

「旅ってのはねぇ、それだけじゃないわよ?」

 ロココは自慢げに、カールしたしっぽをぶんと回した。

「なによりも、勉強が大事よ。でも学校で教わるようなものじゃダメね。自分の足で、自分の耳で、旅人たちの話を聞いて回るのよ」

 ぐぐぐ。カラットは小さくうなっている。でもその目は、その耳は、しっかりとロココに向けられていた。

「知識は大事よ? 知識さえあれば体が小さくったって、生きていけるものなのよ」

「……そういう、もんなのか?」

 カラットは、少しだけ半信半疑だった。でもその目は、どこかわずかにきらめいているように見える。

「ふふん、ダテに何年も一人旅してないわよ」

 前を歩いて話すロココとカラットを見て、ジェコはぽつりと呟いた。

「なぁんか、二人って似てるよなぁ」

「どこがよ!」

「どこがさ!」

 二人の怒声が、重なった。

 

 ―――

 

「おう、ここだよ」

 カラットはある建物を指さした。そこは、ほかの建物よりも“よく言えば”年期の入った建物だった。

「へぇ~食用マイマイの店かぁ」

 マイマイの看板を見て、ジェコはふんふんと鼻を鳴らしている。そこは、様々な地域での食用マイマイを扱っている店であった。

「じいちゃん、入るぜ」

 店主はネズミの老人だった。ボロボロのフードをかぶるその姿は、どこか怪しい雰囲気が漂う。

「おぉカラットや! 今日はどうしたんじゃい?」

「この間さ……オロオロさまのこと、話してくれたじゃんか。ほら、ルーチ・タクトがさらわれたって話」

 店主はギクッと顔をこわばらせる。そして、ジェコたちに目をやる。

「あんなん、単なる風のウワサじゃぞ。本気にしとるのか?」

「風のウワサでもいいわよ」

 ロココはずいと前に出る。

「今はとにかく、少しでも情報がほしいわね」

 あの子のためにもね、と最後に付け足す。

「んー、とは言うてものぉ……ワシだって、そこまで詳しく聞いたわけじゃないぞ?」

 店主は売り物のマイマイを手に乗せて、口を開く。

「そいつはどうやら、旅の情報屋みたいじゃったな。ワシもこいつらの仕入れのために色々な町を巡っておったから、ちょいと話が合ってのぉ」

 長く細い指で、マイマイの頭を、そっと触れるような感じで撫でていた。

「まぁその時の話をしてたらの、そいつ、代わりに自分もいい情報をやるって、こんな詩を渡してきたんじゃ」

 こほん、こほん。何度か咳ばらいをすると、店主はリズムに乗せて歌い出す。


~湖畔の町を、しるべは進む

 都を目指し、潜んで進む


 影に囲まれ、しるべは呑まれる

 誰にも知られず、光は消えゆく


 それを知るのは、一人の男

 知るべきなのは、しるべを追うもの~


 歌い終わると、店主の顔は満足げだった。

「何よそれ?」

「ワシが知るか。じゃが、影に囲まれっちゅうのは……昔話に出てくる、オロオロさまのことじゃろ? そもそもこんな話、ワシは信じとらんし」

 店主はずいっと、カラットに顔を寄せる。

「元々はお前さんに灸を添えようと思って言った話じゃしなぁ」

「ど、どういう意味だよ!」

 そう怒るカラットの肩は、少しだけ震えていた。


 ―――


「へっへん、結局無駄足だったんじゃないの?」

 へらへらとカラットは笑っていた。その横で、ロココは頭を巡らせる。

「ロココ、どうしたんだい?」

「うーん……もしかしたらあの詩って、本当のことなんじゃない?」

「でも、ポメたちが会ったって言うルーチ・タクトのメンバーのヒトは、さらったのはハクロトのヒトだって、言ってただろ?」

「それ自体が、ウソかもしれないでしょ!」

 振り返るロココの顔は、真剣だった。

「ルーチ・タクトを追っていったっていう記者の話を思い出してよ。彼らはカルカルから、王都へ向かった。その通り道に、リフテイルって町があるはずよ」

「リフテイルって、どんな町なんだ?」

「大きな湖のそばにできた、のどかな町」

 それを聞いて、ジェコははっと目を丸くした。

「つまり、あの詩に出てきた湖畔の町って……そのリフテイルのことか!」

 ロココは静かにうなずく。

「あの詩……ちょっとは信じても、いいかもしれないわね」

「い、いやいや!」

 カラットはへらへらと笑いながら、前に出てくる。

「あの詩には、オロオロさまが出てくるじゃん。信じてるってことはさ……オロオロさまが、本当にいるって思ってんの!?」

「アタシはそう言ってるつもりだけど」

「い……いるわけないじゃん! あんなの、ただの作り話なんだろ!?」

「あらぁ~」

 ロココはまるで、獲物を見つけたように微笑んでいた。

「本当にいるわよ、オロオロさまは。アタシたち、何度も襲われたもの。ね?」

 ジェコにパチッと、ウィンクする。ジェコも素直にうなずいた。

 カラットの体が、ぶるぶると震えている。

「あらぁ~、もしかして怖いの?」

 からかうロココに、カラットは反発する。

「旅をするんなら、オロオロさまとかおばけとか……それくらい克服できなきゃねえ?」

「う、うるせぇ!」

 思わず、カラットは走り出した。しっぽに繋がった鎖が、びんと張る。その勢いで、カラットがずるんとこけてしまった。

「だ、大丈夫かい?」

「……かに、すんなよぉ」

 カラットは顔を上げる。

「ばっかに、すんなよぉ……おばけなんか、怖くねぇぞ!」

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