第53話 ~まるでお母さんの手みたいに、あたたかくて~

 少し進むたびに、後ろを振り返った。アーネスの姿は見えない。そもそも、人通りも多くなってきたんだ。いたとしても、見つけるのは難しそうだった。

「でもそれはきっと、アーネスさんの方も同じだよね……」

 先頭を走るマニが足を止めると、ポメたちも足を止めた。すぐそこには、デデと食べた団子屋が見える。

 どっと疲れが、襲ってきた。結構、走ってきたみたいだ。

「……それで、一体何が起きてたんだよ!」

 ぜえぜえを息を切らしながら、デデがずいっと迫ってきた。

「ぼ、僕もよく分からないんだよ。アーネスさんから色々と、話を聞いたんだ」

 ポメは何度も深呼吸して、話し始める。アーネスが教えてくれたこと。行方不明になってから、ルーチ・タクトがどうなったのかを。聞いたことをすべて教えた。

「……なるほどな」

 すべてを聞いて、デデは納得したようにうなずく。と思ったら、頭にハテナを作るように首をかしげた。

「でもあの時、お前を無理やり連れてくように見えたぜ。あれは、なんだったんだよ」

「それはだから、僕にも分かんないよ」

 お母さんとも知り合いのアーネスさん。当然、信用できるヒトだ。でもあの時、腕を掴まれた時は、とても怖かった。

 まるで、オロオロさまに捕まってしまったかのような恐怖が、全身に襲ってきたんだ。

「ちぇっ。分かることがいっぱいあると思ったら、結局分からないことづくしじゃないか……」

デデがそう言って、少しの間沈黙が続いた。そんな二人の間に、マニはすっと顔を覗かせた。

「事情はよく知らないけど……そのアーネスってヒトの話、真に受けない方がいいんじゃないかしら?」

「……そうなのかな」

「そうでしょう。それ、アーネスってヒトが貴方を騙すために、ウソをついてるようにしか聞こえないわよ」

 それを聞いて、ポメは胸の奥から、じわりと冷たいものが込み上げてくるようだった。

 なにせ、せっかくのお母さんの手がかり。それが、ウソだったとしたら……。

「でも、アーネスさんはそんな悪いヒトじゃ……」

「貴方をむりやり、つれてこうとしてたヒトよ?」

 考えれば考えるほど、何が本当で何がウソか、分からない。言葉が見つからないまま、ポメたちの間にはまた沈黙が始まってしまった。

「……とにかくよぉ、今は考えても仕方ないな」

「そうね。二人はどこか、この町で隠れられる"あて"はあるのかしら?」

 ポメとデデは首を横に振ると、マニはふふんと鼻を鳴らした。

「それじゃあ私が安全なとこへ、案内してあげるわ」

 そう言うとマニは走り出した。ポメたちも慌てて、それに続いていく。

「安全なとこって……どこか、アテでもあるの?」

「ついてくれば分かるわ」

 マニは小さく微笑んだ。

 かろやかな足取りで進んでいくマニ。看板に目をやりながら、その足取りに迷いはなかった。まるでこの町のルートは、もう熟知しているみたいだった。

「……ねぇデデ」

 ポメは横を走るデデに声をかけた。

「マニはなんで、この町にいるんだろうね」

「……あぁ、そうだな」

 ふと、デデの顔をのぞいてみた。マニのことをじっと見ていたけど、口はポカンと空いていて、なんだかうわの空みたいだ。


―――


「さぁ、着いたわ」

 そう言って、マニはくるりと振り返った。

 進んでいったのは、トリキリデの中心の樹の方……そこからまだ少しだけ離れたとこの、 大きな建物の前にたどり着いた。

「なんか……普通の家より、大きいね」

 ポメは思わず、わあ……と声を漏らした。トリキリデの建物は、ほとんどが一つのひょうたんだけでできている。

 でもマニに案内してもらったそれは、三つのひょうたんが並んで組み合わさったものだった。

 大きな建物、それにひょうたんには、色々な絵が描かれている。まるで子どもたちが描いたようなものだ。

「これってもしかして、学校?」

「ちょっと惜しいわね」

 マニは建物に入っていく。入口の横に置かれた看板に、ポメは目をやった。大きなヒトが小さなヒトたちを抱えているような絵が、そこには描かれていた。

「お邪魔します……」

 ポメたちも、中へと入っていく。広い玄関の向こうには、大きくて丸いテーブルがいくつか並べられていた。

 なんだか、がやがやしている。子どもたちの声がたくさん聞こえる。

「マニちゃんおかえりぃ!」

「帰ってきたぁ!」

 子どもたちがマニに気づくと、さらに大きな声が響いた。マニは瞬く間に、何人もの子どもたちに囲まれた。

「ただいま。今はお客さんが来てるから、静かにね」

 そう言って、マニは奥へと進んでいく。ポメたちも後ろに着いていく。二人のことは、子どもたちは不思議そうな顔で見つめていた。

「ここって結局、なんなの?」

「ここはね、孤児院よ。この町や、周りの村……身寄りのない子どもたちが、ここに集まっているのよ」

「も、もしかして……マニって、ここで働いてるの?」

「ただのお手伝いよ。旅をするのに、お金は必要だもの」

 

 玄関と繋がっているこの部屋は、とても広かった。ひょうたん三つのうちの、一つ分はここで全部使っているみたいだ。

 机が並べられていて、勉強もできるように黒板が立てかけられている。

 その部屋の奥の方で、何かが集まっているのが見えた。子どもたちが群がっている。

「あぁ~、みんな乗っからないでくれぇ~」

 ふと、聞き覚えのある声が聞こえてきた。ポメは近づいていった。子どもたちの群れから、緑色の大きなしっぽがはみ出ているのが、見えた。

「もしかして……ジェコさん?」

 むっくり。子どもたちがひっついたまま、ジェコは体を起こした。

「おぉ、二人も来たんだな!」

 ジェコがほっと息をついている間も、子どもたちはバシバシと丸いお腹を、頭に上ってゴシゴシと撫でられたりしていた。

「ごめんなさいねぇ」

 別のとこから、声が聞こえてきた。

「ジェコくんみたいな大きな子、珍しいのよ。だから子どもたちも、テンションが上がっちゃって……」

 ポメは振り返った。ジェコよりも大きなヒトが、ここにいた。白い毛に包まれた、クマのヒト。

 それはどことなく、入口の看板にあった大きなヒトの姿と、よく似ていた。

「ほらほら、大切なお客さんなのよ。あまりムチャしちゃダメよぉ」

「は~い」

 大きな手で子どもたちを撫でてやると、子どもたちは元気な声とともに離れていった。

「あら……その子たちも、お客さん?」

 ふと、ポメたちの方に気づくと、クマのヒトは目を丸くした。

「えぇ、ちょっとした知り合いです」

 クマのヒトは、ポメたちに歩み寄った。

「はじめまして、私はマリエットよ。ここで子どもたちの面倒を見ているの」

「は、はじめまして……僕はポメです」

「俺はデデって言います」

 大きいけれど、なんだか安心するような存在感だった。

「二人とも、ヘンなヒトに追われてたのよ。だからここまで案内してあげたの」

「やっぱり外は物騒ねぇ……貴方たちも、落ち着くまでここにいていいわよ」

 マリエットは大きな手で、ぎゅうっとポメとデデを抱き締める。とってもやさしいぬくもりに包まれるようで、ほっこりするようだった。

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