第50話 ~手がかりは、フードの向こう側~

 ―――

 

 あれからポメとデデは、新聞地区を歩き回っていた。広場以外の有料な記事、ルーチ・タクトが行ってそうな町に関する新聞。可能性がありそうなものは、とにかく読んでいった。

「ったく、どれも本当の話かどうかもわかんねぇな……」

 ペラペラと、デデはメモをめくる。数こそ少ないものの、ルーチ・タクトに関する情報はいくつか見つかった。

 でも中には、ウソくさい話のもある。すべてが本当の話じゃないのは、確かだ。

「う~ん……思ったよりも、情報が少ないよね」

 ポメは小さく唸った。

 王直属の音楽団というだけあって、ルーチ・タクトの一団は豪華だ。演奏者たちだけでなく、多くの衛兵やスタイリストまでも一緒にいる。

 それだけに、とても目立つはずだった。それなのに、手がかりは少ない。

 メモを眺めながら歩いていると、きゅるる。何かを絞ったような音が小さく響いた。

「……今の、お前か?」

 音の正体は、ポメのお腹だった。歩きっぱなしでなんにも食べていないことを、二人は思い出した。

『デデならいつもみたいに、ニヤニヤしてからかうんだろうな……』そう思ってポメは顔を上げる。デデは、小さく息をつくだけだった。

「ま、俺も腹へってるしな……ちょっと休むか」

 くいっと、デデは親指で一つのお店をさした。そこは団子屋さんだった。食べ歩くヒトや、外のテーブルに座って一つ一つつまみながら、話をしたりしているヒトもいる。

 

 ポメたちは、テーブルに座った。二人の前にある団子を挟んで、デデは今まで集めてきた情報のメモを広げた。

「私服でどこかの町にいるって情報もあるね……」

 ポメはメモを掴みながらあんこの載った団子をぱくりとくわえる。

「ウソくせーなぁ。なんでコソコソする必要があるんだよ」

 デデは海苔の巻いた香ばしい匂いの漂う団子をむしゃむしゃと食べる。あっという間に、一本を食べきってしまった。

「うーん……そうだ。なんで王様がヒトを集めてるのか、そこから考えるのもアリかも」

「なるほどな……ルーチ・タクトも、王様に会うために王都へ戻ったって話だしな」

 デデは串をタクトのように揺らしながら、小さく頷いた。

「あとよ、武器を作る理由も気になるな」

 ポメの頭に、お父さんの顔がよぎった。

 いつもの顔だけど、とても悲しそうな目をしていた、お父さんの顔。作業台には、楽器じゃなくて武器の設計図が置かれていた。

 今もきっと、兵士たちの命令であれを作らされているのかもしれない。

「やっぱり、どこかと戦争する気、なのかな……」

「どこかって、どこだよ」

「そんなの、分かんないけどさ」

 デデは大きなため息をついた。二本目の団子をつかむ。

「オルゴア王国はな、高い山に囲まれた国だろ。それくらい、お前も知ってるよな?」

「そんなの、常識だよ」

「まぁそのおかげで、この国は他の国から襲われたことはないって話さ。それに土地こそ荒野が多いけど、資源は豊富にある。わざわざ他国に戦争する理由が、あると思うか?」

「……ないと、思う」

 ポメは俯いた。持っていた団子は、まだ半分以上も残っていた。

「でも、兵士を集めてるもんな……争うとして、どこかって話だけど」

 デデは残り一個の団子を置いて、ほおづえをついた。一枚のメモを、手に取る。そこには、聖都ハクロトの使者にさらわれたという情報が書かれていた。

「ったく、なんでハクロトがさらう必要があるんだよ」

 大きくため息をついて、メモを放り投げた。

 ふと、デデは時計に目をやった。ジェコたちと別れて、もう大分経っている。

「そうだな……明日また探すことにして、今日は切り上げるか」

「うん、そうだね……」

 ポメは小さくため息をつく。デデはそれを見て、腕を組んだ。

「『果報は寝て待て』って言葉、知ってるか? こういう時は、いい情報ってのは待つに限るのさ」

 デデの言葉が、いつもより明るく思えた。鼻にかけたような言い方だけど、いつもの嫌みな感じはしなかった。

「ありがと、ちょっとだけ元気でたかも」

「へへ、そりゃあよかった」

 ポメは顔を上げた。デデがニッとほほ笑んでいた。

「…………」

 ポメは、何かに気づいた。デデの後ろ……色んなヒトたちが歩いていく中に、何か見覚えのあるものが、映ったような気がした。

「おい、どうした?」

 デデも気になって、振り返った。そこに、デデの気になるものはない。

「ご、ごめん……ちょっとここで、待ってて」

 ポメは立ち上がった。「お、おい!」とデデの声が聞こえたけど、ポメは走り出した。


「おいおイ、どうしたんだヨ」

 ヒトとヒトの間をすり抜けながら、走っていくポメに、フォルは声を掛けた。ポメは一人、一人と通り過ぎていくヒトの顔を見ていく。

「なんか、見たことのあるヒトが、いた気がするんだ」

「初めて来たようナこんなとこでカ?」

「うっそうだよね……」

 そう言われると、ポメも自信がなくなってきた。見間違いだったかもしれない。

 でもトリたちが沢山いる中で、確かに違う種族のヒトがいたのが見えた。ほんの少し、ちらっとしか見えなかったけど……。

「確か……フードを被ってた気がする」

「アレみたいな感じカ?」

 フォルがある方を指さした。灰色のフードを被った、背の高いヒトがいた。

「あのヒトは……」

 フードの隙間から見える、青くて長いマズル。それはポメが、見覚えのあるものだった。

 建物のかげに入っていく。ポメはすぐさま追いかけた。


 ドン。

 曲がった途端に、何かにぶつかった。ポメは後ろに倒れ込む。フードの男も、前へ膝をつくように倒れてしまった。

「いってて……誰だ、一体」

 二人は膝をついて、倒れ込んだ。男のフードが、ちらりとめくれる。フードの中……オオカミの男の、鋭い目が見えた。

「やっぱり……」

 ポメは立ち上がる。その顔は、今にも笑顔がこぼれそうなほどだった。

「アーネスさんだよね! ルーチ・タクトのメンバーの!」

 オオカミの男はすぐにフードで顔を隠す。

「ひ、ヒト違いじゃねえか? オレはあんな立派なヤツじゃあ……」

「僕だよ、ポメ! お母さん……ポマの息子の!」

 男の被るフードの中で、ぴくんと、耳が動いた。ゆっくり振り返って、フードから顔を覗かせる。

「……お前、あの少年なのか?」

 男はフードをめくった。

 ポメが探し求めていた、ルーチ・タクトのメンバー……その一人。記憶通りの、アーネスの顔だった。

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