第49話 ~子どもは風の子、じょうぶな子~

 ―――

 

 ジェコとロココは、町の入口近くに戻るため、元来た道を歩いていった。

「入口の方はなんか、町のヒトより、旅のヒトの方が多い気がしないか?」

 何の店なのかを表す、看板を掲げたいくつものひょうたんの家。そのすき間で、テントを張って露店を開いているヒトもいた。

 売っているものや身なりからして、露店を開くヒトたちはみんな、旅のヒトのようであった。

「こんなご時世だしねぇ……ここなら、旅のヒトたちもひとまず安心だって、思ってるんじゃないかしら?」

「どういう意味だい?」

 ジェコの言葉には耳をむけず、ロココは露店を覗いてみた。

「ねぇねぇ、結構安いわよ! 昼ごはんこれで作ったらどう?」

「え~、せっかくトリキリデに来たんだぜ。この町のもんが食べたいよ」

「まったく……変に期待したって、ガッカリするだけよ」

 ぷいっとしっぽを振って、ロココは歩いていってしまった。

 ジェコはロココの後ろ姿を眺めていた。いつもは歩くときの動きも大きなはずのロココも、今日はしっぽが妙にそわそわしていた。

「へへ。なんか周り気にしてるけど、この町でなんか悪さでもしたのか?」

「あんたねー……口は災いの元って言葉、知らないワケ?」

 ロココは振り返らずに、そう言った。顔こそ見えないものの、そのちいさな背中から発せられるオーラが、どれほど鬼のような形相をしているのか、まるで物語っているようだった。

「…………」

 ジェコは、大きな口をぐっと閉じた。

 

 進んでいくと、宿屋がちらほらと見えてくる。一つのひょうたんで作られた家もあれば、横倒しに三角形で積まれたような家もあった。

「大きな建物になると、やっぱりそれなりに高くなるみたいだな……」

「ま、安すぎず、高すぎずなとこを選ぶのがいいわよね。安いとこじゃ、休んだ気になんないもの」

 ジェコとロココは、宿屋を一つ一つじっくりと見ていた。

 すると、どこからかガヤガヤと声が聞こえてくる。にぎやか、とは違う、騒がしい感じ。

「なんだなんだ?」

「なにか、事件でもあったのかしら?」

 ジェコたちは、声のする方へ向かった。

 まばらだけども、人だかりができていた。みんながある建物を見ているようだった。

「なぁなぁ、一体どうしたんだ?」

 ジェコが一人の旅人に声を掛ける。旅人は、建物のてっぺんを指さした。

「ほら、あそこを見ろよ……」

 ジェコはじっと目を凝らす。建物のてっぺんには、ゆらゆらと動く何かがあった。ヒトのような形で、カラフルな色をしていて、太い針のようなものが、横に突き出ている……。

「風向きを確認するやつかぁ?」

「ばっかねぇ、アレは子どもじゃないの!」

 ロココはバシっとジェコの頭を叩いた。それは太いしっぽをした、男の子だった。

 ひょうたんの小さな先端の上で、バランスを取って立っている。足場は小さくて、強い風でも吹いたら飛んでいってしまいそうだった。

「おいおい、危ないぞ!」

 ジェコは駆け足で建物に近づいていった。それでも男の子は、町の外に目を向けていた。

 かと思えば、よっとっと。片足を上げて、しっぽを器用に動かしながら、バランスを取ったりしている。

「ねぇジェコくん……別に心配しなくても、いいんじゃない?」

 ロココはそう言った。周りを見ていると、男の子を見ているのは旅人だけだった。町のヒトたちは、さもいつもの風景かという感じで、ちらりと見るくらいだ。

「でもよぉ、もし落っこちたりしたら……」

 その瞬間、強い風が吹くのを感じた。ジェコはすぐさま、ひょうたんの先を見る。

 ぐらり。男の子のバランスが、大きくくずれた。ゆっくりと、後ろへ倒れていく。

「あぶねぇ!」

 ジェコは走り出した。男の子の足が、ひょうたんの先から離れる。落ちてくるポイントを見定めて、ジェコは無我夢中でスライディングをした。

 男の子は体を丸めて、くるりくるりと空中で回る。地面の方をしっかり見つめて、その先にいる、ジェコの背中を見て、男の子はパッと体を広げた。

「ぐえぇ!」

 ずどん。男の子は見事、ジェコの背中に着地した。辺りに、ジェコのくぐもった声が響き渡った。

「いえーい、着地せいこー!」

 ジェコの上でくるりと回って、男の子は決めポーズを見せていた。

「ちょっとアンタ、せっかく助けてあげたのになんなのよその態度は!」

 追いついたロココは、男の子を指さして大きな声を上げた。男の子は、ふふんと鼻を鳴らしてそっぽを向く。

「べつに、オレ一人で着地できたもん」

「そういう問題じゃないでしょ、もー!」

「へん、子どものくせにえらそーな態度すんなよ!」

 男の子は飛び降りると、ささっとどこかへ行ってしまった。ロココは顔を押さえて、大きなため息をつく。

「だから言ったでしょ……あの子、ウロコが生えてるし、センザンコウでしょ? 体も丈夫だし、あれくらい平気なのよ」

 ジェコは背中を押さえながら、ゆっくりと立ち上がった。

「いてて……そういうわけにも、いかないだろ?」

 ジェコたちは、男の子の走っていった方を見る。この辺りは建物も密集していて、男の子の姿はもう見えなかった。

「ま、ケガがないならいいけどさ」

「まったく……それじゃ、行きましょ」

 振り返って、ジェコたちは立ち去ろうとした。そんな時、後ろから足音が聞こえてくる。


 のす、のすという、大きな足音。だんだんと、近づいてくるのが分かった。

「あ、あの……すみません」

 ジェコは振り返った。目の前には、シロクマの女性が立っていた。その手には、さっきの男の子の手がしっかり握られている。

「この子が、ケガをさせちゃったみたいで……大丈夫かしら?」

 男の子は、手を離させようと引っ張ったり暴れたりしていた。でも大きな大きなシロクマの手からは、抜けそうにない。

「あ、えっと、いやぁ……大丈夫ですよ、オイラなら!」

「あぁでも、服が汚れてるわ……お詫びになるか分からないけど……私のとこで、ちょっと休んでいかない?」

「で、でもそうだな……ポメたちとか……おいロココ、どうしたんだ?」

 ジェコは気づいた。ロココがずっと、自分の後ろに隠れているのを。大きな体に隠れて、その姿はばっちりと隠れていた。

「ロココ……?」

 ぽつりと、シロクマは声を漏らした。

「あぁぁもう、ジェコのバカ! 空気を読みなさいよ!」

 ロココはゆっくりと、ジェコの横から顔を覗かせた。ロココとシロクマの、目が合う。シロクマは、まるで言葉を失ったように目を丸くしていた。

「もしかして……ロココちゃんなの?」

 ロココはふうと、息をついた。

「まさかこんなとこで、会うなんてねぇ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る