第48話 ~ルーチ・タクトはどこへ?~

 ―――


 フロッカ峡谷を抜けてからすぐに見えた、トリキリデ。それでも町の入口に着いた頃には、みんなすっかりお腹を空かしていた。

「はぁ……オイラもう限界だ。まずどっか飯屋に寄ろうぜ」

 ぐるると唸るお腹を擦りながら、ジェコはそう言った。

「それよりもまず、大事なことがあるだろ?」

 デデが先頭を切って、ポメたちは辺りを見ながら道を進んで歩いていた。

 トリキリデの家々は、どれも同じような形をしていた。とっても大きな、ひょうたんの実。その中をくり抜いて、外には看板が建てられている。中には横倒しのひょうたんの実を繋げて、大きな建物に見立ててるのもあった。

「あれって全部、本物なのかな……」

 それに、建物だけじゃない。ポメたちが歩く道も、他の町では見ないようなものだった。

 巨大なパイプのような形をしていて、その上を歩くような感じになっている。

 その道を奥の奥まで辿っていくと、全てがあの真ん中の樹へと繋がっている。トリキリデの道は全て、あの樹の巨大な根っこであった。

「ま、他の町じゃあ見ないわよね、こういうの」

 ぽかんと口を開けているポメの前に、ロココはくるりと一回転てみせた。

「トリキリデはね、この樹の素材をできる限り活用してるのよ。楽器も変わったものが多くて、面白いわよ?」

「へぇ~」

 変わった楽器。どんなものか想像するだけでも、ポメは胸が躍るようであった。


 分かれ道には看板が置かれている。デデは町の地図と照らし合わせながら『新聞地区』へと向かっていった。

「国中で売られている新聞……それの本社ってのは、ほとんどこの町にあるらしくってな。新聞社が集まってる地区があるんだよ」

 ポメは、なるほどとうなずいた。

「でも、どうして新聞地区なんかに向かうの?」

 それを聞いて、デデは振り返った。目をまん丸くして、ポメの顔を見ている。それを見て、ポメは思った。今のデデ、自分のことをすごくバカに見ているなと。

「お前なぁ……なんのためにここまで来たか、忘れたのか?」

「そ、そりゃあお母さんを探すためだよ」

「だったら、情報が集まる場所に行くのが、普通だろうが!」

 ポメは、なるほどとうなずいた。


 ―――


 新聞屋で働くヒトは、ほとんどがトリである。情報を迅速に伝えるためにも、彼らの翼はとても力になる。

 元々このトリキリデにはトリが多いけども、新聞地区に近づけば近づくほど、他の種族が少なくなっていくのが分かった。

「この辺から、ちょっと雰囲気が違ってくるね……」

 樹の根の道から下りて、建物の合間を縫うように進んでいくと、新聞地区の中心へとやってきた。

 大きな広場には、真ん中に密集してヒトが集まっている。みんなが目にしているのは、輪っかになるように建てられた掲示板だった。

「ここにはまだ新聞には載ってない、最新の情報が個別に載せられてるらしいんだ。ルーチ・タクトのことも、書かれてるんじゃないか?」

 ポメたちはぐるりと回りながら、掲示板に載った記事を一つ一つ目にしていった。

 それぞれの町で、今何が起きているのか、徴兵命令の実態は? と煽り文句がデカデカと書かれたもの……。色々な記事があるけど、ポメたちが探すのは、ルーチ・タクトに関することだけ。その単語だけを頼りに、ポメたちは記事を探していった。

「お、あったぞ!」

 色々な記事の中でついに、デデが『いずこへ? ルーチ・タクトのゆく先は』と書かれた記事を見つけた。

 ポメたちはその記事の前に集まった。どうやら書いたヒトは、ルーチ・タクトと共に聖地巡礼の旅をして、その過程をずっと記事として書いていたようだった。

「あれ、でもこれって……途中で終わってるよ」

 このトリキリデから、カルカルまで。ルーチ・タクトが移動した経緯は書かれていた。そこであの騒動が起きたはずだけど……肝心の、そのあとの部分が白紙だった。

 ポメが首をかしげていると、ロココがずいと前に出る。

「情報ってのはね、タダで見られるほど甘くはないのよ!」

 ロココは掲示板の前に置かれた箱にお金を入れて、木の実を取り出した。それは半分に割れて、端っこの一ヶ所が紐でくくりつけられている。まるで、カスタネットのような形をしていた。

 カチ、カチン。記事の真下で二回鳴らすと、カスタネットは砕けてしまった。すると、記事の裏からぼんやりと光が照らし出された。

 さっきまで白紙だったところに、じわりじわりと、文字が映し出される。

「こーやってお金を払えば、自分が読みたい記事が見られるって仕組みなのよ」

 ふふんと鼻を高くしてそう言うロココは、なんだか大きく見えた。

「とにかく、続きを読んでみろよ」

「う、うん……」

 新しく浮かび上がった部分には、徴兵命令が起きてからのルーチ・タクトの流れが書かれていた。


 ―――


 その日はルーチ・タクトは、船でケラケラへと渡ろうとしていた。しかし船の準備が終える直前に、カルカルにも例の事態が伝えられていた。

 ルーチ・タクトのメンバーはそれを見て、聖地巡礼どころではないと判断し、この事態の説明をもらうために王都へ戻ることを決断したようだ。王家直属の音楽隊であるルーチ・タクトも、何故このような事態に陥ったのか、理解できていない様子であった。

 それぞれの町でルーチ・タクトと共に旅をすることになった“選ばれし子ども”たちも、ルーチ・タクトのメンバーと一緒にいた方が安全だと判断し、共に王都へと向かうことになった。

 筆者はカルカルで情報を集めたのちに、ルーチ・タクトに追いつく予定であった。しかし、その後の消息は不明。

 あの時、国中は混乱の渦にあった。ルーチ・タクトは、想定外のルートを辿った可能性があるとみられる。

 しかし、途中経由するはずの町でも痕跡がないのは不可思議である……。


 ―――


「……お母さんたちは、王都へ向かったのかな」

 記事の全てを読んだ。ポメはどこか、心にぽかんと穴が空いたような感じだった。

 王都へと向かう。それは今まで何も情報を掴めなかった中では、確実に希望のある、大きな情報だった。

「でもよ、消息が不明ってことは、王都についたかも分かんねぇな?」

「そうだよね……」

 ポメは後ろを振り向いた。様々なヒトたちが、歩いている。ばさばさと翼をなびかせて空をかけるトリたちもいる。

「ヒトもいるってことは……情報もたくさんあるってことだよね?」

「そうだな……」

 デデは腕をぐいっと伸ばして、大きく息をはいた。

「ここはとにかく、聞き込みしてくか」

「うん!」

 ここには、色々な情報を持つヒトたちが、たくさんいる。二人の表情には、すでに希望が満ち溢れていた。

 ポメとデデは駆け出していった。そんな二人を、ジェコとロココは立ち止まったまま見守っている。

「まったく、あの子たちったら元気ねぇ~」

「それよりも、オイラは腹が減っちまったよ……」

「そうね……」

 ロココはくるりと振り返る。ポメたちの行った方向とは、反対の道。

「町の入口なら、ご飯食べるとこもあるでしょ。それに、宿屋もね」

「そうだなー、じゃああいつらの代わりに、宿屋も見つけるか!」

「……アンタと一緒に行動するの、ちょっとイヤだけどね」

 ロココはぼそっと呟いた。ジェコの耳には届いてないみたいで、のん気にしっぽをぶんぶん揺らしながら、歩いていった。

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