第47話 ~大樹が見下ろす町、トリキリデ~

 ―――


 フロッカ峡谷の道は、どこまでも続く。幾重に枝分かれする迷路のような道。

 それでも、出口へと導く道しるべの棒のおかげで、ポメたちの歩みは順調だった。

「ついにトリキリデかー、楽しみだね」

 トリキリデ……ポメにとっては、最近授業で習った町だ。

 挿絵に描かれた、町を包むほどの大きな樹が印象的だった。

 でもその大きさは、挿絵じゃあどれほどのものか分からない。前にお母さんに聞いたこともあったけど「こ~んなにも、おっきいわよ」と、手をぐんと広げて教えてくれた。

 でもそれじゃあ結局、ポメにとってはどれほど大きいのかは想像もできなかった。

「ふっふ~ん、オイラも楽しみだなぁ」

 ジェコも楽しげに、ふんふんと鼻歌を歌っている。リズミカルに、ぶんぶんとしっぽとお腹を揺らしながら。

「ジェコさんも楽しみなの?」

「トリキリデではま。わざわざ聖都に送る野菜とか育ててるらしいんだ。一体どんな味か……すっごい楽しみさ!」

 じゅるり。よだれをたらすジェコを横目に、ロココはふんと鼻を鳴らした。

「あんなの、大したことないわよ。フツーの野菜を、トリキリデの加護があるからとか言って、テキトーに高く売ってるだけだもの」

「なんだい、やけに詳しいなぁ」

「ま、そうねぇ……」じっと、ロココは前の方を見つめて、ふうと小さくため息をついた。

「伊達に、色んなとこに行ってないものよ」

 そしてそれから、ロココは黙ってしまった。ロココが黙っちゃうと、ジェコやポメも言葉が見つからなかった。ざざぁっと、峡谷を抜ける風の音が聞こえてくる。


「ねぇ、デデ」

 ポメは後ろの方にいたデデに近づいた。

「トリキリデ、あとどれくらいで着くんだろうね……」

「そんなの、俺が知るワケないだろ」

 デデはため息まじりに、そう言った。

「ただ、そうだな……フロッカを抜けたらすぐに見えるって話だな」

「じゃあフロッカからすぐなんだ」

「いや、そーいうわけじゃないらしい」

 ポメは首をかしげた。なんだか、なぞなぞを与えられたような気分だ。そんなポメの顔がよほどおかしかったのか、それを見たデデは小さく鼻で笑った。

「ま、その時に分かるさ」

 

―――


 それからポメたちは、しばらく歩いた。目印となる棒の間隔も、だんだんと広くなっていく。分かれ道も少なくなって、道が広くなっていくのが分かった。

 ポメたちはお互いに、感じ取っていた。もうすぐで、フロッカ峡谷の終わりが見えてくるだろうということを。

 ゆるい曲がり道を抜けると、遠くに明るく光の差し込む場所が見えてきた。出口だ。みんながそう確信すると、お互いに顔を見合わせて、走り出した。

「ついに……ついにトリキリデだ!」

 ポメたちは久々に、大きな空を拝むことができた。

 そしてその視線の先……目の前には、巨大な樹がそびえていた。それはまるで、ポメたちを迎えるようであった。

「あれが……トリキリデ?」

 ポメはトリキリデが、どれほど大きいものなのか、ずっと想像していた。でもそれは、想像なんかじゃ計り知れないものだった。

「すっげーなぁ……オイラの町よりもでっけぇや」

 その幹は、ポメが今まで見てきたどんな建物よりも太い。そんなものが天高くどっしりと伸びていって、トリキリデ全体を覆うように、山と見間違えるほどの大きな樹冠が広がっている。

「こんなに大きな樹が、存在してるんだ……」

 ぽつりと呟いたポメに、デデはその横でクックックと笑っていた。

「なんだ、そのガキみてぇな感想は」

 ポメはむっとほっぺをふくらませた。

「と、とにかく行こう!」

 トリキリデは見えるけど、その道のりはまだまだ離れている。

 そこまでの道のりの間、トリキリデがどんなところなのか……期待を胸に膨らませながら、ポメたちは進んでいく。

『今度こそ、お母さんのこと……なにか分かるかな』

 でもポメには、ポメの旅の目的があった。それを思い返しながら、きっと何か手がかりが見つかると、心の中で祈った。


 ―――


「……ようやく、無事に着けそうだな」

 ポメたちが進んでいく中、フロッカ峡谷の崖のそばから、それを見つめている一人の影が、そこにあった。

「おそらく情報通り、ヤツは“当たり”かな。あとは、なんとか誘い込めれば……」

 手帳を広げ、すらすらとペンを走らせながら、男は一人で呟く。帽子とコートで顔は少し隠れているけど、金色に光る目だけは、はっきりと見えている。その目は、ポメをじっと見つめていた。

 ピタリ。手帳に走らせたペンを離し、男は手帳をのぞき込んだ。それを見て、男は小さく笑った。

「なるほどねぇ……トリキリデでも、面白いことになりそうだ」

 帽子を少し持ち上げる。ピンと張ったヒゲを少し弄りながら、ヒューイは歩いていった。

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