第33話 ~魅惑なコックのお・く・り・も・の~

 ―――

 

 こうして料理大会は、幕を下ろした。前代未聞の、"引き分け"という形で。

 決勝戦の料理はだめになってしまったけど、二つの街には他の料理であふれていた。予選で落ちたチームたちが振る舞っていたのである。

 使い切れなかった果物を使ったミックスジュースはとくに人気で、みんなが木のコップを片手に持っていた。

 そして今回は大会後の"掃除"も、見物となっている。生クリームでぐちゃぐちゃだった浮船には、たくさんのマイマイがいた。みんな、生クリームを丁寧に食べていて、浮船はみるみるうちに綺麗になっていく。

「でも……優勝できなかったのは残念だったね」

 浮船を見つめながらポメはそう呟いた。

 ここはカルカル側の川のほとり。ポメにロココ、それにデデとジェコ。ようやく、みんなが集まった。

「でもま、アンタたちが決勝に上がったなんて、未だに信じられないわね」

「ほとんど、運が良かっただけだけどな……」

 デデはジロリと、ジェコを睨みつけた。

「わ、悪かったよ……これ全部、オイラのおごり! それで許してくれよぉ」

「ふん!」大会が終わってすぐに体を洗ったそうなのだけど、デデの体からはまだねっとりとした甘い匂いが漂っていた。「これだけで許せるかっての」

 みんなにジュース一本ずつ。それに、次の町までのマイマイ代。全て、ジェコが払うことになった。

 ともかくここで、ポメのお母さんたちの情報はなかった。すぐにでも次の町を目指すため、ポメたちは路地へと進んでいった。目指すはカルカルの玄関口だ。

「ちょっと待ちなさいよ」

 人通りも少なくなってきて、どこからか声が聞こえた。振り返ると、そこにはジェコたちがアツい戦いを繰り広げた相手……パクチーたちが近づいてくる。

「な、なんだよ」

 ジェコは大きな体を張って、ずいとみんなの前に出た。向こうからは甘い香り漂うけども、その目つきは鋭いものだった。

「な~に警戒してんのよ。アタシたちはね、べつに野蛮なことはしないわ」

 そう言うとパクチーは懐から、あるものを取り出す。

「これ、もう要らないわアナタにあげるわ」ジェコに渡したのは、ペッパーミルだった。赤い宝石の埋められた、人を魅了する力を持ったもの。

「アタシたちはそれを手に入れてから、ずっとそれに頼ってきた。おかげで良い夢見せてもらったけど……それだけじゃダメって、アナタが気づかせてくれたわ」

 気取りながらそう言うパクチーは、大会の時と少し雰囲気が違うようだった。あの"もや"を吸っていなくても、パクチーの持つ料理人としての魅力が、溢れているみたいだ。

「そのお礼として、大事に使ってちょうだいね。ア・タ・シの、愛☆用☆品」

「は、はは……ありがと」艶のある声に、ジェコはぞくっと背筋が凍るのを感じた。

 でも貰ったペッパーミルは、よく出来ている。しっかりと洗っていて、目立つ傷もない。料理人がしっかり使いこんだ道具だからこその、特有の温もりを、ジェコは感じていた。

「へへ、大事に使わせてもらうよ!」

 でも、ポメにとっては少し心配だ。このペッパーミルには、力を持ったものがが憑りついているのだから。

『……でも、今は大丈夫そうだね』

 ポメには見えていた。もう小指くらいに小さくなってしまったペッパーミルの主が。力が弱まったせいなのか、なんだか小さく鳴いているような気もするけど、もはやそれは"声"として聞き取れなかった。

「それじゃ、アナタも頑張って、立派な料理人目指しなさいよ」

「あぁ、ありがとな!」

「……でもケーキを積むなら、もうちょっと考えて積みなさいよね?」

 そうして手を振ってパクチーたちは去っていった。あの時のもやの力はもうないけども、ジェコにとってその後ろ姿が、なんだか神々しく見えた。

「ありゃあきっと、すげぇ料理人になるぜ!」

「なぁ~に言ってんのよ。さっさと行きましょ」

 そうしてポメたちは歩き出した。

 カルカルの玄関口は、ケラケラほどヒトでごった返していなかった。広場を横切って、マイマイ小屋へと向かう。

 ここならアルメリシアとは違って、マイマイを借りられる。ようやく自分の足で歩かなくても済むと思うと、みんな心が躍るようだった。

「……あれ?」

 視線を感じて、ポメは後ろを見た。でもまばらにヒトのいる広場から、不思議な気配は感じない。

「気のせいかな……」ポメは首をぶんぶんと振って、みんなの後を追いかけて行った。

 

「やっぱりあの子には、見えないものが見えるみたいだな……」

 マイマイ小屋から離れた建物の影から、金色の目がポメたちを見つめていた。すらすらとノートにペンを走らせていく。小さな風がくるくると舞い、コートをなびかせた。

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