第30話 ~決着!ジェコの華麗?なる一品~

 ―――

 

「なぁ、そろそろ教えろよ。なに作ってんのかさ」

 ケラケラ側でも、ジェコたちの料理は順調に進んでいる。でもデデは食材を運んだり、それを言われた通りのサイズに切ったりするばかり。かんじんの、どんな料理になるかを、知らなかったのだ。

「ん~、ふふんふん」

 でもジェコはあいかわらずのマイペースだ。切ってもらった具材を乗せながら鼻歌を口ずさんでいる。ほんとうに楽しそうで、まるで聞く耳を持っていない。

「ちぇ、教えてくれたっていいのにさ」

 デデは、テーブルの上に目をやった。薄く伸ばした大きな丸い生地、トマトソースやチーズで彩られたそれは、見覚えがあるものだった。

「これって、ピザか?」

「その通り!」

 フルーツや魚で、より彩りを増したピザ。ジェコはそれを、窯の中へ入れていった。

「前に父ちゃんがブドウと白身魚のサラダを作ったことがあるんだ。味の相性がサイコーでさ。オイラの読みが正しければ……ピザにしても美味いはずざ!」

「へぇー、フルーツと魚のピザねぇ……」

 あとは焼き上がるの待つだけ。ジェコは窯の前でじっと、ピザの焼き上がりの具合を伺っていた。

 デデはちらりと、他のチームにも目をやった。

「やっぱうちのチーム、地味なんだろうな……」

 

 そうこうしているうちに、料理対決はもうすぐで終わりを迎えようとしていた。最後の仕上げに盛り上がりを見せるのは、キツネたちのチームであった。

「さぁ、最後はバッチシ決めるよ!」

「はいな!」

 ムササビの子は風に乗ってさっそうと飛び立つ。持っているのは、ふたをつけかえて穴を調節した、コショウの瓶。

 料理の真上に来ると、コショウを振りかけようと瓶を傾けた。しかし、その時であった。コショウが振り撒かれるよりも先に、瓶のふたが、ポロリと外れてしまう。

「あっ」と言う間もなく、ぶわっと。全てのコショウが辺り一面にばらまかれた。風に舞って、キツネの周りにはコショウのうずが立ちこめる。

「う、んぐ……あっあ……」

 そのコショウはダイレクトに、キツネの、その鼻の奥を刺激する。スパイスの強い匂いと共に、むしょうに鼻をくすぐられる感覚。

「ま、まずいわ! 口をおさえなきゃ!」

 ムササビは慌てて下りてキツネにかけよった。その体が、手が、むずむずと震えるキツネの口に届く、その直前に、溜まっていたものは放たれた。

「ぶぇいーーっくしょ!!」

 鼻を擦りながら目を開けるキツネの目の前に広がったのは、くしゃみで宙を舞い、ひっくり返って地面に落ちてしまった料理たち。

「そ、そんな……」キツネの顔は瞬く間に、さーっと青ざめていったのだった。

「ここで、試合終了になりまぁぁす!」

 しんと静まり返る中、静寂を突き破るようにゴウォンと銅鑼の音が鳴り響いた。

「僕の、僕の自慢の料理が……」

 ぐちゃぐちゃになった料理の前で崩れて小さくなるキツネに、ムササビはポンと手を置いた。

「ど、ドンマイ?」

 

 これで、キツネたちのチームを除いて、料理は完成した。そんな二つのチームの前に、ケラケラを代表する三人の審査員が現れる。

 まず最初に食べてもらうのは、トラのチームの料理だ。三人の前には、大きな銀色の包みが置かれていく。

「へっへぇ、それじゃあ召し上がってくだせぇ。うちのチーム特製"ジャイアントクイーンのホイル焼き"でさぁ」

「ほう、では頂きましょうか……」

 ナイフとフォークでホイルの包みを破ると、中からはむわっと甘い香りを漂わせるフルーツのかたまりが出てきた。

 そのビッグなサイズは、高級店でしか見られないようなマイマイの厚切りブロックステーキを彷彿とさせる。食べごたえのありそうなかたまりを前に、審査員たちはごくりとつばを飲み込んだ。

「ほほう、食欲をそそる、豪快な大きさですね」

 そしてナイフで小さく切り分け、たっぷり掛かっているソースをからませて口に運んでいった。

「ん~、濃いめの甘口ソースが、口の中でじゅわっと広がるようだ! 素晴らしい、それにメインのフルーツの……フルーツの……」

 もぐもぐ、フルーツを噛み砕いていくと、審査員たちの表情はみるみる変わっていった。ソースがもたらす甘い世界から、だんだんとけわしい顔に。

「……フルーツの味が、全然しないな」

 どよどよと、小さな声で不穏な会話を交わしている。トラのチームにとっては自信作であったからこそ、気が気でなかった。

「その理由、オイラがお教えしましょう」

 そんな中で、鼻を高々に上げて一歩前に出たのは、ジェコであった。

「ジャイアントクイーンは見た目こそはでだけど、味はわりと淡泊なのさ。ドゥブールでは儀式で食べる行事があるけど、それ以外で獲れた日は、肥料にするって話さ」

「そ、そうなのか!?」それに一番驚いていたのは、トラのチームであった。「伝説の果実を調理できるってんで、浮かれちまって試食もしてなかったぜ……」

「ソースは絶品ですが……うーむ、ただそれだけの味になってますなぁ」

 審査員の一言がとどめとなって、トラのチームががくんと膝から崩れ落ちてしまうのだった。

 次に運ばれたのは、ジェコのチームの料理である。審査員の前には、一カットのピザが置かれていった。

「お待たせしました。オイラが作った"魚とブドウのピザ"です!」

「ふぅむ、香りは中々。見た目も華やかですね」

 匂いや見た目を十分に楽しんだあと、ピザを頬張ばっていく。もぐり。ひとかみするたび、審査員から小さな笑みがこぼれていった。

「白身魚の凝縮されたうまみと、ブドウの酸味……上手くマッチしていますよ」

「生地もうすく、それぞれの具の食感もしっかりと味わえますね」

 それを聞いて、ジェコは密かに小さくガッツポーズを取った。

 だけども何度か噛み締めていくうちに、審査員たちの表情はまた、少しずつ曇っていくのだった。

「ただ……なんだろう。チーズが食材の風味を邪魔しているようだ」

「あ悪くはないけど……あと一歩という感じだなぁ」

 どっちの料理にも、厳しいコメントが投げかけられた。審査員たちが顔を合わせて相談するのを、ジェコやトラのチームたちはただハラハラと待つことしかできなかった。

 そしてその時間も、あっという間に終わっていった。審査員たちは話をやめると、代表の一人が立ち上がった。

「選ぶのは大変難しかったですが……将来的な成長のことも加点とし、ジェコたちのチームを代表チームとして選ばせて頂きます」

「よっしゃあ!」

 選ばれたことに喜ぶジェコ。でもデデはなんだか、浮かない顔であった。

「どうしたのさデデくん。オイラたち、決勝に選ばれたんだぞ?」

「いやだってよ……まるで、消去法で選ばれた感じじゃないか!」

 結果が発表されてデデの目に映るのは、ひっくり返った料理の前で小さくなるキツネたちのチームに、残った自分の料理を一口食べてみて、顔の固まってしまったトラのチーム。

 デデはあまり料理をすることはない。それでも、みんなが致命的なミスを犯したんだということは、よく分かるのだった。

「でも勝ちは勝ちさ。ほら、デデくんも一枚食べてみな」

「お、おいちょ……むぐ」

 デデはぐいぐいとピザを押し込まれ、無理やりにでももぐもぐした。口の中に広がる、魚の風味にブドウの甘酸っぱい香り。確かに、美味しい。デデくらいの舌にとっては、とても楽しめる味だった。

「……すげぇ、本当に美味しいや!」

「ふっふ~ん、オイラは父ちゃんの味を記憶してるんだ。決勝も、上手くやっていくぞ!」

 

 ―――

 

 一方カルカルでも、結果発表が行われていた。それはこの料理対決の中でもとくに早く、一瞬で代表チームが決まることとなった。選ばれたのは、やはり、あのブタのチームである。

 それは誰の目から見ても、奇妙な結果発表であった。

「なによあの審査員……あのチームの料理以外、一口も食べてないじゃない!」

 ブタのチームが作った特盛りチャーハンを、結果が発表してからも無我夢中に食べ続ける審査員たち。他のチームが作ったものには、手つかずだったのだ。

 それなのに、他のチームはまるで不満そうじゃない。むしろ決勝に選ばれたブタのチームを、讃えたりしている。観客からもブーイングが飛ぶ中、ブタたちは選ばれたのが当然のように、キメ顔を見せていた。

「こんなの……勝負になってないよ」

 何故こうなってしまったのか……全てが見えているポメには分かる。

 審査員たちも、あのふしぎなもやをいっぱいに吸い込んでいたんだ。きっと、みんながあのブタのチーム操られている。

 でもそれを知っているのは、あのもやが見えていたポメと……それに憑りついていたフォルだけであった。

「どうすんダ? あんなのほっておいたら、ヤバいことになるんじゃないカ?」

「…………」

 ふとポメの頬を、やわらかな風がふわりと通り過ぎて行った。まるで生き物に撫でられたような風。

 ブタたちのチームのもやとは違う、やさしさを感じるような空気は、どこかで感じたことがある気がした。

「……ロココさん、ごめん」風の香りは、まるで自分のことを呼んでいるようで、胸の奥をくすぐられた。「僕、ちょっと行ってくる!」

 そう言ってポメは風の吹いた先へ、さっそうと走り出した。

「え、ちょっと、行くってどこへ!?」

 階段を下りて、地上の道へ、風のする方へとポメは駆けだしていく。

 すると道の曲がり角を曲がる、ひらひらとコートをなびかせるあやしい影。

『あれはきっと……情報屋のヒューイさんだ』

 その細く長いしっぽはしゅるりと、建物の角へと消えていった。

「なぁポメ、追っかけても大丈夫なのカ?」

 建物を曲がると、また突き当たりで消えていくしっぽの影。そして曲がればまた、しっぽは消えていく。それをずっと、繰り返していって、ポメは追いかけていった。

「まるでヨ、人ごみのないとこへ誘ってるみたいじゃないカ」

「うん、でも……」ポメはすっと、前を見据えていた「ふしぎと、悪い感じがしないよ」

「な~にが、悪い感じがしないだヨ! 分かった風に言いやがっテ!」

 それでもポメは進んでいく。だけども、手がかりとなるしっぽすら、見えなくなってしまった。

「どこへ行っちゃったんだろう……」

 路地裏をウロウロしていると、上からコツコツと、足音が聞こえてきた。

 見上げると、橋の通路を歩くのは、あのブタのチームがいた。ポメは思わず影に隠れる。見つからないように、顔を出さないように、耳をぴんと立てた。

「ふふ~ん、一回戦目は上手くいったわよ」

「見させていただきましたよ、ええと……」

「名前はパクチー。推薦したのは貴方なんだから、ちゃんと覚えなさいよ?」

「ひへへ、すみませんねぇ。いやぁしかし、ウワサ通りの力ですな」

 あのブタのリーダーが、誰かと話をしている。

『相手は一体、誰なんだろう……』顔を見たいけど、少しでも顔を出すと見られてしまうかもしれない。ポメはそこから一歩も、動けなかった。

「これでアタシたちは決勝戦に出る。アタシたちは優勝して、この街での料理長としての座を勝ち取るのに、一歩踏み出せるワケね」

「ふっふっふ、そして審査員の町長たちは、貴方の料理を食べてみんな、貴方の言いなりになる……そうなれば副町長であるわたくしが、町長になるのも夢ではない、と……」

「ま、ワタシはそういうの興味ないけど、そうなるよう手を回してあげるわ」

 ブタたちのチームと話をしていたのは、カルカルの副町長であった。ブタのチームと、副町長。一体どんなつながりがあるんだろう……。

 ポメは頭をぐるぐると回転させてみる。答えこそ分からないけど、ただとんでもないことが起きてるということは、理解できた。

「こりゃ、大スクープだナ!」

 そんな中で、フォルだけはなんだか楽しそうだった。

「とにかく僕ら、はなれた方がよさそうだよね……?」

 一歩一歩、そこから後ずさりをする。すると、とん。頭に何かが乗っかる感触が伝わった。

「ひっ!」背筋が凍るような感覚が襲って、ポメは音にならないような悲鳴を上げる。

「ふふ~ん、そういうことねぇ」

 振り返ってみると、そこにいたのはロココであった。

「ロ、ロココさん!」

「もう、探したわよ! まさかこんな、面白いもんを見つけたなんてねぇ」

 フォルだけじゃなくて、ロココもまるで楽しそうだ。なんだかとんでもないことになりそうな話なのに、怖いのはポメばかりである。

「きっとあのチーム、料理にヒトを操るようなヤバいもんでも入れてたのね」

「きっと、そんな感じだよね」

「でもそれって料理対決なんて言える? アイツら……卑怯な手で勝利を掴もうとしてるんだわ!」

 そしてパクチーと副町長の会話は、最後の確認をして終わりを迎えた。

「それじゃ、分かってるわね? 応援合奏団にはチューバを入れないこと。アレを聴くとアタシたち、調子が奮わなくなっちゃうから」

「えぇもちろん、分かっておりますとも」

 そして聞こえてくる、コツコツといういくつもの足音。それが小さくなっていって、聞こえなくなった。

「うーん、悔しいわね。なんとかしてアイツら、アタシたちでこらしめられないかしら?」

「こらしめるってったって、どうやって……」

 ポメだってどうにかしたい気持ちはあった。でもかたや町長、かたや料理大会のチーム。とても、ただの子どもにはどうにかできそうではない。

「でも多分、アレをどうにかできれば……」

 ポメにちらりと頭に浮かんでいた。あの宝石のついた、ペッパーミルだ。

 あれはハルシャギに憑りついていたやつと、雰囲気がとてもよく似ている。そしてアレを弱らせたのは、ジェコのホイッスルだ。

 今回もあのもやも、あの指輪の主と同じようなものだったら……きっとあのもやにも、苦手な音があるはずと、ポメは考えていた。

「もし苦手な音があるなら……それがもしかして……」

 ロココのしっぽを、ちらりと見る。そこには大きなチューバが支えられていた。合奏団には入れないようにと言っていた、チューバが。

「ロココさんなら……あいつらを止められるかもしれないよ!」

 それを聞くと、ロココはきょとんと目を丸くしてポメを見た。

「あ、アタシが?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る