第17話 ~トマリギは、ウワサの行き交う場所~

 ノウィザーから次の場所へと発つのにポメたちが乗ったのは、三人がゆったりと座れる大きなマイマイであった。初めての旅だとジェコは奮発して、ふかふかの絨毯の敷かれたタイプを借りたのだった。これで、ちょっとの長旅でも疲れることはない。

 後ろを見ると、荒野の真ん中にあるノウィザーはだんだんと小さくなっていく。町のシンボルである噴水も、見えなくなっていった。

 マイマイはゆっくり、次の町へと向かっていく。そんな中、ジェコの大きな声が響き渡った。

「えぇ! お前ら……旅してるってのは、ウソだったのか?」

 目を丸くするジェコを見て、ポメとデデは小さく頷いた。

 ポメたちの実際の旅する目的は、アルメリシアに帰ること。それを今まさにジェコに伝えたところだったのだが、想像以上に大きな声を上げたので、ポメたちも呆気に取られてしまった。

「てことはアルメリシアに着いたら……オイラは、一人で旅しないといけないってことだな?」

「なんだよ、一人で旅するのが怖いのか?」

「いや、そんなことはないけど……」

 デデの言葉に少し戸惑いながら答えるも、ジェコはそわそわと右を見たり左を見たりしていた。

 そんなことはない、それがどれほど本当の気持ちではあるのか、今のジェコを見るとポメたちでもなんとなく分かる。

「アルメリシアか。まぁ金は沢山あった方がいいし……そこで三十日くらい、どっかで働いて稼ぐのも悪くないな!」

「ジェコさん、三十日も滞在するの?」

「あ、あぁ……一人旅は危険がつきものだからな! 金は多めに持っておいた方がいいだろ?」

「……なぁポメ」

 デデはおもむろにポメを引き寄せ、そっと顔を近づける。

「こいつが旅に出た理由ってやっぱり、ただ兵士になりたくないから……なんだろうな」

「……そのこと、本人には言わないようにしよ」

 やがて日は傾き、空の色を少しずつ変えて沈んでいく。夕方を迎えるその直前のところで、道行く先に大きなものが見えてきた。

「あれは……何かの塔?」

 ポメは指をさして言う。それはノウィザーで見た噴水よりも、どんと大きく高いものであった。

「はぁ……本当に何も知らないんだなぁ。アレは"トマリギ"っていう、大きな木だよ」

 デデはため息交じりにそう答える。まるで勉強をしていないと思われるのは、ポメも少し腹が立ったようで、むっとほっぺをふくらませて言い返す。

「トマリギくらい知ってるよ。ただ……あんな大きいとは思わなかったから」

「ま、あの教科書の絵じゃあ分かりにくいもんな」

 トマリギ……それはオルゴア王国中にある、旅人たちのための休憩所のようなところだと授業で習っていた。

 元々はトリ人たちが休憩するために植えられたものだそうだが、それから歴史を重ねて旅人たちも休める憩いの場となったそうな。

 そのため、あそこには様々な情報やウワサが飛び交うのだそうな。だからこそ新聞を生業とする人たちも集まるのだそうな。

「教科書だと、小屋みたいな大きさだと思ってた……あんなにでっかいなんて」

 近づいていくと、なるほどその形がはっきりと分かってくる。地面にしっかりと根を張る、アルメリシアで一番大きな工場ほどある太い幹。それがてっぺんまで、太くずっしりと伸びていた。

 トマリギの根元には、マイマイがずらりと横に並んでいる場所があった。ここにはマイマイ小屋となるものはなく、ここに停めておくように決められているそうだ。

 ポメたちはその空いたところにマイマイを寄せ、縄でトマリギの根っこと結びつけ、マイマイが逃げないようにした。

「あそこが入口かな……」

 トマリギには一ヶ所、太い根が幾重にも並んでできた自然のトンネルがあった。その入口には、何人かの旅人と見られる人たちがたむろしている。ポメたちはそこから中へと入っていった。

 トンネルを抜けた途端、ポメたちは中に包まれた活気にあてられた。辺りにはテーブルとイスが並べられていて、様々な人たちが食事やお酒を飲みながら言葉を交わしている。

 そして顔を上げると、ポメは思わず声を漏らした。

「わぁ、すごい……」

 トマリギは真ん中がてっぺんまで吹き抜けになっていて、見上げるだけで建物の中とは思えないような広い世界が広がっていた。

 また吹き抜けの真ん中には大きなカンテラが吊るされていて、その周りに階を行き来するトリたちが飛び交っている。普通の町じゃあ、絶対に観られない光景だった。

「へっへ、なんか陽気な音楽が聞こえてくるな」

 アップテンポなジャズ調の演奏がどこからか聞こえてきて、タンタントタン、ジェコはそのリズムに合わせたしっぽを振っていた。

 音楽は、巨大なランタンの中から聞こえていた。これはランタンのように見えてステージの役割をしていて、その中で四人の楽団が演奏をしているのだ。

 その音楽が吹き抜けとなったトマリギ全体に響き渡り、至るところに置かれているランプ用の譜面石が反応して淡い光を発している。

 トマリギ内は窓がほとんどなく太陽の光が差し込まないけども、その代わりに譜面石のぼんやりと幻想的な明るさに包まれていた。

「すごい、すごい……こんなの、見たことないよ」

 ポメは、どこまでも広がるような空間を見ながら歩いていく。たくさんの旅人たちの声、それらが一斉に自分のとこに集まるようで、ポメの心を躍らせていた。

「お、おいポメ、前見ろ!」

 デデは声を上げてポメに駆け寄ろうとする。しかし、遅かった。ポメは後ろを向いていた大きな男とぶつかってしまった。

「いってぇなあ、誰だ!」

 一人と、その隣にいたもう一人もぐるりと振り返る。ぎらりと目を光らせるのは、屈強な体をしたブタとウシの男たち。

 デデとジェコもすぐさまポメの元に駆け寄るが、男の胸につけていた紋章を見るとジェコは足を止めてしまう。

「やばい……あいつら、ツムツム運送の奴らだ」

 ジェコの顔から、さあっと血が引いていく。それを見て、デデもなんか知らないけどヤバそうなやつと感じたようだ。

「なんだよその、ツムツム運送って」

「あ、あぁ……ノウィザーから他の町に魚とかを運ぶ連中さ。ノウィザーにはそういう運送をやってる組合は三つあるんだけど、その中でもツムツム運送ってのはとにかく気性が荒い奴らばっかでさ……」

 二人の男は、腕を組みながらポメをじっと睨みつけている。ポメは慌てて頭を下げた。

「ご、ごめんなさい! 僕、ちゃんと前見てなくて……」

「ふん、ガキは謝りゃあ済むと思ってるみたいだぜ」

「あぁ、背中がいてぇな……骨でも折れてたら、どうしてもらおうか」

 背中をさすりながらわざとらしく顔をしかめているその様は、誰が見たって演技だって分かるくらいだ。だけどもへたな演技だからって、それを言えるはずがない。

「あうぅ……」

 ぐっと裾を握り締めて、今にも泣き出しそうなポメ。それを見ていると、デデも沸々と怒りが湧いてきた。

 なんだって根は真面目で、友達がケガをすれば真っ先に心配する。そういうのを、学校で何度も見てきた。

 そんなポメの心を、デデから見ればあいつらはまるで弄んでるかのようであった。

「あぁ、もう!」

 どうにでもなれ! そう心の中で叫びながら、デデは足を踏み出して駆け出そうとした。

 カシャッ!

 しかしその瞬間、ポメたちの周りにパッと一瞬の強い光が差し込んだ。

 その光に、男たちは驚き顔を遮る。唖然とするポメに近づくように、トン、トン、静かな足音が聞こえてきた。

「いや~アンタたち、とっても良い笑顔が撮れたわ」

 そこには黒い翼を持った、カラスの女性がいた。紐のついた四角い箱を肩から下げていて、左手にはプレートを持っている。

「お前、新聞記者のイリイじゃねえか……なんだ一体、何を撮ったってんだ!」

「あら、そんなに見たい?」

 イリイは目を細めながら持っていたプレートを見せた。薄いプレートには、ギラギラとした目つきで睨みつける二人の男、そして今にも泣き出しそうな顔をしたポメもいる。

「すっごい、写真だ……あれ、本物のカメラなんだ」

 カメラ、それは見たものを瞬間的に絵として形に残すものであった。新聞などでよく使われていて、とくに見出しの一面に描かれるそうな。

 だけどもカメラそのものは中々高価で貴重なものであり、持っているのは相当な貴族か、一部の新聞記者くらいである。普通の人では、実物を目にすることは滅多になかった。

「これ、記事に使ったらすごくいいと思うわねぇ。どんな記事がいいかしら……『ある運送業者、子どもに"ユスリ"をかけている?』なんてどう?」

「おい待てよ、オレらはそこまでするつもりは……」

「えぇそうねぇ。私はあくまで"もしも"として記事を書くつもりだしね。あとはどう受け取るか、それは読む人次第よ」

 二人の男は、今にもイリイに飛びかかろうとでもいうような姿勢をしている。しかしイリイはおもむろにカメラへ手を伸ばし、その指先をスイッチにかけていた。

「アタシから写真を奪えるって、本気で思ってるわけ? このまま大人しく引いてくれたら、記事のことは考えてあげるけど……」

「ぐっ……」

 二人はじっと、イリイを睨みつけたまま動かない。その屈強な体を止めるほどの力が、この写真というものにあるのが、ポメにとってはとても不思議であった。

「おい、行くぞ」

「あぁ……」

 そして二人の男は目を合わせて、トマリギの出口へと向かっていった。横切りざまに、チッと小さく舌打ちを残して。

「あの……イリイさんですよね? 助けてくれて、ありがとうございます!」

「別に、気にしないでよ。アンタを助けるためにやったわけじゃないし」

 イリイはそう言うとくるりと振り返り、自分の座っていたテーブルに戻っていった。まだ残っているグラスに注がれたお酒をくいと飲み、できたての写真を眺めている。

「これでもしもの時は、アイツらをダシに使えるわね……」

 ポメたちには本当に興味がなかったのかもしれない。お酒を飲むイリイにはもう、ポメたちのことなど眼中にないようであった。

「…………」

 イリイのことをじっと見つめるポメの元に、デデたちも駆け寄ってくる。だけどもポメは何かが引っかかっているようで、イリイから目が離せないでいた。

「おいポメ、お礼も言ったんだし早く行こうぜ」

「……うん」

 男たちは、新聞記者のイリイと言っていた。新聞記者というのは情報を集めるために、自ら色んな土地を飛び回っているという話だ。

 ……もしかしたらあの人なら、今オルゴア王国で何が起きているか、分かるかもしれない。

「ごめん、デデ。僕、あの人と話をしなきゃ」

 ポメはそう言うと振り返り、イリイの方へと駆け寄った。

 とたとた。イリイはその小さな足音に気づくと、ちらりと目視線だけを向けてすぐさまノートに目を向けた。

「あ、あのイリイさん……僕ら、ある理由でアルメリシアに帰る途中なんだけど。その……アルメリシアが今どうなってるか、知りませんか?」

「うーん、知ってるには知ってるけど……」

 イリイはペンの手を止めることなく、ノートに目を向けながら答えた。

「私からそれを教えてもらうためのお金は、持ってるのかしら?」

「お、お金ですか?」

「えぇ、情報料ってやつね」

 ふうと息をつき、イリイはグラスを持ち上げて少し口をつけた。そしてにこやかな表情で、ポメを見つける。

「私たち記者はね、情報が商売なのよ。ほら、"文字は金なり"って言うでしょ? 情報を知りたかったら、それなりの対価が必要なのよ」

 イリイの表情は笑っている。だけどもその目は、大人の商売としての目をしていた。

 そんな目で見られることがなかったポメにとって、大人の大人としての怖さが、伝わってくるようであった。

「それじゃあさ、お姉さん……"情報"には"情報"でどう?」

 するとデデがすうっとポメの横を通り過ぎ、イリイの前へと歩み寄った。

「最近この辺りで噂になってる、"人さらい"の正体……知りたくない?」

 人さらい。その言葉を聞くと、イリイの表情が少し変わる。ポメはちらりとデデの顔を見ると、デデはこっちを見ないまま「ひとりで勝手につっ走るなよ」と小さな声で言った。

 

 ―――

 

「それじゃあアンタたちからすると、ソイツらはあの昔話の"オロオロさま"に見えたってわけね?」

 デデは僕がアルメリシアで人さらいに捕まってから、ノウィザーまで逃げ延びたことを話していた。

 きっとまだ誰も、詳しくは知らないこと。僕らにとって忘れたいくらい怖い体験でも、イリイにとっては金になるネタであった。

 デデは一通り話し終えると、イリイは小さく頷きながらノートにペンを走らせていた。「ねぇデデ……ほんとうにオロオロさまかどうか分からないのに、こんな曖昧なのでいいのかな?」

「まだ誰も、姿すら見てなかったんだ。それに、さらった子どもをどこに閉じ込めてたのかも、これで分かる。何も知らなかったよりは、かなりの情報だと思うぜ?」

「確かに……そうだね」

 ポメたちの前には、ジュースの入ったコップが並んでいる。ふんわりと甘い匂いが乾いた二人の口を誘い、ポメたちはジュースを一口飲んだ。

「ありがと、おかげで良いネタが入ったわ。まぁ……これで後は新聞が出せれば、いい金になるんだけどねぇ」

「新聞、出せないんですか?」

 何気なく聞いたその一言に、イリイは眉をぴくんと吊り上げた。まだ半分ほどグラスに残っていたお酒をぐいと一気に飲み干し、大きく息をつく。

「アンタたち、ノウィザーにいたのよね。だったら見なかった? 新聞屋が閉まってたの」

 そう言われたら、とポメはノウィザーでのことを思い出した。アルメリシアがどうなってるか、早く知りたかったのに、新聞屋も閉まっていれば掲示板も真っ白だったんだ。

「国からの命令で、今は新聞の発行は全面禁止って言われてるのよ。ルーチ・タクトも行方不明っていうし、どうなっちゃうのかしらね……」

「ゆ、行方不明!?」

 ポメ、そしてそれに続いてデデも、ぐいとテーブルに乗り上げる。テーブルはガタンと揺れて、イリイの空のグラスがことんと倒れた。

「え、えぇそうよ……少なくとも、アルメリシアにもいないみたいだしね」

「…………」

 二人は茫然としたまま、力が抜けたように椅子に腰かけた。あれだけ日が経ったのだ、ポメたちにとってはもうアルメリシアに着いているのだと思っていた。

 だけども、まだ着いていない、というだけではない。まさか、行方不明だったなんて。

「もしかして、アンタたちが知りたかった情報って、この話なの?」

「こいつ……ルーチ・タクトの団員の息子なんだよ」

「あー、もしかしてポマさんの?」

 ポメは静かにこくりと頷くと、当たったことで気分が良かったのかイリイは「そっかー、やっぱりねぇ」と笑顔で何度も頷いていた。

「あ、ごめんね。ルーチ・タクトの人と取材をした時にね、ポマさんとはとくに仲よくなったのよ。なんていうか不思議と話しやすいっていうかね……たまに取材と関係なく、一緒にお酒を飲んだりしてね」

「そうだったんですか……」

 聖地巡礼の旅で、お母さんは色んな人とお話をするのが好きだってのはポメも聞いていた。お母さんはきっと本当に、イリイさんと楽しく話をしていたんだ。

 そう思うと余計に、胸が締め付けられる気分だった。お母さんがどこへ行ったのか。ただそれだけが、頭の中でぐるぐると駆け巡っている。

「……ポメくん」

 イリイの言葉に、ポメはゆっくりと顔を上げた。

「ルーチ・タクトはね、何度も聖地巡礼をやってるのよ。旅で困ることは何度もあった。それでも乗り切ってきたのよ。まぁ兵士たちも付き添ってるけど……それでもルーチ・タクトの人たちが強いことは、ポメも分かるでしょ?」

「うん……」

「大丈夫よ。ポメくんのお母さん、ああ見えてもしっかりしてるし。それにお母さんは無事だって、アンタが信じてあげないと」

「…………」

 何があったか分からない。だけどもピンチになるときはお母さんも本気の顔をして頑張るって、他のメンバーたちも言っていたことを思い出した。

「ささ、笑顔笑顔」

「えっ?」

 イリイはおもむろにカメラを手に取り、二人にレンズを向けた。

「写真を撮るには、笑顔がイチバン! 私もルーチ・タクトのことは探すつもりだし、もし見つけたらこの写真、届けてあげるわ」

「わ、写真なんていきなり……」

「ちょ、ちょっと待って、オレも撮るの?」

 突然のことでポメもデデも声が上ずっていた。だけどもイリイのカメラを構える手はとても手馴れていて、待たせてくれそうにもない。ポメとデデはそのレンズに目を合わせ、ピースをして思い思いの今できる笑顔を浮かべた。

 パシャリ。二人をカメラのフラッシュが包み込む。「いいのが撮れたわ」とカメラから出てきたプレートを掴み、二人にも見せた。

「はは、ポメの顔ガッチガチじゃん」

「いいのよ、こういう方が写真映えするわ」

「うぅ笑わないでよ……でもイリイさん、ありがとうございます」

「いいわよ別に。無理してでも笑顔を作ると、気分が少し軽くなったでしょう?」

 イリイの言う通りだ。ポメはずしんとしていた心が、少し軽くなったのを感じていた。

「うん……お母さん、きっと無事だよね」

 ポメはぐっと拳を握りしめる。目をつむると、いつものお母さんの笑顔が、浮かんでくるようだった。きっと、無事。ポメは心の奥底で、そう信じ込んだ。

「ルーチ・タクトのこと……お母さんを見つけたら、よろしくお願いします」

 ポメは深々と頭を下げ、デデと一緒に席を立って離れていった。そして話を邪魔しちゃいけないと、二階で一人待つジェコのところへと上がっていく。

 イリイはそんな後ろ姿を眺めながら、倒れているグラスをとんと立てた。

「ポマさんの息子さんねぇ。それにあのデデって子も……」

 イリイはノートをめくると、白紙のページを開いた。そこにポメとデデ、二人の名前が書き、すらすらとペンを走らせる。

「あの子たちの周りで、何かが起こりそうね」

 

 ―――

 

 トマリギの上層部は、簡単な作りではあるが寝具が並べられた簡易宿になっていた。木組みのしっかりしたベッドに、天井から吊るしたハンモックのもの。

 木組みのベッドは値が張るため、ポメたちは安いハンモックを選び、ここで一夜を明かすことにした。

 初めての長旅で疲れていたせいか、ジェコはハンモックで横になるとすぐに寝付き、デデは楽器の手入れをしばらくやってからハンモックに入っていく。

 だけどもポメはあまり寝つけず、トマリギの壁をくり抜いた小さな窓から外を眺めていた。真っ暗だけども、次に目指す道は見えている。奥へ行くほど草が茂り、その先に次の町が待っている。

「おいポメ、大丈夫カ?」

 ふと、横で浮かぶフォルがポメの顔を見ながらそう言った。

「うん……でもやっぱり、お母さんのことが頭から離れないよ」

 イリイはああ言ってくれた。確かにルーチ・タクトが聖地巡礼のさ中、盗賊に囲まれるなど様々なトラブルがあったことは聞いている。だけども、行方不明なんてことは、今回が初めてであった。

 一体どうして、行方知れずなのか。ポメの頭には「きっと、大丈夫」という考えだけでなく、奥底には払おうとしても払い切れない"よくない考え"がちらついていた。

「心配なのは分かるけどヨ……それは今、悩む必要のあるやつカ?」

「……どういう意味?」

 ポメは首を傾げると、フォルは窓の外へ向けて指をさした。指がさすのは、ポメが進むべき道である。

「いいか、確かにお前のママも大変な状況だろうナ。だけども、お前だって今は大変な状況なんダ。あとで悩めることは、あとで悩めばいいのサ。それに……」

「それに?」

「案外気づいてないだけで、アルメリシアにいるかもしれないゾ?」

「……ふふ」

「何がおかしいんダ?」

「ううん、なんでもない。でも、そうだね……」

 ポメはフォルと一緒に、進むべき道に目をやった。くらい、くらい道。だけどもそこを進めば、必ずゴールにたどり着く。

「あとで悩めることは、あとで悩みなさいって。お母さんも昔、そんなこと言ってたからさ」

「あァ、お前のママはいいコト言うよナ」

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