おばけ音楽団ポメ

モチヅキ イチ

プロローグ ~アルメリシアの学校で~

 ガタガタと、教室の窓が揺れている。俺は目をこすって顔を上げると、垂れた耳を後ろにはらった。

 今日は雲一つない、きれいな空だ。絶好のストリートライブ日和だけども、まずは学校の授業が終わってくれないとな。

「では皆さん、四十七ページを開いてください。この国、オルゴア王国の歴史に入ります」

 しかし一体、歴史の授業ってのは何の役に立つんだろうか。楽器をいじくってた方がはるかに有意義だと思うけどな。特に、この国じゃあ。

「まずはこのオルゴア王国、この土地が出来上がったと言われる神話から読んでいきましょう。オルゴア王国は元々、荒れ果てた大地でした。命のみなもとである緑や、それをはぐくむための水もありません。そこに"ルーチ"と呼ばれる神様がやってきたのです」

 こりゃあ『かみさまのあしあと』って話だったな。幼稚園のころに聞かされる、おとぎ話。何度も聞かされたんだから、今さら覚えてない人もいないだろうよ。

「ルーチは音楽をこよなく愛する神様で、自慢のオカリナを構えてこの地を歩きました。すると山から泉が湧き出し、一筋となった水が彼のあとをついていきます。これがのちに、この国を流れる大河となりました。更にルーチが身を震わす度に、頭のツノに根付く植物たちが種を下ろしていきます。種は瞬く間に芽吹き、この土地はあっという間に緑に包まれました」

 まずい、またうとうとしてきた。俺はノートの隅っこにメロディをささっと書いて気を紛らわす。頭に浮かんだものを、すらすらと。

「この神話は今も大切にされており、国の東の山奥にある聖都"ハクロト"では今もこの神様を祀っています。ちなみにこの神話でもたらされたのは、豊かな緑だけではありません。それが何か、わかる人はいますか?」

 少しして「ハイ」と声があがった。トランペット吹きの"ポメ"だ。先生はポメを指すと、さもゆーとーせーぶった顔で立ち上がった。

「神様がもたらしてくれたのは、えっと……"譜面石"です。今のこの国を支えている、ダイジな鉱石」

「正解ですよ、ポメくん」そう言って先生は拍手を送った。自然と教室中に小さな拍手が沸き起こる。

 へん、そんなん誰だって答えられるさ。ふいと顔を逸らして窓に目をやった。

「ルーチの吹いたオカリナの音色に惹かれたのは、水だけではありませんでした。それがこの土地にいた石たちで、彼らはルーチの演奏があまりにも楽しく、そうして音楽の持つ力のすばらしさを知ったのです。そういった石たちが、今も私たちの暮らしに欠かせない譜面石となりました」

 窓に目をやると、工場地帯からもくもくと上がる煙が見える。今の時間、工場の中はおっさんたちのかけ声できっとやかましいんだろうな。

「この譜面石は、この国では欠かせないものです。石によって特定の楽器の音色を聴かせると、ある反応を見せます。さて、これは皆さんも音楽の授業でやっていますね。ミキちゃん、どんな反応をしますか?」

 指されたのは、隣の席の子だった。俺はしせいを正して、教科書をかまえる。ミキは立ち上がるも口をもごもごさせて、石から星座が出てくる。と、少し自信なさげに答えた。

 星座じゃないよ、あれは。星座みたいな譜面だよ。俺的にはその答えはバツだけど、先生は「正解です」と言った。

「その星座みたいなのは譜面で、その譜面に合わせた演奏をすると、みんなの心を動かすくらいの強い力を周りに与えます。みんなを元気にしたり、時には安らいだり。とても上手い人の演奏なら、怪我だって治ってしまうとまで言われています」

 そう、だからこの国での演奏家ってのは、とてもえらい存在なんだ。すごい演奏家になれば、将来は安泰。だからみんな、尊敬されるようなすごい演奏家を目指すんだ。

「この国で一番演奏の上手い人たちは"ルーチ・タクト"と呼ばれる、国王に仕える音楽団です。彼らは年に一度"ルーチの足音"と呼ばれる、神様の通った道を辿っていく聖地巡礼の旅を行います。訪れた町で演奏を行っていく、この国で最も有名な伝統行事です。では次は"デデ"くん。その伝統行事はいつ行われるか、分かりますか?」

 デデ、それを聞くと無意識に背筋がびくんとなった。俺はノートを閉じてからゆっくりと立ち上がる。

「神様の足音は、今ちょうど、やっている最中です。あと数日後に、ここにもやってくる。ですよね」

 ルーチ・タクト。教科書にはその挿絵が描かれていて、俺の教科書にはそれにぐるぐるとマルが描いてある。

 もうすぐで、ルーチ・タクトがこの街に来る。誰もが知っている。このクラスだけじゃない。街ぜんたいが、音楽団を迎える祭りの準備をしているんだからな。

 先生や周りの子たちのまばらな拍手にふんと鼻で返して、俺は座り込んだ。机の横にかけてる、カバンの隙間から見えるトロンボーンをちらっと見た。

 こいつは昔からの相棒。もうすぐで学校でやる試験に合格すれば、ルーチ・タクトと共に演奏が出来る。こいつと共に俺は、その試験に合格するんだ。

 ライバルがいないってわけじゃあない。俺の次に技術のある、あのポメってやつさ。

 でも俺の演奏は、あんな裕福な暮らしでのうのうと育ってきたポメなんかとは違う。俺にはストリートライブで磨き上げてきた、俺だけにしかない演奏があるんだ。俺が一番に、なってやるさ。

 俺は外を見ながら、今日はどんなコンディションでライブをしようかと頭を回転させていた。

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