第12話
ダンジョンから出てきたのは朝だったが、すでにギルドは開いている。相変わらず、仕事熱心としか言えない。
「今回はどの階層まで行ったんですか?」
ギルドでルミンさんに聞かれる。実は10日ほど入っていたんだけど、ルミンさんは驚かなくなっている。
「今回は250階層まで行きました。倒したモンスターはこんな感じです。ギルドカード、オープン」
ギルドカードを見せて到達階層が250である事の証明と、倒したモンスターを見せる。
「もう250階層まで行ったんですね!それにレベルが162!?」
階層では驚かないけど、レベルでは驚くんだな。
「一体、どうやったらこんなにレベルが上がるんですか…」
「ひたすらに遭遇するドラゴンを倒しただけですけどね」
「すごい量を倒してますね」
ルミンさんが俺のギルドカードに表示されている、倒したドラゴンの数を見て言う。今回、俺が倒したドラゴンの数は2896匹だ。
「でもゼルスもキーサも、もっと倒して帰ってくると思いますよ。まだダンジョンに入ってると思うし」
「あぁ、お2人共、ダンジョンに入ってるんですね。ダンジョンのドラゴンに感情があるなら、タロウさん達が来るたびに戦々恐々としてそうですね」
微笑みながら言うルミンさんの言葉に、確かにそうだなと思う。俺だけでも2896匹を倒してるんだ。ゼルスとキーサなら俺の倍以上は倒してくるだろう。それだけ倒されて怖れないものはいないはずだ。まあ、感情があればの話だけどな。
それから素材と命石の換金を終えた。ちなみに今までのお金はギルドに預けている。普通なら持ち歩くらしいけど、俺は宿にはあまり泊まらないし、武器や防具を買う必要もない。回復薬などを買う必要もない。となれば、使うお金が限られてきて、貯まる一方なのだ。だからギルドに預けている。元の世界でいえば、銀行のようなものだな。
「ルミンさん、聞きたい事があるんですけど」
「なんですか?」
「今の俺の全財産でマジックバッグを買う事はできますか?」
「マジックバッグですか?」
「はい。袋が一杯になると、それ以上の探索ができなくて辛いんです」
「なるほど。マジックバッグがあればその点の問題は解決しますね。そうですね、タロウさんのお金だと………ギリギリで買えますね」
俺の持っている全財産を調べてくれた上で、ルミンさんはそう言ってくれる。
「本当ですか?!」
「ええ。でも、あまりお金が残らないですけど、大丈夫ですか?」
「はい。またすぐに貯めるので」
「確かに、タロウさんならすぐに貯められそうですね」
「マジックバッグが売っている場所を教えてください」
「ここですよ」
「え?」
「マジックバッグのような貴重な品は一般の商店には置いてないんです。過去に貴重品を目的とした強盗が多発しまして、貴重な品はギルドに置かれるようになったんです。安全な理由は言えませんけど、ギルドに保管するのは安全なんですよ」
「そうなんですか。それじゃあ、預けているお金を使ってマジックバッグを買います」
「分かりました。それではマジックバッグを持ってきますね」
そう言ってルミンさんは受付の奥に入っていく。数分後、ルミンさんは小さめの袋を持って出てきた。
「これがマジックバッグになります」
「小さいですね。どうやって使うんですか?」
「袋の口を開けて、入れたいものに触れて、『入れ』とか『入れる』みたいな気持ちをこめれば袋に入っていきます。実際にやった方が分かると思います」
そう言ってルミンさんは俺にマジックバッグとペンを渡してくれる。
「このペンを入れてみてください」
「はい」
俺はルミンさんが説明したように袋を開けてペンを持って、『入れ』と念じる。するとペンが消えた。
「成功ですね」
「あの、ペンが消えたんですけど」
「マジックバッグにものが入るときは、そんな感じです。袋の中に瞬間移動しているような感じですね。出す時は袋の口を開けて、出したいものと出したい場所をイメージしながら『出す』みたいな事を念じると、出てきます。今、入れたペンを出してみてください」
「はい」
袋の口を開けて手を前に出して、ペンをイメージしてから『出ろ』と念じる。すると掌の上にペンが現れた。すごいな。俺はペンをルミンさんに返す。ペンはギルドのものだからな。
「マジックバッグの容量は無限です。ただし生物を入れることはできません。誘拐などに使えるからです」
「確かにその制限は大切ですね。これで、もっと長時間、ダンジョンに入っていられます!」
「タロウさんの体力と能力なら長時間の探索も可能だと分かってるんですけど、それでもキリのいいところで帰ってきてくださいね」
「勿論です。ルミンさんに会う為だけに帰ってきますよ。ダンジョン探索をしていて思ったのは、早くルミンさんに会いたいって事ですから」
「そそ、そうなんですか!?」
俺の言葉にルミンさんは顔を赤くする。
「はい。それじゃあダンジョンに行ってきます!」
そう言ってギルドを出ようとした時、ギルドの出入口から1人の男(おそらく冒険者)が急いだ様子で入ってきた。
「大変だ!国の外の草原にドラゴンが現れた!真っ直ぐ、この国に向かってくる!」
「な、なんだと!?」
男の言葉にギルド内が慌ただしくなる。
「何事だ?」
受付の奥から1人の男性が出てきながら聞いてくる。
「ギルドマスター!草原にドラゴンが2匹出現、真っ直ぐこちらに向かってくるようです!」
奥から出てきた男はギルドマスターなのか。…強いな。受付のギルド職員が事情を話すと、ギルドマスターは驚いていた。
「ドラゴンがどうして…いや、それよりも冒険者諸君!ドラゴン討伐に向かってくれないか?見合った報酬は出そう!」
ギルドマスターは言うけど、誰も手を上げない。それどころかギルドマスターから目を逸らしている人が多い。当然の反応だな。ドラゴンは強い。ここにいる冒険者で闘えそうなのは俺、ゼルスとキーサ、あとは会った事がないけど、他のS級冒険者だけか。
「ゼルスとキーサはどこだ?」
「2人はダンジョンに行っています」
「ううむ…2人に状況を報せるのは難しいか。他のS級冒険者はどこにいる?」
「皆、国指定の依頼の最中で国外に行っています」
誰もいないのか。じゃあ俺が行くか。ダンジョンではなく、野生のドラゴンと闘ってみたいと思っていたところだ。
「俺が行きます」
「何?お前は?」
「俺はタロウ。Aランク冒険者です」
「タロウ、ドラゴンと闘う事はできるか?」
「はい。ダンジョンで倒しまくってますから」
ギルドマスターの問いに対して俺は自信満々に答える。
「タロウさんの強さは私が保証します。それに現在、レベルでもタロウさんは国で3番目です」
「それは本当か!?」
「はい!」
俺のレベルって国で3番だったのか。ゼルス、キーサ、その次に俺か。他のS級って、そんなにレベルが高くないんだな。
「それなら大丈夫だな。それではタロウ、お前にドラゴン討伐依頼を受けてもらう!ただ、無理はするな。倒せない場合は少しでも時間を稼いでくれ。ゼルスとキーサが戻れば、戦力になるだろう」
「分かりました。それでは行ってきます!」
さて、ダンジョン産ではないドラゴンか。どの程度の強さなのか…楽しみだ!
なるほど…強いな。
草原に着いた俺は前方から迫ってくる2匹のドラゴンを見て思った。大きさが10メートルはある。あいつらは強い。ただ、ダンジョンのドラゴンとは違って、真っ黒だな。それに飛ばないのか。
せっかく立派な翼がついているのに、ドラゴンはなぜか歩いて向かってくる。謎だ。
まずは恐怖の波動から試してみる。ドラゴンは少し立ち止まったが、すぐに歩き始める。
「恐怖の波動が効かないってことは、俺と同等か、それ以上の強さがある、か。苦戦しそうだな」
やがて俺の目の前まで来たドラゴンは立ち止まり、真っ赤な目で俺を睨む。
「よう、ドラゴン。最初に聞いておくけど、あの国に向かうのを止めてくれないか?」
一応、聞いてみる。俺はドラゴンと闘いたいけど、万が一、俺が負けて、ゼルスとキーサがダンジョンから戻っていなかった場合、国は壊滅的な被害を受けるからな。それなら、ドラゴンが国に行かない方が良い。しかし、ドラゴンは俺を睨みながら笑った。明らかに国を攻めないという選択肢はないと語っているようだった。ダンジョンのドラゴンと違って、感情があるみたいだな。
「そうか。だけどな、俺を倒さないと国には行けないからな!」
「「グアアアアッ!!」」
俺の言葉を受けて2匹のドラゴンが吠える。さあ、闘いの始まりだ!
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