第111話 赤い薔薇

 へっ、ハック、ヘックショーン

『花粉ですか?』「はい、そうです」

 CMのお姉ちゃんに答えるデバネズミ。

 振り返ると冷たい視線。

 マスクをして診察券を持って外出支度中の夫。

「早めに病院行って来る!」


 まさかのコロナウイルスですか?

 流行る前に持病の薬を貰って来るという。

 喘息患者には普通の風邪も命取り。

 常に高齢者レベルの危険が潜む。


「おはよう!朝ごはん何?」

 次は娘起床。朝ごはんの準備しなくちゃ。

「お母さん、これどうすればいい?」


「キャー、薔薇?しかも赤い薔薇。キレイ」

 娘から奪い取り、まだ在宅中の夫に見せる。


「あの子、貰ったんだって。彼から三ヶ月記念

 のお祝いだって。見て、キレイ」


 一瞬目をやり、微笑んで出掛ける夫。

 娘とは一言も言葉を交わさなかった。哀愁。


「どうしたいの?生花を楽しむの?それとも

 いきなりドライフラワーにする?」

「ドライフラワーにしようかな」


「何て渡されたの?何で?お母さんもお父さんに

 赤い薔薇の花貰ったんだよ!三十本の薔薇が

 届いたんだよ。カスミ草もあってね、もう

 可愛くてキレイで、嬉しかったな!それをね

 ドライフラワーにしたの。フフ」


 はしゃぐデバネズミに冷たい視線。

 朝ごはんの準備早くしなくちゃ。


 大きさは負けてるけど、数で勝った。

 きっと夫の薔薇の花の方が高かったはず。

 それだけ私を好きだったのよ、フフ。

 

 やった!娘に内緒で張り合うデバネズミ。

 大人げない幸年期。





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