第24話 カミソリの毛

 私は夫の顔が好きである。

口が裂けても本人には言わない。

ペットショップで目尻を下げている顔が

特に優しくて好きだ。本人には言わない。

可愛らしい。こんな狭い所で可哀想。

夫は動物にはとても温かい。

一年に一度は同じ目でデバネズミを見る。

優しくてどこか憐れんでいる。

夫の無精髭も好きだ。女子が山男に

惚れるのはきっとこの無精髭だろう。


しかし、このひげのせいでバトル発生。

「俺のカミソリ誰か使ったか?」

「使ってないよ。どうして?」

「太くて長い毛がついてる」

「ひげ伸ばしてたから、それじゃないの?」


首をかしげながら、夫は仕事に行った。


浴室にあるカミソリをよぉく見る。

ひげ剃り用のカミソリは持ち手が黒い。

間違えた。やってまった。


翌朝、帰宅した夫にすり寄るデバネズミ。

「ごめんね。私だった。カミソリ使ったの」

「髪の毛でもすいたのか?」


ブルブルと全身で否定する。

「最近ね、ホルモンのバランスが崩れてるの」

「知ってるよ。風呂場に抜けた毛が増えてる」


「そうなの。髪の毛は抜けるのよ。けど

つるつるだった足が、材木のように

ざらざらになって……。毛が伸びた」


何を言ってるんだコイツと言う目で

見られるデバネズミ。


「あれは、私のすね毛です」


優しくて憐れんだ目を向けられた。

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