例え、壊れゆく世界にいても

「祐太達いないんだけど……。」

 わたしはどこかにいる幼馴染みを探していた。

 どこいったんだよ……あの体育会系馬鹿達は……。人のことを運動神経悪いとか鈍いとか猪娘とか失礼極まりないことばっか言って……。

 祐太、だいたいわたしは運動神経悪くないからね。丁度平均ってとこですっ。まっあんたなんか何をやらせてもプロ並みだし。スポーツマンからしたらうちなんてへなちょこってもんですけど。

 義経なんかうちのこと鈍い鈍い言っているけど、自分は50メートル走9秒台だし、ずば抜けて遅い訳じゃないことくらい分かってほしい。

 まっ身軽ですばしっこい彼からしたらわたしなんてカメみたいなものかもしれないけれど。


 自分は身長162センチ。誕生日12月25日のやぎ座。


 こんな呑気なこと考えてる場合じゃない幼馴染みを探さなきゃ。

 この辺はどういう訳かゾンビが全くいない。

 勿論、人もいない。何故ならみんな避難所にいるから。


《あの近所に住むおばさんたちも》

 近所に住むおばさんからよく根も葉もない噂話を言われて辛かった。

 あのおばさんはわたしだけじゃつまらないからといって、両親や幼馴染み、亡くなった大好きなおばあちゃんの悪口まで言う始末だし。

 このときは自分が言われるより辛かった。


 本人達は自分が言われてるって気付いてないみたいだし。でも、わたしがおばさんたちに理不尽な事を言われてるって気付いていたみたい。

 けれど、自分達もいずれ避難所行きになるんだろう。

 その時は、がんばって耐えなきゃ。もう、誰にも心配かけないように、できるだけ明るく振る舞うことに決めた……。


 今から13年前、本山夫妻は、高知県から神奈川県へ引っ越してきた。

 その時、二人には赤ちゃんがいた。その赤ちゃんは生後10ヶ月で、名前は本山明日美。

 12月25日に生まれたやぎ座の女の子である。

 その隣の家には山崎一家が住んでいた。その家には4歳と一歳5ヶ月の男の子がいた。

 兄が一翔、弟が祐太。

 明日美の母親絵理奈は、祐太兄弟の母親、美奈と仲良くなった。

 ある日、明日美を連れて、絵理奈は美奈の家に行っていた。

「ところで、お宅の明日美ちゃん、今何ヵ月なの?」

「12月25日生まれの10ヶ月です。」

「そう。うちの祐太より七ヶ月年下ね。」

 すると、トコトコと1歳と4歳くらいの男の子がやってきて、明日美の顔を覗きこんだ。

 すると、一翔が

「このこ、あすみちゃんってゆうの?」

 と聞いてきた。

「そうよ。確か、あなた一翔君って言うのよね?」

「うん、ぼく、やまざきかずとだよ。」

 可愛いなと思った。うちの明日美も成長したらどんな感じだろうなと思った。

「へぇ~一翔君って言うんだ。いい名前だねぇ。弟君は?」

「やまざきゆうただよ。」

 一翔の指差した方を見ると、祐太が明日美と遊んでいた。

 すっかり仲良くなったようだ。

「あっごめんなさい、そろそろ帰るわね。」

 絵理奈は明日美を抱き抱えて玄関へと向かう。

「かえっちゃうの?」

 一翔が寂しそうに聞いてきた。

「明日美ちゃんは帰るんだよ。だから、バイバイしてあげてね。」

 美奈が彼の頭を撫でながら優しく言う。

「バイバイ、あすみちゃん」

「バイバイ、一翔君。」

 懐かしい……。どうしてあの子の幼馴染みまで愛しいと感じるのだろう?

 明日美、あの子は部屋から出てないけど大丈夫だろうか?様子を見に行こう……


「明日美?大丈夫?」

 絵理奈は我が子の部屋をノックした。

 コンコン……

 しかし、返事がない。心配は一気に増した。

「入る……わよ……?」

 我が子の部屋のドアを開けた。そこには、勉強机とベッドがあるだけ。

 いたって普通の勉強部屋だ。なのに、我が子の姿がない。

「明日美?明日美!!何処なの?」

 すると、机の上に手紙があるのを見つけた。

(お父さん、お母さん、うちは、祐太、一翔君、よっちゃん、すえ君、忠信君、継信君、伊勢君、里沙ちゃん、なっちゃんと一緒に、横浜へ行きます。ちょっとした用事なので、心配しないでください。

 明日美より)

「そんな……あなた、助けて、あの子達が……」

 絵理奈は慌てて自分の夫に助けを求めた。

 この騒ぎが起きた街を出歩くなんて、とんでもない事だ。

 平安時代末期、鎌倉時代生まれの彼らがゾンビの存在なんて分かる訳がないのに、

 第一、二十歳前後の年若い青年が、ましてや、十代の少年少女がゾンビパニックが起きた街へ用事があるからと言って行くのはとてもじゃない。この騒ぎで気がおかしくなった人に絡まれる恐れがあるし……。

 絵理奈は消え入りそうな声で、

「ちゃんと言っていたらいかせなかったのに……。」

 もう、どうしたらよいのか頭が真っ白で分からなくなっていた。からだの震えが止まらない。


 神様、どうか、どうかあの子達が無事でありますように……。


「ふぅーこれで10体倒した。」

 ふと、聞き慣れた声が聞こえた。振り向いて見ると、祐太達がいた。

「あ、明日美?」

「明日美ちゃん?」

「明日美殿?」

 彼らはうちが此処にきたことに驚きのようだ。

「探したんだからね……」

「え……なんで此処に来たんだよ……来なくてよかったのによ……」

 祐太の口から出たのは意外な言葉だった。自分が来ればみんな喜ぶと思っていた。

「心配だったの。祐太が一翔君が季長君が義経君が伊勢君が忠信君が継信君が。奈央が里沙が。みんなを置いとくのが嫌だったの。」

 いつだって自分はそうなんだ。誰かに助けられてばっかりで……。

「来てしまったならしょうがないや……。来てもいいけれど、明日美は俺達の後ろにいろ。危ないからな。」

「分かった。」

 祐太の言った通り、彼らの後ろに回る。

 出逢った頃よりも何年か前よりも広くなった彼らの背中にくっついているのは。なんだろう、彼らの側にいるのはとても安心する。

「無理しないでね、みんな……」

 すると、向こうからゾンビ50体が襲ってきた。

「来た来た。一人5体は倒さなきゃダメだね。」

 一翔が不敵な笑みを浮かべた。そして、弓から矢を放つ。その矢はゾンビの頭を貫いた。

 さすが弓道の全国大会優勝者なだけある。その腕前は素晴らしいものだった。

「こんなもの、平泉にも鎌倉にも居なかったはずだが……」

 義経が愛刀薄緑を抜いて斬りかかる。あっという間にゾンビの頭を切り落とした。

 わたしは大鎌を振り回してゾンビの動きを弱める。

 友里亜さんはゾンビの脳天にロングソードを渾身の力を込めて振り下ろした。

 その破壊力はゾンビの頭を砕いてしまった。

 ゾンビ50体はあっという間に倒されてしまった。

 でも、やつらはこれからもねずみ算式で増えていってしまう。

 ゾンビを増やしている元凶を破壊しない限りいくら倒してもきりがない。

「50体あっという間だったね。」

 別に誰かに答えてほしいという訳じゃないけど、思わず言ってしまった。

 馬鹿……。ロクに活躍していない奴が言う言葉じゃないよ。

 わたしの言葉に友里亜さんが代わりに答えた。

「だから言ったじゃない。あたしらのチームは最強。なんでも最強戦力が何人もいるんだから。だからあたしらのチームは絶対に負けない。明日美ちゃんだってそこそこ強いし。」

 そう自信満々に言った。

 でも……でも……足手まといのわたしなんていない方がもっと……。

「でも、明日美って最近武器の扱い上達したよな?」

「えっ?そうかなぁ?」

 普段なら運動神経悪いだの散々言ってくるくせに。

 すると、向こうから誰かが近づいてくるようだ。

 振り返ると、うちのお父さんとお母さんと祐太のおばあちゃんだった。

 自分達の姿を見つけるなり駆け寄ってくる。

「明日美……明日美、心配したのよ?」

 そう言われて泣かれたからたまらない。

「ごめんなさい……」

 あとは謝るしかなかった。










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