第4話 巡り合わせ

「なあ、アズウェル。ちょっといま俺、ひとりになりたくないんだけどさあ」

 全てが片付いた墓地の広場で、冠を外しながら、ケヴィンが声をかけた。

「うん、いいよ。一緒にいようか」

 墓地のはずれにあるベンチに、ふたり並んで座る。

 しばしぼーっと景色を眺めたあと、アズウェルが口を開いた。


「君が大司教に任命された日は、本当にびっくりだったよね。でも実はね、私も、自分が修道司教になったのは、相当びっくり人事だったと思っているんだ」

「へえ、そうなんだ」

 ケヴィンが意外そうに言うと、アズウェルは柔和に微笑み、懐かしむように話を続けた。


「ハースナーとウィントは、その時はもう花形の教区司教だったから、さしたる驚きはなかったけど。南東の何もない教区でのんびり仕事をしていただけの私が? って。最初は、かなりお断りしたんだよ」

「まあたしかに、東6は平和だよな。気候的に温厚な人が多いのかね?」

 ケヴィンが笑って言うと、アズウェルも笑って同意し、さらに表情を和らげた。


「でも、猊下とロレンソ司教の説得で、引き受けたんだ。大司教には年若き一神父が就く予定だ、君のサポートが必要だ、ってね。君を推したロレンソ司教の先見の明は、尊敬に値するよ」

「いやあ、ロレンソさんはマジですごいよな」

 ケヴィンは、二度三度、大きく頷く。


「そして、猊下のご決断も、きょうこの目で果名の儀を見て、絶対的に正しかったのだと思った。君はよく頑張った」


 アズウェルがケヴィンの横顔に向かって微笑みかけると、ケヴィンは遠くの方を見ながら、面ばゆげに、頭の後ろをガシガシと掻いた。


「正直なところ、もっと後味悪いかと思ってたけど、案外平気ってか、むしろ晴れ晴れした気持ちすらあるんだけど。俺、淡白すぎんのかな?」

「いや。君が大司教に選ばれたのは、そのメンタリティを買われたのだと思うよ」

 ケヴィンは、ふーんと言って、膝に乗せた冠を軽く撫でた。

 つられるようにアズウェルも、冠を見つめる。

「……とはいえね、やっぱり君も人間だからって言うのは、みんな知ってるから。サポートできることは、私たちもするよ」


 と言ったところで、アズウェルがふと墓地の入り口を見ると、全ての点検を終えたのであろうフェイが出て行くのが見えた。

 アズウェルは、ちょっと待っててと言って立ち上がり、フェイを呼び止めて駆け寄る。


 遠くでふたりが何かを話すのを、ケヴィンはぼーっと眺めていた。




 その後も、なんとなくアズウェルとだらだら喋っているうちに、太陽は上がり切っていた。

 ぽかぽかとした陽の光の下で安閑と過ごしていると、墓地の入り口から、青い詰襟が早足に向かって来るのが見えた――ラスターだ。


「大司教ー! 豆バーガーが手に入りましたよー!」


 両手に大きな紙袋を抱えている。

 一体どれだけ買ったのだろうと驚いたところで、その後ろから、蛇行するコポの姿が見えた。

 自分の背丈の倍はあろう、筒状に丸めた敷物を抱える姿を見て、ケヴィンは慌てて駆け寄る。

「おいおいおい、大丈夫か。貸せ」

「すみません。あ、後ろから両大陸司教とフェイさんも来ますよ」

 門の向こうを見ると、やはり大荷物を抱えた3人が連れ立っているのが目に入る。

「すげーゴツいメンツのピクニックだな」

 自分を気遣って皆来てくれたのだと分かり、自然と軽口が出た。




「ヤンバートル産のぶどう酒だ。飲んでみたいと言っていただろう」

「わ、マジで! わざわざ行ってくれたのか!」

 ヤンバートルは、以前、異教徒騒ぎの時に説教をしに行った、大陸南端の小さな町だ。

 ハースナーからボトルを受け取ると、植物のつるのような模様が彫られたガラスのボトルを、ぐるぐると回して見る。


 ウィントが袋からガサガサと取り出し並べているのは、ストロア王国名産の食用花を混ぜたサラダだ。

「ドレッシングは、エイザさんが持たせてくれたよ。彼女は気が利くね」

 慣れた手つきでナッツを砕きながら言う。


 黙ってグラスや皿を並べていたフェイは、食器が揃うと、小首を傾げてケヴィンを見た。

「きょうは羽目を外されても結構ですよ。私が責任を持って執務室までお運びしますので」

 そして、くすくすと笑う。

「ふぇ、フェイが笑った……」

 ケヴィンは驚きのあまり、目を丸くして絶句するが、我に帰りすぐに突っ込む。

「いや、運ぶなら執務室じゃなくて、私室にしてくれ」

 皆がどっと笑う。




 改めて、ひとりひとりの顔を見る。

 なんとも個性的な面々だが、それぞれが、無いものを補い合っている。

 誰も欠かすことはできないし、皆がお互いを必要とし合っている。

 この縁を巡り合わせた神に、感謝の気持ちが溢れてくる。


「これで揃ったかな」

 アズウェルがぐるりと見回し、皆、グラスを持つ。

「それでは、糧に感謝を」

「かんぱーい」


 朗らかな春の空に、杯をかざした。


<終>

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