神学校の研修

第1話 神学校からの要請

「失礼します、本日の書類が届いております」

「うえ、もうそんな時間か」

 見習い修道士のコポが部屋に入ってくると、両手で抱えたカゴの上には、彼の目線が隠れてしまうくらいの書類が山積みになっていた。

「おいおいおい、大丈夫か?」

 ふらふら蛇行するコポから、ひょいとカゴを受け取る。

「久々に凄まじい量ですね。頑張ってください、では」

 薄情にもさっさと部屋を出て行こうとするコポの首根っこを掴む。


「何するんですか! 離してください!」

「仕分けだけでも手伝ってくれ!」

「あらかた分けておきましたよ!」

「もうちょっとだけ!!」

「嫌です!!」


 じたばたと足をばたつかせて、ようやく解放されたところで、きっと睨む。

「全部急ぎですよ」

「特にどれとか聞いてないの?」

 コポは、はあと深いため息をつき、カゴの中身を取り出し始めた。


「この書簡はストロア王国からで、その下の10部くらいは、今月の東教区分の祈祷料の会計書。その下は、神学校からですね。ぱっと見たところですが、学生の研修要請のようです。あとは、――」


「……ごめん、聞いた俺が間違ってた。自分で見ます」

「分かればいいですよ。では」


 静かになった部屋で、カゴと対峙する。

 とりあえずストロアからの手紙を開けてみたが、残念ながら、親友のマルセル王からではなく、大臣からの用事だったので、パス。

 会計書、問答無用でパス。

 問題の「神学校から」という、特に分厚く結われた書類を手に取る。



――大司教 ケヴィン・オズウォード様


毎年恒例の、学生研修をお願いしたく存じます。


希望は以下の通りです

・希望日:白月暦865年 3月23日

・学生内訳

 神学科 男子5名/女子5名

 剣術科 男子4名

 魔術科 女子2名

 普通科 男子1名

 帝王学科 男子1名

 計18名


よろしくお願いします。


神学校 学長 モーリス・モルガン



「ふーん。今年は大所帯だな」


 ゴブレット教唯一の神学校は、大陸の真ん中にある。

 代々、教区司教以上の者の多くは、この神学校を卒業後に洗礼を受けて、聖職に就いている。

 もちろん、地域の一般的な学校を出て神父になることもできるし、現場たたき上げで出世していく者もいるが、やはり、"宗教のための技術" を専門に教育を受けた者の方が、教会内の仕事には向いている。


 今年は神学科が10名。

 研修に来るのは優秀な生徒なので、豊作なのだろう。




 まずは、執務室を出て、階段を降りていく。

 向かうのは警護隊待機室。

「フェイいるー?」

「はい」

 壁に貼った大陸地図の前で腕を組んでいた、フェイ警護隊長が、こちらへ振り向いた。

「何か」

「神学校から研修の要請が来たんだ。3月23日、どうかな?」

「何名ですか?」

「2人」


 フェイは、口をつぐむ。

 分かっている、どう見てもこいつは、人に教えたりするのが苦手そうだ。

 昨年まではラスターが警護隊長で、話が分かりやすいと好評だっただけに……


「率直に申し上げまして、人選は慎重に考えた方がよろしいのでは?」

 あまりに手加減のない断り方で、思わずケヴィンは、表情を硬くする。

「いや、別に難しいことはないよ。宿舎内を見学させて、隊の組織とか説明して、ちょろっと剣の稽古でもつけてあげたらどうかな」

 朗らかに提案してみるも、フェイは、動じることもなくすっと目を細める。

「人には適材適所というものがあります。そういう仕事は、私よりラスター補佐官の方が適任ではないかと」


 頑張れ俺、ここで負けてはいけない。

 自分を鼓舞しつつ、大仰に両手を広げて話を続ける。


「なあに、ラスターみたく面白おかしく話さなくたっていいんだよ。普通科高校出身のラスターより、お前の方が神学校の事情は分かってたりとか、近衛隊長も歴任してる分、どっちの説明もできるだろ? 学生的には、お前も十分魅力的だよ」


 陽気にはははと笑ってやると、フェイは諦めたように、目を伏せて細く長いため息をついた。


 1人目、攻略。

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