第4話 短剣、出来上がり!

「おつかれー。いいのあったー?」

 トンネルから出てきたバイソンに声をかけた。

「おう! いくつかあって、ケヴィンに選んでもらおうかとも思ったんだが、最後の最後でどえらいのに出会ったもんでね。それ一択だ」

 手に持った革袋から取り出したそれは、バイソンの大きな手のひら大の原石だ。

 幾重にも白い筋が入り、さながら、水脈のようである。


「ほー、どれどれ」

 ケヴィンが手をかざし、軽く、風を起こす呪文を唱えてみる。


――ぶわっ


 風圧で、長い前髪が八方にばらけた。


「うおあ! やべ、原石だと思って油断してた……あっぶねえ。めちゃくちゃ効くなこりゃ」

「磨けばもっとすごくなるぞ」

 バイソンは石を袋に戻し、サックの中へしまった。


「あ、行商人の人と話してきたよ」

「おお、会えたのか! とっちめてきてくれたかい?」

「いやあ、全然悪い人じゃなかったよ。むしろ、気が小さいせいで全部がうまくいってないみたいな感じ」

 ケヴィンは、喫茶店での会話をかいつまんで話した。


「……というわけで、気弱なせいで正規の入手ルートが開拓できず、自信がないせいでインチキみたいな安い値段で売ってたって感じ」

「なるほどなあ」

「面倒見てやってくれる?」

 ケヴィンが尋ねると、バイソンはケヴィンの肩に手を回して、豪快に笑った。

「もちろん構わないさ! いや、気に入ったよ。女房と子供を置いて一旗上げになんて、根性あるじゃねえかい」

「よかった、じゃーよろしくな。明日そっちに行くように言ってあるから」

「おう、任せとけ」

 バイソンから渡された仮の短剣と引き換えに、自分の短剣を預け、聖大教会へ帰った。




 そして1週間後。


「ごめんくださーい」

 ケヴィンが再びバイソンの元を訪れると、部屋の奥から現れた巨体は、やたら機嫌が良さそうだった。

「待たせたな、ほら」

 手渡された短剣は、手に取るだけで、ゆるく魔法力を放っているのが分かる。

「さっすが。すげーよ、いままでと全然違う」

 つるりと丸い黒曜石は、まるで光源を吸い込んだように、艶々と深い漆黒の光を放っている。

「大丈夫だとは思うが、万が一なんか不具合があったら、また持ってきてくれ」

「うん、分かった。ありがとな」


「あ、それと」


 バイソンは何かを思い出し、ばたばたと部屋の奥へ引っ込んで行った。

 そしてほどなくして、細長い小箱を持ってきた。

「これ、お前さんに」

「ん?」

 蓋を開けてみると、ネックレスだった。

 銀の細いチェーンに、小指の爪ほどの小さな鳥が、水色の宝石を抱えている。


「ほら、例の行商人の。問屋を紹介してやったら、その日のうちに職人の組合に引き抜かれてよ。即戦力で、大口の客相手に銀細工をやってるらしい。力がついたら独立して、ふるさとのカカァと子供を呼び寄せるんだと言って、息巻いてたよ」


 バイソンはそう言って、かっかと笑う。

 ケヴィンは、箱からネックレスを取り出し、電灯にかざしてみた。


「俺のために作ってくれたのかな?」

「そうだよ。誰か女の子に……はまずいだろうから、おふくろさんにでも贈ったらどうだ?」

 ペンダントヘッドを、まじまじと見てみる。

 そういえば母は、子供の頃にインコを飼っていたと言っていたような……。

「分かった。今度時間があるときに顔出してみるよ」

「喜ぶだろうな。滅多に里帰りもしない息子が、銀細工なんか持って帰ってきたらさ」




 ケヴィンの故郷・モニカは、ホーロバールから東へ10分ほど歩いた位置にある。

 東西教区の境界線を挟んで隣の、大きな港町だ。

 西のホーロバールの鉱石は、東のモニカの港を介してやりとりされるため、顔なじみになる者も多い。

 船の積荷を下ろす父親と、旅客船のチケットもぎをする母は、揃って顔が広く、バイソンとも家族ぐるみの付き合いがある。


「どのくらい帰ってないんだ?」

「んー、去年、姉貴の結婚式に出たっきり」

「そりゃ親不孝者だな」

 バイソンは、笑いながらばんばんとケヴィンの肩を叩いた。

「美人の母さんが泣いてるぞきっと」

「さあね。減らず口の息子が静かだとか言って、案外せいせいしてたりして」

 ケヴィンが冗談めかして言うと、バイソンはさらに強く肩を叩き、思わずむせた。


「まあ、うん、そうだな。近々行くことにする」

「おう、親父さんにもよろしく言っておいてくれ」



――ネックレス、確かに受け取りました。

お心遣いありがとうございます。

故郷の母に贈りたいと思います。

あなたとご家族のご健康をお祈りしております。

ケヴィン・オズウォード



 バイソンに手紙を託し、ホーロバールの町を後にする。


 新しい短剣の使い心地は、もちろん関所の扉がばっちり開き……ますます執務室に帰りたくないなと思うのであった。


<終>

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