短剣と魔法のジュエリー

第1話 壊れちゃった

「あれ、調子悪いなー」

 扉のくぼみに短剣をはめこみ、がちゃがちゃと揺すりながらぼやく。


 礼拝堂地下の魔法陣への扉は、一般人が入れないよう、司教以上の者に授けられる短剣をはめこまなければ、開かないようになっている。

「うーやばいなー。本格的にぶっ壊れる前に、修理行かねえとかなあ」

 何度目かのトライの末ようやく外れた鍵を回しながら、頭をがしがし掻いた。


 執務室に戻ると、ラスター補佐官が、ローテーブルにスケジュール帳を広げて、ウンウンと唸っていた。

「あ、忙しい?」

「はい、とても」

 顔も上げずに即答する。

「私じゃないですよ、大司教が忙しいんです」

 ラスターは、スケジュール帳を片手に立ち上がり、ほぼ真っ黒けに細かい字で埋められたページを見せた。

「来週までパツパツです」

「あう」

 言いづらい、非常に言いづらい……でも、どうしようもない。


「あー、あのさ。実は、短剣の調子が悪くて、修理に行きたいんだよなあ」

 恐る恐るチラリとラスターのことを見ると、思い切り眉間にしわを寄せていた。

「さっきも、魔法陣の扉が開かなくて」

 肩をすくめ、極めてナチュラルを装ってみた。すると。


「それはまずいですね。いましか空いてませんから、いますぐバイソンさんのところへ行ってください」

「いま!?」

「そうです、さあ行った行った」


 ぎゅうぎゅうと背中を押され、執務室を追い出された。




 バイソンは、教会御用達の鍛冶屋だ。

 大柄で、いかついスキンヘッド。

 初対面で怯えられることもままあるが、豪快によく笑う、人情味あふれる人物だ。


 ケヴィンがのれんをくぐると、むあっと暑い部屋の奥で、金属同士の当たる音が響いていた。

「ごめんくださーい」

 キンキンという音が止まる。

「お? その声は」

 猫背に体を丸めていた大男は、体ごとぐるりと振り向き、ケヴィンの姿を見つけ、声を上げた。

「珍しいじゃないか! よく来たな」

 バイソンは、前掛けのほこりをパンパンと払いながら、笑顔で歩み寄ってくる。


「いやあ、どうも短剣の調子が悪くてさ。さっきも扉の鍵が開かなくて。ちょっと見てよ」

 短剣を差し出すと、バイソンは、どれどれ、と言いながら手にとって眺めた。

「ああ、石と本体の継ぎ目が浮いてるな。ほら、ここだ」

 バイソンが指差したところを見ると、たしかに、黒い魔法石と本体の間に、数ミリの隙間が空いている。


「すぐ直る?」

「そうだなあ……」

 短剣をぐるぐると回しながら、あちこち点検する。

「まあ、隙間を埋めるだけなら3時間もあればできるんだがよ。石の魔法力自体も弱まってる感じがしねえかい?」


 思い返してみると、先日の祈祷時にも途中で魔法力が弱まったことがあった。

 自分の集中力が足りないものと思い、反省すべく、夜中にギンギンに冷やした聖水を頭からかぶって、翌日くしゃみが止まらなかったのを思い出した。


「たしかに、たまに祈祷の途中で途切れたりとかあった」

「石自体を交換しちまった方がいいな。どれ、山まで一緒に取りに行くかい?」

 おう!……と言いかけたところで、ラスターの顔が浮かび、思わず口がへの字に曲がる。


「ああ、大司教さまは忙しいわな。じゃあ俺がいっちょ行っ……」

「いやあ、行く行く! 俺も行くよ! 自分の目で見て選びたいし!」

 慌てて両手を胸の前で振る。


「行って選んで帰って……半日はかかるが大丈夫かい?」

 バイソンが首をかしげると、ケヴィンはうんうんと頷いた。

「ここで妥協して、数年間納得いかない石で過ごすのもやだしな」

「よし! そうと決まれば、さっさと準備して行こう」


 そう言ってバイソンは、ツルツル頭を撫でながら部屋の奥へ入って行った。

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