第3話 どうだ、参ったか

 10分ほどで、目当てのハーブ園に着いた。

 呪いの元凶はあらかた予想がついているが、畑の周りにあるとは限らず、若干途方にくれる。

「すげえマニアックな洞穴の中とかだったらどーしよ」

 独り言を言いながら、捜索を開始する。……と、ものの2分ほどで、それは見つかった。


「誰だろうねえ、こんな悪趣味な遊びをした奴は」

 ケヴィンの足元には、円形に並べられた小石と、小枝が数本、組まれていた。

「ほい」

 小石をひとつ、蹴ってみる。これで陣形が崩れれば見事、呪い解除。のはずが。

「あれ、思ったよりしぶてーな」

 小石は根を張ったように動かない。

「仕方がない、待ちますか」

 ポケットに入れっぱなしにしていた、紙袋を取り出す。コロッケ屋でついでに買った、豆をのしたせんべいだ。

 いくつかに割って、周りに撒いたあと、小石の近くであぐらをかいた。


 しばらくそのままでいたが、10分ほどすると、森がざわざわとしはじめた。

 ガサガサと、低木が揺れる――せんべいの周りだ。

「おーしおしおし、出ておいで」

 ケヴィンは、短剣を携えて、音のする方へ近づく。

 1匹の猿の魔物と目が合った。

 額には朱色の菱形紋様があり、手足の先は複雑にいばらが絡んだのような毛色をしている。

「お前か、アホないたずらしたのは」

 短剣についた黒い魔法石を撫で、さっと振りかぶり、空を切る。

 真っ直ぐな刃となった風は、正確に猿の額に当たった。


「キィィィィ!!」


 もう一振り。

 ヒュッという風の音と共に猿の金切り声が響き、猿は地面を這って、のたうち回った。

「どうだ! 参ったか!」

 子供のチャンバラのように言って猿を見ると、まもなくそれは、息絶えた。

 右手をかざし、小さく詠唱する。亡骸は白い飛沫となって霧散した。

「ほい、いっちょあがり、っと」

 短剣を懐へしまい、再び小石の陣形のところまで移動する。

 蹴ってみると、石は簡単に転がった。

 ついでなので適当に蹴散らして、念のため、杯字を切った。


「じゃ、探しますかー」

 ケヴィンは、前かがみになりながら、地面に目を凝らしていく。

 小さな山ではあるが、平地とは違う生態系なのだろう。見慣れない草花がいくつもあった。

 適当な花を見繕って、麻袋に詰めていく。

 片手いっぱい程度の量になったところで、元来た道を戻った。




「大司教さま! 主人が、主人が治りました!」

 家に入るなり、泣き出さんばかりの勢いの母親が、駆け寄ってきた。

「うなっていたと思ったら、急にすっと顔色が良くなって、嘘のように起き出してきたのです」

 おそらく、陣形の呪いを解いたのと同時に、主人にかかった呪いも解けたのだろう。

「お役に立てて良かったです」

 ほっとして微笑むと、部屋の奥から主人と子供が出てきた。

 すっかり顔色が良くなった主人は、笑顔で頭を下げ、子供は遠慮がちに、手製のどんぐり駒を手渡した。


「また何かありましたら、いつでも、教会へ来てください」

「はい、本当にありがとうございました!」

 涙ぐむ母親にもう一度微笑みかけ、ケヴィンは、教会へ戻った。




「……そういう事情なら仕方がないですね。でも、そうならそうと、修道士にことづけてくだされば、私もこんな風に気を揉んだりしなかったのですけど」

 ラスターはため息をつきながら、デスクの上の書類を、ずいと真ん中へ寄せた。

「悪い悪い」

 ニヘラと笑うケヴィンは、話を聞いているのかいないのか、本棚から適当な本を取り出してきて、麻袋の中身をせっせと広げていた。

「何をなさっているのですか?」

 ラスターが覗き込むと、ケヴィンは、数ページおきに花を挟んでいた。

「押し花を作るんだ」

「へえ、大司教にそんなご趣味があったとは」

 ラスターは感心したように言ったが、ケヴィンは、こんなんやるの初めてだよ、と言って笑った。

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