第2話 ご主人の容体

『ハーブと香油の店・ガレシア』

 小さな家の正面に、こぢんまりとした看板が掲げてあった。裏側に回って、住居の扉をノックする。

 すぐさま扉が開き、先ほどの母親がぺこぺことお辞儀をした。


「わざわざご足労いただいてしまい、本当に申し訳ありません」

 狭い廊下を進むと、奥の方から、小さなうめき声が聞こえる。

 寝室だという部屋に入ると、ベッドの上で、小太りの男が何度も寝返りを打っていた。

 額には、玉のような汗が浮かんでいる。

「これはいけませんね」

 すぐさま駆け寄り、持っていたハンカチで額を拭い、手を当てた。かなりの高熱だ。

「このように寝苦しそうにしている時もあれば、口を紫にして全く動かない時もあり、目が離せません」

「なるほど」


 ケヴィンは、主人を仰向けに寝かせ、心臓のあたりに手をかざした。

 詠唱をすると、主人の体全体が、緑色の光に包まれる。

「……ふむ」

 それでも、ケヴィンの表情は険しい。

「ただの回復ではだめですね。ではこちらか」

 もう一度詠唱する。今度は黄色い光が体を包んだ。しかし。

「これでもだめですか。どうやら、ご主人がかかっているのは、毒ではなさそうです」

「え!」

 不安げに見守っていた母親が、小さく声を上げる。

「おそらく、何らかの呪いでしょう。いくつか試してみますので、しばらくわたしにお任せください」

「分かりました」


 ケヴィンは、片っ端から呪いを解く呪文を唱えていった。

 一般的にかかるであろう呪いは一通り試したが、効きはよくない。

「どうやらこの呪い、ご主人にではなく、呪いを "かけた側" を解かないといけない種類のもののようです」

「……どうすれば良いのでしょうか?」

 ケヴィンは、不安げに尋ねる母親と、母親のスカートを握りしめて隠れている子供を交互に見て、穏やかに笑った。

「わたしがその山へ行ってきます」

「……! わざわざ、よろしいのですか?」

「もちろんです。でなければ、解けませんので。どの辺りですか?」

 母親は、夫婦が栽培しているハーブ園の地図を見せた。


「山の入り口へは、家の裏手から道沿いに行ってください。そこから、獣道をならした程度の細い道がありますので、ロープ伝いに5分ほど進んでいただければ、着きます」

「わかりました」

 ケヴィンは、母親から地図を受け取り、懐へしまった。

「ちなみにですが」

「なんでしょう?」

「ハーブ園の周りに自生している野草があったら、摘んでも構いませんか?」

 母親は一瞬ぽかんとしたが、もちろんです、と言ってこくこく頷いた。


 では、と言って、ケヴィンは、山へ歩きだした。

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