西大教会の催事

第1話 苦手な人

 基本的に人当たりの良いケヴィンだが、中には少々苦手なタイプもいる。

 それが、教王付き近衛隊長のフェイだ。


「大司教?」

 宿舎の廊下を歩いていると、後ろから声をかけられた。

 振り向かなくても分かる、独特なハスキーボイス――フェイだ。

「はい、なんすか」

 恐る恐る振り返ると、澄ました顔でこちらを見ていた。

「ケープが乱れています」

 細く長い指で、ささっと直される。

「あう、どうも」

 教王警護の最後の砦……にしてはどうにも線が細く、腰など叩いてしまえばすぐに折れそうだ。


「あしたの西大教会の催事ですが、ラスター隊長の代役で、私が1日ついて回ることになりました。よろしくどうぞ」

「代役?」

「はい、大司教について回ります」

 正直、やだなと思った。

「え、ラスターはどうしたのさ」

「西の警護隊が別件に当たっていて、手薄なんだそうですよ」

 なるほど。

 普段何かとケヴィンの世話をするラスターだが、本業は警護隊長だ。

 そういう事情であれば、指揮を執らねばならないのは致し方ない。


「別に俺に警護なんて必要ねえよ? ハースナーに言われた、ただのお菓子配り係だし」

「何をおっしゃいますか」

 フェイは目を細め、すっと体を寄せ、耳元で囁いた。

「無防備に不特定多数の前に出て……暗殺されかねませんよ」

「暗殺……?」

 体を引き、真顔のまま小首を傾げて言う。

「もう少し自覚をなさったらどうです? 大司教という立場も、その見目麗しいお姿も。では」


 ……ケヴィンは、どうにもこうにも、フェイが苦手だ。




 催事は2ヶ月に1度、聖大教会、東西大教会の3カ所で、順番に行われる。

 メインはバザーで、修道士やシスター、ボランティアが作った小物の販売と、飲食の屋台もいくつか出る。

 人気なのは神父体験コーナーで、終わると菓子がもらえる――この菓子配りを、ケヴィンが手伝うというわけだ。

 利益が教会の運営費に回るのと、信者以外の近隣住民も足を運ぶのもあり、皆が楽しめるよう、毎度入念な準備がされる。


「まあ、よくお似合いですわ」

 たっぷりギャザーを寄せた首元に、小ぶりな黒の蝶ネクタイ。明るい緑色のチョッキと、くるぶしが見える丈のクロップドパンツ。足元は、先が丸い黒の革靴を履いている。

「ほー、うまくできてるな」

 シスターのエイザ特製の衣装、今回のテーマは『元気な郵便屋さん』らしい。

「帽子もありますよ。ほら」

 前髪を雑に分けて撫で付け、ベレー帽をかぶせられる。


「あ、あとこれも忘れてました」

 どこから取り出してきたやら、カラフルな風船を3つ、ベルトにくくりつけた。

「え、これ要る!?」

「お菓子配りの雰囲気が出て、いいですよ」

「ぶ……!」

 神妙な面持ちで見ていた、見習い修道士のコポが、耐えきれずに吹き出した。

「こらお前、見世物じゃねーんだぞ」

「み、見世物でしょう……」

 小刻みに震えながら必死に笑いをこらえているが、コポの言う通り、これは見世物である。菓子を配るのだから。


「ちびっこ人気を取るならこれかなと思ったのですが……もう少し上品な方が良ければ、一応こんなのも作ってありますよ」

 面白みには欠けますけどね、と付け足しながら広げたのは、黄色い造花がいっぱいの、花かごだった。

「全身緑よりかは、差し色があった方がよろしいかと」

 ニコリと笑うエイザを見て、ケヴィンは、しばし固まったあと

「こっちでお願いします……――」

 消え入るような声で、花かごを手に取った。

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